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鬱々ショート 自分を持たぬ人
僕は、自分というものが無かった。だから、人の評価が自分そのものなのだと、思い込んでいた。
ある人は、僕の事をこう評価した。
「あの人は。とても、優しくて思いやりがある人だよ。あんなに優しく親切な人はみたことがないよ。」
そうか、僕は、優しい人間なのか。僕は嬉しく思った。
ある人は、僕の事をこう評価した。
「あの人は。とても、冷たくて、人として終わっているよ。あんな人にはなりたくないな。二度と顔もみたくないよ。」
そうか、僕は、冷たい人間なのか。僕は、悲しく思った。
また、ある人は僕の事をこう評価した。
「あの人の事?あんまりよく分からないな。ぱっと見の印象にも残っていないしね。」
そうか、僕は、印象にも残らないちっぽけな人間なのか。途方に暮れてしまった。
どの人も、本当の僕の気持ちなど。気づいてはいない。僕の中で僕自身は、優しくもなく、冷たくもなく、また、印象のないちっぽけな人間でもないのだ。
人の中にいる僕は、本当の僕ではなく。その人の中の僕なのだ。
僕は、本当の僕を見つけた。人の評価の中の僕よりも。いくらか生き生きした自分がいた。