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ALICE♰CRAFT~序章:最愛なる君の記憶~  作者: 夢月真人
1st.少女型戦闘兵器を起動せし者に与えられた最初の試練
8/26

08.All’s well that ends well.

『この一次予選の目的は最初に話した状況判断能力に加え、情報収集能力そして短時間で覚悟を決めたかどうかを見極める為のもの。隠し部屋を見つけた者たちは、恐らく自身の予選通過するものだと思っていただろうけど僕が全員不合格と言った時、君たちはどう思いましたか?』


不服に決まっている。隠し部屋の場所も開き方も分かった自分が不合格などあり得ない。」もし、不合格なら偽国王が意図的そうしたに違いない。ユウラは険しい顔で偽国王の真っ黒いシルエットを睨みつけた。


 探索を終えた後、別室で国王を偽物だと暴いた事で何か不都合があったのではないのか。1人を不合格にすれば、不信感を抱かれるからまとめて不合格にしたのか。真意が分からぬ今、偽国王に不信感が募るばかりだった。


『恐らく、君たちの中では不服に思い、落胆した人が大半だろうね。だけど、30人は安堵したはずだ』


 偽国王の言う通りだった。事実、初めにこの場に残るかどうかの選択を迫られた時、棄権した14人のクラフターとともに、立ち去れば良かったと思っている者がいた。最初は、苦労して取得したクラフターの資格を失うことに躊躇し残った者や、クラフターとしての実力を試したいという安易な理由で取り敢えず、残ることを決めた者も少なくはなかった。しかし、一次予選開始直後に隔離されたプロテクト内の暗闇は、無意識に抱いていた不安や恐怖の感情をいとも容易く引き出してしまっていたのだ。


 探索中も予選通過したくないという気持ちとは裏腹に一次予選すら通過できない無能なクラフターというレッテルを貼られたくないという気持ちが頭の中を巡っていた。そんな彼らにとって、全員不合格という結果は自分の堤体を守る為には好都合だった。


 予選通過できなくて良かった。

 普通の生活に戻れる。

 戦争に行かなくて済む。


 迷いが消え、安心感で満たされると、自然に顔の筋肉が緩み、腑抜けた顔になる。偽国王の写した写真はその瞬間を逃さなかった。


『はっきり言わせてもらうが、この国の未来を託せるものに一番必要なのは、クラフト技術でも知識でもない。真の覚悟だ。覚悟のない者に日本の未来を託すことなどできない』


 正論だった。ただ、与えられた事をやらされているよりも、何かしらの目的や目標を持ち、その為なら何があろうと進み続けるという覚悟、必ず成し遂げるという覚悟がなければ、何も成し遂げることはできない。直向きな姿勢を示せば、周囲はそれを認め、信頼し、全てを任せようと思える。国の明暗を分けるなら尚更のこと。日本に住まう全ての国民が認め、命を預けられると思わせることができる人物が現れなければ、その時点で日本は希望ある未来を失い絶望の淵に追いやられ、戦わずして敗北し、国は内側から崩壊する。


偽国王は、本物の国王のように国のあり方を熟知していた。信頼に欠ける国のトップが次々に入れ替わることで国民の信頼を失い、破滅する寸前だった日本を立て直した先代の国王を彷彿とさせる発言は、浮ついた心に揺るぎのない覚悟という一本の芯が通した。


「そうだよな。国王様の言う通りだ」

「俺、自分のことしか考えてなかった」

「うちも」

「私も」

「こうやって招集されることも、国の為に戦うかもしれないってことも、最初から分かっていたはずなのに」


 心の弱さ、自己中心的な思考、他人任せで無責任な自分たちを責めていた。クラフターである自覚が足りなかったと反省していた。


 元々、クラフターにはALICEの所有権、改造権、使用権という3つの権利が与えられた際に、3つの義務も与えられていた。


 1つ目は、軍と連携して治安を維持する【治安維持の義務】。

 2つ目は、国を発展ための改造や新技術の開発、制作を行う【発展創造の義務】。

 そして、今回最も関係する義務が3つ目の【軍令尊守の義務】。


 軍の命令があれば、いつでも兵士として戦地に赴き、ALICEの力を最大限に発揮し、国の勝利に貢献する。兵器を所有し、改造するとは、そういうことなのだ。


 鎖国制度開始から長い歳月もの間、戦争を拒み続け、平和そのものとなっていた戦争を知らない若い世代の彼らにとって、3つ目の義務は有って無いようなものだった。


 もちろん言葉では知っていたし、内容も知っていた。どれだけ重要なことなのかも知っていたし、それを理解した上で、クラフター資格を取り契約書にサインをした。けれど、戦争はもうないと思っていた。平和が続く中でALICEを兵器だと思わなくなっていた。だから、命を懸ける覚悟なんていうのは持ち合わせていなかった。


 しかし、アマテラス国王による領土争奪戦への参加とALICE♰CRAFTの開催は安易な考えでクラフターになった者たちを逃れることのできない現実に引き戻した。更に先の言葉で自分がクラフターである限り、戦争に参加するしかない。国の為に命を懸けるしかないことを嫌でも自覚することになった。


 カシャッ。


 再び、シャッター音が鳴り響く。しかし、先ほどのように怒りに荒れ狂うものの姿はなかった。


『ふむ、なかなか良い顔つきになったようだねえ』


 少し満足げに言うと、液晶パネルに何かダウンロードされ始めた。


『では、改めて予選通過者を発表する! 合格者は55人、液晶パネルに新たなクラフターコードが表示された者は予選通過とみなし、ALICE♰CRAFT参加者として正式に任命する!』


【ALICE CRAFTER Beginner Class 013 Yura Azuma】


 手元の液晶パネルに、新しいクラフターコードが表示された。


「ビギナークラスか。なるほどね。クラフターとしては一人前と認められたけど、ALICEのクラフターとしては未熟者ってことか」


 クラフターは大きく分けて2つに分類される。ユウラのように軍の管轄下でALICEの改造と治安維持を目的に活動する軍直属のクラフターとアルマのように企業に勤め、技術開発や部品の製造を行う民間のクラフター。改造や治安維持、技術開発や製造を行うだけなら、クラフター試験に合格し資格を保有していれば、何も問題はない。しかし、ALICEと共に戦場に赴く為には、ALICE CRAFTERとして最高位のMeister Classを取得する必要があった。


 現在、Meister Classは自衛隊特殊部隊A.C.S.Fの2人と国王アマテラスのみである。その3人を除くクラフターが所有するALICEは試作段階のため、ALICEを正式タイプへと改良し、完全な兵器にする必要があった。武器に関する知識、戦略、経験、その全てにおいて初心者同然のクラフターたちは言わば、新米隊員である。領土争奪戦の開始までに彼らを自らの意志で戦える兵士に育てることも、ALICE♰CRAFTを実施した要因の1つだった。


『兵器を持つ者、戦う意味を問え! 戦う意志のある者、殺める相手の命の重みを知れ! 殺める者、自らの命を尊く思え! 命の尊さを知る者、生き残る為に最善を尽くせ! ある程度の覚悟は出来ているも者もいるようだけど、今僕が言ったことを肝に命じて覚悟を新たにしてほしい!』


 偽国王の言葉は、妙に気持ちの入ったものだった。ユウラにはそれが偽国王自身に言い聞かせているようにも思えた。数ヶ月後、世界を巻き込む領土戦を控えているのだから、誰しもがその現実と向き合わなくてはならない。決して逃げることができない。止まることの許されない片道切符の列車に無理矢理押し込まれたのだ。


 どんなに足掻いてもその事実は変わらない。ぼんやりとだが現実を受け入れ、明確な目的と覚悟を胸にした予選通過者たちの心境は不思議と穏やかなものになっていた。


『僕が言いたいことは以上だよお! 今日は急な招集にも関わらず集まってくれて、ありがとう! それじゃあ、これにて一次予選の終了でぇす! あでゅ!』


 いつもの軽いノリで消えた偽国王のホログラム。残された参加者たちは、互いに会話をすることなく、散り散りに帰路に着いた。


   ***


 旧国会議事堂前警備室。ユウラが無事に出てくることを祈りながら、今か今かと待ちわびていると、議事堂内から次々に出てくる参加者たちが警備室の前を素通りしていく。


「お兄……ちゃん?」


 GPSの反応が移動し始めたことに気づいたルカは、マッチング強化された高性能な目を駆使し、大勢の中からあっという間にユウラの姿を見つけ出した。


「アルマさん! お兄ちゃんが出てきた!」

「やっとかよ」


 果てしなく続くのではないかと思えた警備隊員たちとの睨み合いもようやく終わりを迎えた。全身の力が抜け、へなへなと机にうつ伏せになりながら胸を撫で下ろすアルマの気持ちなど御構いなしに、大はしゃぎでユウラの元へ向かうルカ。


「ル、ルカ!? お前どうしてこんなところに!?」

「あれって昔流行っていた伝説のボーカロイドじゃ……ないわよね!? 何あの子!?」


 手を振りながら猛烈な勢いで突っ込んでくるツインテールの女の子に対して興味津々に目を輝かせるスズナの横で、ユウラは驚いていた。


「え、あ、ああ。あれ俺の妹」

「この間、話していた妹さん?」

「そうだよ。一応、ALICE……なんだけどね」


一次予選を終え、偽国王の言葉が身に染みていたユウラは、ルカのことを妹であると同時に少女型戦闘兵器ALICEだということを再認識していた。


 それほどまでに、一次予選での偽国王の発言はあまりにも重いものだった。本当の妹のように可愛がり、大切に接してきたルカを戦闘兵器として扱わなければならない。自分の中でルカを兵器として認識するということは、大切な妹を自らの手で殺すことと同義だった。自分の中に生じる矛盾への葛藤が心を締め付ける。


「あんたALICEとはいえ、妹にコスプレなんかさせる趣味があったのね。まあ、可愛いし似合っているみたいだけど、さすがにヒイタワネ」

「なんで、そこだけボカロ風?」

「気分よ。気分。ほら、ユウラの大切な妹さんがお兄ちゃんって呼んでいるんだから、早く行ってあげなさいよ」

「お、おう」


 スズナに言われるがまま、笑顔で向かって来るルカを迎えようと両手を広げ受け止める準備をするユウラ。しかし、無事に出て来た事に対する喜びのせいか、ルカの地面を蹴る力が徐々に上昇していく。


「お兄ちゃぁぁああん!!」


 制限(リミッター)が解除されたルカがテンションMAXで加速した速度は、まるで砲弾。ラグビー選手のタックルのようにユウラに飛びついた。無防備に受け止めようとしたユウラは、ボキッと大きな音を立てると遥か昔に流通していたガラパゴス携帯を逆パカしてしまったかの如く、逆方向に折れ曲がり意識を失った。


「ユウラ!?」

「お、お兄ちゃん!? どうしたの!?」


 まさかの事態に周囲にいたクラフターたちも足を止め、心配そうに見つめていた。

慌てたルカは、メディカルチェック機能でユウラに身体検査をしてみると、背骨がポッキリ折れている上に、臓器が幾つか損傷している可能性があることが判明した。兄を思うあまりに起こってしまった悲劇に医療技術を持たないスズナやアルマは、ユウラの側に駆け寄るだけでどうする事も出来なかった。ルカもメディカルチェックは出来るが、医療技術に関するプログラムが施されていない為、何もする事が出来ない。


「嫌だ。お兄ちゃん死なないでよ。また、私を1人にしないでよ」


 この日、思いもよらぬ事故が起こってしまったが、無事に日本の未来を背負うことになるであろう55人のクラフターが決定し、1人の負傷者を除く54人が翌日からALICE♰CRAFT本選に向けて新たな一歩を踏み出すことになった。

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