表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/38

小話 王都騎士団


(センパイがスクロールを書き続けていた2週間の間の話です)


 今日は日曜日。学院が休みの日。

 そんなわけで、俺は学院の近くにある王都騎士団の東部修練場にやってきた。

「ちわーっす!」

元気に挨拶をしてから、すれ違う人に全員に頭を下げる。俺は忘れたことがないが、これを忘れると、本当に鉄拳が飛んでくる。まずはいつものように団長に挨拶に行った。

「おはようございます。団長」

「おー、デューイ。旅行は楽しかったか?」

「はい。よければこれを」

お土産を買う暇などなかったので、センパイに頼んで分けてもらった飴を渡す。団長は、「あとで頂く」とその綺麗な箱を横に置いた。


 俺はここの正規団員ではなく、訓練に参加させてもらっているだけの訓練生だ。兄の友人であるこの団長の好意で、特別に参加させてもらっている。

「よろしくお願いします」

今日もしっかり礼を言ってから、剣を持って訓練場に向かった。



 騎士団といっても、王都騎士団は実戦はほとんどなく,たまに現れる手強い盗賊退治くらいだ。それでも王都に騎士団というものが存在しているのは、国防の最後の守りの要というものもあるが、本当にごく稀に国内に発生する『闇の魔物』に備えてというのが大きい。

 ただ、実戦がないとは言え、王都騎士団には王都の騎士学校出身の人が多いため、訓練はハイレベルだ。学院のある平日は参加できない俺は、何とか付いていくために今日も限界まで走って、そして剣を振った。


 鉛が詰まったように、腕が重い。頭に濡れたタオルを乗せて休んでいると、団長がやってきた。

「お疲れさまです」

団長を見て、周囲の皆がそれぞれ挨拶をする。団長が俺の前で足を止めた。

「デューイ。休んでいるところ悪いがこれは何だ」

団長が持っているのは、先ほど俺が贈った飴の入った箱だ。

「飴です」

「飴……?」

団長は俺と同じ騎士家出身だ。平民ではないためもしかして知っているのかと思ったが、やはり知らないようだ。

「舐めると甘いお菓子です」

団長は、首を傾けながら一つ口に放りこんだ。そして、盛大に眉間に皺を寄せている。

「何だこの甘さは……」

団長には甘すぎたらしい。団長のその顔に、周囲の皆が一つくださいと団長のもとに集まっていた。すごくおいしいという人と、甘すぎるという人は半々というところだった。


「デューイはレザリントに行ってきたんだよね? こんなのがあるの?」

俺と同じように飴を絶賛していた騎士団員のポウルさんが、俺に聞いてきた。

「いえ、レザリントでは何も買わなかったので、友人に頼んで貰いました」

「友人?」

正直に言うか言わないかでしばらく悩んだが、まぁいいかと正直に言う。

「アーチモンド家の方です」

「アーチモンド家。アーチモンド伯爵家……」

周囲からひそひそとつぶやく声が聞こえる。俺のオスター家にとってアーチモンド家が雲の上のお方だったように、ここらにいる王都出身の皆にとってもそうだ。

「アーチモンド家に頂いたものを今オレは食べている」

ポウルさんはそう言いながら、団長が持っている箱にもう一度手を伸ばしていた。


「アーチモンド家の方ってどんな感じ?」

飴を口に含んだままのポウルさんにそう聞かれて考え込む。センパイは――

「まぁ、変わった人です」

これまで俺が遭遇しなかったようなタイプの人だ。これまでどころか、これからも絶対にないだろう。

「でも、ミラは――妹の方はしっかりした子です」

『しっかりした子?』、『デューイ坊やが、俺たちの姫を呼び捨てにしてるぜ』と、皆は俺をちらちら見ながら噂している。

「可愛い?」

そう聞かれて、何のためらいもなく頷いた。

「はい」

「シャーッ」と皆は歓喜の声を上げて、己が主のためにそれぞれ立ち上がって素振りを始めた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ