小話 王都騎士団
(センパイがスクロールを書き続けていた2週間の間の話です)
今日は日曜日。学院が休みの日。
そんなわけで、俺は学院の近くにある王都騎士団の東部修練場にやってきた。
「ちわーっす!」
元気に挨拶をしてから、すれ違う人に全員に頭を下げる。俺は忘れたことがないが、これを忘れると、本当に鉄拳が飛んでくる。まずはいつものように団長に挨拶に行った。
「おはようございます。団長」
「おー、デューイ。旅行は楽しかったか?」
「はい。よければこれを」
お土産を買う暇などなかったので、センパイに頼んで分けてもらった飴を渡す。団長は、「あとで頂く」とその綺麗な箱を横に置いた。
俺はここの正規団員ではなく、訓練に参加させてもらっているだけの訓練生だ。兄の友人であるこの団長の好意で、特別に参加させてもらっている。
「よろしくお願いします」
今日もしっかり礼を言ってから、剣を持って訓練場に向かった。
騎士団といっても、王都騎士団は実戦はほとんどなく,たまに現れる手強い盗賊退治くらいだ。それでも王都に騎士団というものが存在しているのは、国防の最後の守りの要というものもあるが、本当にごく稀に国内に発生する『闇の魔物』に備えてというのが大きい。
ただ、実戦がないとは言え、王都騎士団には王都の騎士学校出身の人が多いため、訓練はハイレベルだ。学院のある平日は参加できない俺は、何とか付いていくために今日も限界まで走って、そして剣を振った。
鉛が詰まったように、腕が重い。頭に濡れたタオルを乗せて休んでいると、団長がやってきた。
「お疲れさまです」
団長を見て、周囲の皆がそれぞれ挨拶をする。団長が俺の前で足を止めた。
「デューイ。休んでいるところ悪いがこれは何だ」
団長が持っているのは、先ほど俺が贈った飴の入った箱だ。
「飴です」
「飴……?」
団長は俺と同じ騎士家出身だ。平民ではないためもしかして知っているのかと思ったが、やはり知らないようだ。
「舐めると甘いお菓子です」
団長は、首を傾けながら一つ口に放りこんだ。そして、盛大に眉間に皺を寄せている。
「何だこの甘さは……」
団長には甘すぎたらしい。団長のその顔に、周囲の皆が一つくださいと団長のもとに集まっていた。すごくおいしいという人と、甘すぎるという人は半々というところだった。
「デューイはレザリントに行ってきたんだよね? こんなのがあるの?」
俺と同じように飴を絶賛していた騎士団員のポウルさんが、俺に聞いてきた。
「いえ、レザリントでは何も買わなかったので、友人に頼んで貰いました」
「友人?」
正直に言うか言わないかでしばらく悩んだが、まぁいいかと正直に言う。
「アーチモンド家の方です」
「アーチモンド家。アーチモンド伯爵家……」
周囲からひそひそとつぶやく声が聞こえる。俺のオスター家にとってアーチモンド家が雲の上のお方だったように、ここらにいる王都出身の皆にとってもそうだ。
「アーチモンド家に頂いたものを今オレは食べている」
ポウルさんはそう言いながら、団長が持っている箱にもう一度手を伸ばしていた。
「アーチモンド家の方ってどんな感じ?」
飴を口に含んだままのポウルさんにそう聞かれて考え込む。センパイは――
「まぁ、変わった人です」
これまで俺が遭遇しなかったようなタイプの人だ。これまでどころか、これからも絶対にないだろう。
「でも、ミラは――妹の方はしっかりした子です」
『しっかりした子?』、『デューイ坊やが、俺たちの姫を呼び捨てにしてるぜ』と、皆は俺をちらちら見ながら噂している。
「可愛い?」
そう聞かれて、何のためらいもなく頷いた。
「はい」
「シャーッ」と皆は歓喜の声を上げて、己が主のためにそれぞれ立ち上がって素振りを始めた。