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鬱々ショート  作者: 鬱々とっちゃん
9/15

鬱々ショート 隣人の歌

昨日、僕は、死にたくて仕方なかった。


アパートの隣の部屋の住人が、訳の分からないロックバンドの曲を一日中かけていた。


心を患った僕は1つも身動きをとることが出来ず、死にたい気持ちと怒りに震えていた。


もし、ここで体が動くなら。この薄いアパートの壁を突き破り。隣の住人の息の根を止めてから、このまま自分の命をたつ事ができるのに!!


憎しみは謎のロックバンドの軽快なメロディーとそれをたれ流しているゴミクズ隣人に向けられた。


そういえば、隣の住人の事。何一つ知らないよなぁ。ふと思った。僕は、3年前大学進学の為に、田舎から東京に引っ越してきた。


1年目を東京で過ごしたあと、突然何もかもが嫌になって大学をやめ。親の仕送りで、残りの2年間を何とか引きこもりながら、大都会東京を生き抜いてきた。


その間に隣人は、引っ越して来たのだ。何の挨拶もせず半年ほど前にどうやら住み始めたらしい。


今までずっと、静かだったのに。何でこんな僕の調子の悪いときに苦しめる音を立てるんだ。そう思いながら段々と眠気が起こってきた。


どうやら睡眠薬が効いてきたらしい。うとうととしながら、目が覚めた時は調子が良くなっていたならいいなぁ、死にたい気持ちが収まればいいなぁ。音楽も鳴り止めばいいなぁ。とおもった。


しばらくして、僕は、目を覚ました。部屋の中はすっかり明るくなっていた。一体どれくらい眠ったんだろう??


時計を見ると、どうやら7時間は眠っていたらしい。死にたい気分は晴れていて、どうにも調子がよくなった。快眠だった。


ふと、気付くと。隣の住人の流すロックバンドの曲がまだ聞こえてきた。


一体どれ程好きなんだ?調子よく起きたとしても寝起きの頭にあの軽快なメロディは、僕の機嫌を悪くするには十分だった。


僕は、アパートの管理人に電話を掛けて隣人に注意を促す様に手配した。


それから、数時間が過ぎただろうか。いまだに隣人の音楽は鳴りやまない。


管理人が手こずっているのか?どれだけ迷惑な隣人何だと、苛立っていると、僕の部屋のインターホンが鳴った。


ドアを開ると、警察とアパートの管理人がたっていた。


事情はこうだ。隣人の流していた謎のロックバンドの曲は、青春の応援歌で若者に爆発的な人気がでたモンスターバンドの曲だったのだが、昨日、そのバンドのボーカルが自殺したらしい。


そして、そのバンドのファンだった隣人はバンドの曲をかけながら死んでいたという。鍵は閉まっていたし、遺書が見つかったので、後追いをして亡くなっていた可能性が大きいそうだ。


奇しくも、僕のクレームが隣人の発見に繋がったらしい。


警察とアパートの管理人が帰ったあと。僕は、テレビをつけてニュースを見た。話題は全てあのバンドの話ばかりだった。


「人生に悔いなく生きろ、どんなしがらみも越えていけ」僕を苛立たせる、軽快なあのメロディが今度はテレビから流れてきた。ふと、僕は、その歌に励まされるのと同時に、死ぬことが怖くなった。


それ以来、僕は、死にたいと思う事が一度もなくなった。いつか、僕が死んだとき。顔も名前も知らないあの隣人と、悔いなく生きろと歌っていたボーカルに。天国で感謝を伝えられたらなと思う。





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