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ALICE♰CRAFT~序章:最愛なる君の記憶~  作者: 夢月真人
1st.少女型戦闘兵器を起動せし者に与えられた最初の試練
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05.Never do things by halves.

 隊員たちは番号の書かれた紙を参加者たちに配り始めた。参加者たちは紙を受け取った順に、あらかじめ各座席に設置されていたプロテクトの中に隔離される。このプロテクトは、日本の上空に張られているものと同じ原理で外部からの電波・音・光など太陽光以外のあらゆる物を遮断する技術を用いて作成された隔離室のようなものだ。全ての物を遮断するプログラムが組み込まれたプロテクト内にいる参加者たちにとってそこは虚無の空間。外の景色や音が認識できないため、強烈な孤独感と底知れぬ恐怖感に襲われる。


「お願いだ! 早くここから出してくれ!! 頼むから早く!!」


 プロテクト発動直後、1人のクラフターが閉所恐怖症によるパニック状態に陥り、ぐったりとした男は自衛隊員に運び出された。開始早々脱落者が1人出てしまった為、残る参加者は85人となった。

 

「あれって多分、閉所恐怖症か、暗所恐怖症よね」


 スズナは隊員に担ぎ出される脱落者を見ながら言った。


「そうだろうな。プロテクト内って、暗いし狭いし圧迫感が半端ないんだろ?」

「まさか、こんな理由で脱落するとは思わなかったでしょうね」

「運も実力のうちって言うからな。そういうことだったんだろ」


 ユウラは座席の上で胡座をかきながら、我関せずと気怠そうにしている。


「ユウラって意外に冷たいよね」

「今は予選だろ? ライバルに情けを掛けるほどの余裕はねえよ」

「私は余裕だけど」

「へいへい。さすがは首席で卒業した秀才スズナさんは違いますねえ」

「あんたバカにしているでしょ」

「滅相もございません」


 こいつ怒らせると面倒だよな。と、恐る恐るスズナを見ながら言うと、両頬を木の実の詰まったリスの頬袋のようにプクッと膨らませ、ご立腹の様子。まだ、許容範囲内だ。


 学生時代からスズナの怒りを買い続けているおかげで、頬が膨らむ程度であれば、まだ怒りのゲージは10%くらいだと判断することができた。


「ちょっと聞いているの?! やっぱりバカにしているでしょ!?」

「別に、バカにしてねえから。お前自意識過剰すぎだろ」

「そういうのをバカにしているっていうのよ!!」


 多少機嫌を損ねた程度であれば、つべこべ言わず、素っ気ない言葉で返すのが1番だ。こればかりはスズナに限ってのことかも知れないが、今までそうしながら、うまく立ち回ってきた。


「そこの君たち私語は慎みなさい!」


 日本の代表を決める重要な一次予選が始まったのにも関わらず、性懲りもなく口喧嘩をしていた2人を見兼ねた隊員が番号の書かれた紙を片手にやって来た。


「あんたのせいで怒られたじゃないの!」


 隊員のおかげで、更にお怒りになるスズナ。


「はいはい。俺のせいですね。どうもすみませんでした」


 面倒くさくなってきたので、ユウラは取り敢えず謝った。


「なによ、その言い方」


 声のトーンが一段階下がったのに気付いたユウラは再びスズナの顔を確認すると、ふくれ面から真顔に変わっている。この状態のスズナの怒りは、もう先ほどの比ではない。真顔は噴火前の予兆。怒りの沸点が最高潮に達したら、さすがに手がつけられなり、一次予選どころの話ではなくなる。

 

「君たちいい加減にしなさい!」


 隊員に一喝されると、スズナは真顔から不貞腐れた顔になり、そっぽを向いた。


グッジョブと、ユウラは心の中で隊員に称賛の拍手を送った。


「君達に日本の未来が掛かっているということを自覚してくれないと困るぞ」

「すみませんでした」

「ごめんなさい」

「さあ、これが君たちの番号だ。確認が済んだら、プロテクトを発動する」

「23番か」

「私は24番ね」


 2人は番号を確かめ終えると、すぐさまプロテクトによって隔離された。

 ユウラが受け取った番号は23番。スズナは次いで24番。ユウラたちに順番が回ってくるまでに4時間ほどの待ち時間があった。この時点で気づくものは気づく。


 一次予選が公平ではないことを。


 探索時間は全員同じだが、待ち時間つまり考える時間に差がある。さすがにプロテクトを発動しても、頭の中までは制限することができないからだ。しかし、この空間は時間が経つほど精神的ダメージが蓄積されていく。例え早い段階で結論に至ったとしても、長時間平常心を保つには、相当な精神力と体力が必要になるのだが、幸運なことに、ユウラたちの待ち時間はおよそ4時間。考える時間が十分にあり、苦痛を強いる程の待ち時間でもない。運も味方につけたといったところだろう。


 すぐにこの状況を把握したユウラは、本会議場に入る前に目にしていた旧国会議事堂内の見取り図を思い出していた。長さ206.36メートル、奥行き88.63メートルの広さがある旧国会議事堂内。ユウラたちの現在地は正面玄関向かって左、衆議院側にある本会議場。


「制限時間内に見つけ出せる範囲に隠し部屋があると仮定したら、反対にある参議院側とは考えにくいよな。となれば、探索範囲は限られるか。本会議場内、衆議院玄関、中央玄関。そして、この3箇所をつなぐ通路。移動距離から考えても、そのどれかに絞って探索した方がいいな」


 ユウラは、暗闇の中でひたすら考えた。目で見たもの、耳で聞いたこと、今まで培ってきた知識、自分の持っている全ての情報を駆使して考えた。だが、そう簡単に隠し部屋の見当がつくはずがない。そして、考えに行き詰まった時、アマテラス国王のある言葉が脳裏を過った。


「もし、全ての情報にヒントがあるとしたら、アマテラス国王の最後に言った言葉が引っ掛かるな。光あるところに栄光あり、闇あるところに恐怖あり。あの無意味にも思える言葉にヒントが隠されているなら、闇はこのプロテクトの中。いや、それだと簡単すぎるし、光との関連性が解らない。光と闇、対をなすもの」


 再び、思考の迷宮を彷徨い始めるユウラ。

 一方で、他のクラフターたちは次々に順番が回り探索を終えていた。一次予選が開始されてから気づけば3時間が経過。この時点での隠し部屋を見つけたものは8人。既に10人の脱落が確定し、刻一刻と順番が近づいてくる中、待機組は孤独な戦いを続けていた。


丁度その頃、ユウラの工房では留守を預かったアルマとルカが夕飯時になっても戻らないユウラの身を案じていた。


「アルマさん、どうですか?」

「ダメだ。連絡しても応答がないし、GPSの反応も消えている」

「私の方もダメです。電子チップの反応も3時間前から途絶えたきりです」


 電子チップは、昔使用されていたマイナンバー制度が廃止された後、新たに個人の管理を行う為に導入されたもので、赤子が生まれた際に頭蓋骨の隙間に埋め込まれるシリコン製のマイクロチップのことである。その電子チップの周波数とIDナンバーをALICEに登録することで、互いの位置や状態などを事細かに把握することができるのだ。


「あいつ何かあったのか」

「信号が途絶えたのは、旧国会議事堂に入って暫くしてからなので、恐らくそこで何かあったのかもしれないです」

「どこかに移動した可能性はないの?」

「お兄ちゃんの反応が旧国会議事堂に着いてからほとんど動かなかったですし、それから少しして信号が途絶えたので多分間違いないです」

「大丈夫なのか、あいつ」

「周囲のデータベースにアクセスしましたが、事件や事故が起きたという情報はないようなので、恐らくその類の心配ないとは思います」


 平静を装っているが、心配で仕方ないという表情は隠し切れていない。いくら兵器でも、自分の兄だと認識している以上、心配しないわけがない。と、不安げなルカの顔を見たアルマは、どうにかこうにか元気づけようと明るく振舞った。


「あいつのことだから、大丈夫だよ! もしかしたら、電子チップの不具合とかそんなもんだろうし、すぐ帰ってくるさ!」


 しかし、ルカは心配そうな顔をするどころか、何か覚悟を決めたようにアルマの方へ向き口を開いた。


「アルマさん! やっぱり心配なのでお兄ちゃんのところに行ってきます!」

「行ってきますって、旧国会議事堂に!?」

「そうですよ? 他に何処に行くっていうんですか?」

「ここから走って行っても30分はかかるぞ!」

「その点はご心配なく! お兄ちゃんが新しく装着してくれたバネがありますし、これを使えば計算上2分12秒以内には着きます。それに少し試してみたいのですよ!」

「なんだ、その新しい靴を買ってもらったからお出掛けしてみたい的な理由は」

「嬉しいからに決まっているじゃないですか!」


 心底嬉しそうな顔で笑うルカを見ていると、本当にユウラのことを心配しているのか疑わしいものだった。だが、その行動には理由があった。


 より人に近づけて開発された試作品ALICEには特有のプログラムが組み込まれており、相手がネガティヴな感情を抱き始めていると判断した場合、カウンセリングモードに切り替わり、笑顔を作ったり冗談を言ったりして、場を和ませるようになっている。


 本来ならば、この程度の知識はアルマも大学時代に学んでいるはずなのだが、クラフター資格試験において筆記、実技ともに最下位だったこともあり、頭の片隅にすら残っていない知識だった。


「本当に行く気なら俺も一緒に行くよ。ユウラに留守番を任されたのも妹さんが心配だったからだろうしさ」

「ありがとうございます!」

「でも、行ってどうするつもりなの?」

「お兄ちゃんの無事が確認だけできれば良いですけど、もし危険な目に遭っているなら、私も黙っていられないので、助け出します」

「まさか、戦闘する気じゃないよね?」

「戦闘? 何を言っているのですか? 私に戦う力なんてありませんよ?」

「そ、そうか。それならいいけど」


 元々、戦闘兵器として作られているが、試作品であるルカに戦闘を目的とした改造を施すことは、軍の許可なしには出来なかった。その為、見た目を重視した改造を繰り返し、抜群のスタイル、そして最速の美脚を持つ美少女を作り上げていた。


「アルマさんはどうやって行くつもりなのですか?」

「俺はガソリン式の旧型バイクで行こうかと思っているけど、向こうに着くのは15分後くらいかな」

「わかりました。じゃあ、私に乗ってください!」


 満面の笑みそう言うとで、しゃがみ込みながらアルマに背を向けた。


「の、乗る!?」

「はい。おんぶして行きますよ」

「いやいや、女の子におんぶしてもらうのはちょっとな」

「アルマさん! 今は恥ずかしがっている場合じゃないですよ! 急いでください!」

「わ、わ、わかったよ!」

「しっかり掴まってくださいね!」


 大の大人が女の子に背負われて街中を移動ことに恥ずかしさを感じながらも、渋々ルカに身を委ねるアルマ。しかし、その羞恥心はルカの尋常ではない速度と跳躍力を体感してしまえば、あっという間に消え失せてしまう。


「ぢょ! ばっで! ばやいじ、た、高ずぎぶぁ」

「我慢してください。これでも力は抑えているのですから」


 最短ルートを行くルカは、工房を出てすぐに目の前にある22階建ての高層ビルの屋上へ1度の跳躍で飛び乗り、猛烈なスピードで建物から建物へと飛び移り移動していた。跳躍力は推定110m。移動速度は時速換算で約120㎞。直線距離で旧国会議事堂に向かえばルカの言う通り2分強では到着するほどの速さだ。風圧と跳躍による急な落差の中で意識を失いそうになりながらも、ルカの背中に必死にしがみつくアルマ。気がつけば、あっという間に皇居を横断し、旧国会議事堂前に到着していた。


「アルマさん。着きましたよ! あのスピード感は爽快でしたね!」

「そ、そうだね……うっぷ」


 ジェットコースターに乗った後のような吐き気に襲われるアルマとは対照的に、新しいパーツの性能に満足気に喜ぶルカ。もう二度とルカに背負われて移動しないと誓ったアルマは、周囲の異変に気付く。


「妹さん。本当にここが旧国会議事堂で合っているのか?」

「間違いないですよ」

「いや、でも、これって、どういうことだ」


 ユウラ達は確かに旧国会議事堂前に到着したはずだった。しかし、目の前に広がっていたのは旧国会議事堂ではなくただの空き地。建物らしきものは何もなかった。


「どうやら、旧国会議事堂全体に高出力のプロテクトが張られているようですね」

「プロテクトだって!?」

「よく見てください。あそこだけ不自然に見えないですか?」

「あそこ?」


 目を凝らしてみると、旧国会議事堂があるべき場所がぼんやりと蜃気楼のように歪んで見える。そこに何もないように見えることに変わりはないが、明らかに何かがそこにはあった。そして、敷地内には多数の自衛隊員たちが武装を施し、巡回していた。何もない場所に人数を割いてまで警備するほど自衛隊は暇ではないことから考えても、そこで何かが行われていることは明確だった。


「不審人物2名発見! 職務質問を行う!」


 警備中の隊員がアルマ達の下へ駆け寄ってきた。


「君達そこで何をしている?」

「えっと、俺たちは、ですね」

「怪しいな。君の名前と所属エリアを答えなさい」


 挙動不審で歯切れの悪いアルマを見て、より不信感を抱いた隊員は強い口調で言った。


「せ、センバ・アルマです。所属エリア3。12番街で部品屋を営んでいる者です」

「確かに、照合した電子チップのデータと登録されているデータが一致したところを見ると嘘はついていないようだな。次は、そこの女! 君も名前と所属エリアを教えなさい」

「アズマ・ルカ。所属エリア3。13番街。クラフター技師アズマ・ユウラの妹です」

「ん? おかしいな。君からは電子チップの情報が読み取れない。それにアズマ・ユウラには妹はいないはずだ。まさか、君が先ほどレーダーが探知したALICEじゃないだろうな?」


自衛隊が日本上空に数万個と設置している小型早期警戒機、通称【AEW】は半径数百km内に侵入した航空機やミサイルなどを探知することができ、高空から監視を行うことができる。その全方向監視レーダーが高速で移動するALICEを探知したため、元々アマテラス国王がいることを理由に強化されていた旧国会議事堂の警備が更に強化されていたのだ。


アルマは、また、この展開かよ。と、思いつつも事を荒立てない為、すぐさま隊員に状況を説明した。


「——と、いう訳でして」

「なるほど。つまり君たちは、ここにいるはずの友人が心配で捜しに来たと、そう言いたいのだな?」

「はい。連絡も取れないし、急に電子チップの信号が途絶えてしまうし、ユウラの身に何かあったのではないかと」

「理由は分かったが、それだけの理由でALICEを出撃させたのか?」

「出撃!? 違います! 違います! 本当にユウラのことが心配で捜しに来ただけです! 妹さんも心配で居ても立っても居られなくなって」

「ALICEが人間を心配するだと? バカバカしい!」

「本当ですって!」

「仮にそうなら、アズマ・ユウラ氏の安否確認が取れれば、大人しく帰るというのだな?」

「もちろんです!」

「いいえ。お兄ちゃんの姿を確認するまでは帰りませんし、場合によっては議事堂内に突入します」

「ルカさん!? 何を言っておられるのですか!? 安否さえ分かれば、家で帰りを待てば良いよね? 良い子だから、ここは隊員さんの言う通りにしようね!」

「突入するだと? それは聞き捨てならないな。悪いが君たちには、警備室まで来てもらう」

「はあ。何でこうなるかな」


 アルマの弁解も空しく、2人は警備室まで連行されることになった。


 試作品ALICEは、戦後新たに定められた条例により、人間の生活に寄り添い、暮らしを豊かにする為に存在するものとされている。クラフトに関しても同様で、軍事要請がない限り、武器の装着を禁止されている。更にALICEの外出に関しても決まりがある。それは、国からの出撃要請もしくはクラフターの同伴がない限り、ALICE所持者の管理する敷地内から出てはならないというものだ。仮にその決まりを破れば、試作品ALICEの破壊およびクラフター資格の剥奪、そして国外への追放を余儀なくされる。


 本来であれば、今回のルカの行動も例外ではないのだが、領土戦を控えるこの状況で主戦力であるALICEを破壊することは、自国の戦力を大幅に減らすことになる為、国王の許可なしに実行する事は出来なかった。その結果が、警備室への連行に至った理由でもある。

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