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小話 騎士団に報告

(乙女心をお持ちの方は、この話は飛ばしてください)


「俺、魔法が使えるようになりました」

日曜日、騎士団の訓練後にそう伝えると、皆は大盛り上がりしたあと俺の頭を順番になで始めた。

「良かったなぁ」

知っている人にそう言ってもらえると、心に来る。

「……ありがとうございます」

「てことはデューイは、卒業後はここには来ないのか」

「デューイはもともとオスター家だからこっちには来ないって」

騎士団は東部訓練場と西部訓練場を使う二つの部隊に分かれていて、俺の家は反対側だ。

「あ、そっか」

「それにしても、魔法が使えるようになったってことは――将来は貴族の奥様の愛人か」

「違います」

「いいなー!」

いいなという叫びが次々に上がる。いいのか?


 まるで競うように、主張する皆の姿を見守っていると、

「デューイ」

呼ばれて振り返ると団長だ。

「ラッセルには言ったのか?」

「手紙を送りました」

ラッセル兄の友人のこの人は、俺が兄に会いづらいという気持ちを知っている。

「そうか」

団長は少し遠くを見ながらつぶやいたあと、愛人話で大盛り上がり中の騎士団員の一人を「デッセン!」と大声で呼びつけた。

「なんすか、団長」

デッセンさんがこちらにやってくる。

「お前今日、これから行くって言っていたよな? デューイも連れて行ってやれ」

行くって、どこに? そう考えていると、デッセンさんがにやにやとこちらを見下ろした。

「団長のおごりですか?」

「そうだ」

その言葉にデッセンさんが口笛を吹く。

「デューイ良かったなぁ! 今日は一番高いところに行こう」

「デッセン。おごるのはデューイだけだ」

「いいじゃないっすかぁ……」

デッセンさんはそう団長に文句を言ってから、瞬時に戻ってきた笑顔で俺の肩を叩いた。

「じゃあ行くか! 準備しよう」

そう言われて肩を引っ張られる。ちょ、ちょっと待て――

「待ってください!」

俺が叫ぶとデッセンさんは止まった。そして何だと俺を見る。

「行くって……」

いや、もう分かっている。俺も行く場所など分かっているが確認をする。

「お前、男が記念に行くとこって、そりゃ決まっているだろ」

肩を掴まれたまま、何を言っているんだと見下ろされる。い、いや、そうだが……騎士として、そういうところに行って、お金を払って女性とそういうことをするのは――

 そう必死に考えていると、団長の声がかかった。

「おい、デューイ。ラッセルも行っていたぞ」

「へっ!?」

驚いて喉から変な音が出た。

「ラッセルは騎士学校時代に、嫌みなほどそれはそれは女に人気だったが、『騎士たるもの女性に恥はかかせられない』と真面目に教えを請いに行っていた」

教えを請う――

「身内のそういう話、聞きたくなかったっす……」

団長にはそう言ったが、ラッセル兄が言いそうな言葉ではあった。


 あのラッセル兄が行った。だけど、兄が行ったからといって俺がどうこう――

 俺の頭が必死にどうすべきかを考えていると、団長が優しく俺を見つめながら口を開いた。

「初めてで緊張のあまり満足な働きができなかった自分に対して、同じく初めての女が申し訳なさそうに、『私に魅力がなくて、ごめんなさい……』と――」

「行きます」

団長さんとデッセンさんを順に見つめて頷いた。

「行きます」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 意気揚々と出てきたデッセンさんが、立ったままにやにやとしながら椅子に座った俺を見下ろした。

「デューイ。どうだった?」

「ど、どうって……」

そう言いながら、さっきまで自分が見ていた白い光景を思い出して目を逸らす。

「ちゃ、ちゃんと一から教えて貰ったと思います……女性に恥をかかせずには済むかと……」

そう真面目に結果報告すると大声で笑われた。




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