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ALICE♰CRAFT~序章:最愛なる君の記憶~  作者: 夢月真人
2nd.少女型戦闘兵器と姿なき天才
24/26

24.Walls have ears and shoji screen doors have eyes.

「は? ちょっと待てよ。今、何が起こって――」


 刹那の出来事。ユウラには一瞬白い閃光が見えてと思った瞬間、突如としてミヤギ・ヒロの姿が消え去ったように見えた。まるで手品でも見ているような感じだった。


「出口カラ10m前方。熱源体ヲ確認。ミヤギ・ヒロヲ狙撃シタ可能性アリ」


 目の前で起こったことを瞬時に分析し、ミヤギ・ヒロが何者かに狙撃されたのだと判断したルカは戦闘態勢に入っていた。


「狙撃って、あいつ誰かに殺されたってことなのか!?」

「粒子分散型光線銃ノ可能性アリ。弾道ノ入射角度カラ算出シタ結果。故意ニ狙撃レタ可能性99.9%。狙撃者トノ距離100mマデ離レテイマス。追跡シマスカ?」

「くそっ!!」


 ようやく状況がつかめ始めたユウラは、やりきれない思いで出口に向かって駆けた。


 ミヤギ・ヒロは自分が狙われている事を知っていた。何か重大な事実を知ってしまった自分が殺されることを分かっていた。だからこそ、危険な人体実験を行い、心を失ってまで愛する妻の面影をALICEであるユキに重ね、心を芽生えさせようとしていた。初めから愛する人の側で死ぬことを計画していた。いや、恐らくそうじゃない。本当は愛する妻と一緒にまた生活がしたかったはず、だけどそれも心を失い、人として成立しなくなっていた彼には無理な事だった。だからこそ、自分の知る事実を伝える為、ユウラに危害が及ばない範囲で言葉を選びながら小出しにヒントを出し続けていたのだ。ユウラにはそうとしか思えなかった。最後に言おうとした一言も核心に迫るような事だったから、わざわざ場所を移動したとしか考えられない。


 そして、殺された事で信憑性が増したミヤギ・ヒロが語ろうとしていた真実。この国には何か重大な秘密が隠されているという事実。それらを隠ぺいしようと企んでいる存在が今、明治神宮境内にいるという事実。何を言いたかったのか理解できなかった点と点が結まれ1つの線が見え隠れしている。


 とにかく今は、ミヤギ・ヒロを狙撃した何者かを捕まえる以外に選択できることがないと、未だ沈黙を守り続けるユキの側を横切ろうとした瞬間、


「ヒ……ロ……」


 と、か細い声で名前を呼んだ。その眼には涙を滲ませていた。それは、ミヤギ・ヒロが消えてしまった事に対する悲しみの感情。愛する者を心から思う事が出来る者だけが流すことのできる真実の涙。


 ユキは少女型戦闘兵器でありながら、真の心を芽生えさせ、ミヤギ・ヒロの妻であることを自覚した上で涙を流していた。命を懸けた実験は成功していたのだ。これもう奇跡という他ない。長きにわたり解明されることのなかった心の存在をその涙から確かに感じ取ることが出来た。


「ミヤギ・ヒロ。何が天才だ。お前はただの大馬鹿野郎じゃねえか。愛する人の心を甦らせて死ぬ奴があるかよ。ちゃんと生きて責任を取れよ」


 やり場のない気持ちが沸々と込み上げてくる。大切な人を失う悲しみは痛いほど分かる。失う気持ちも残される気持ちも嫌という程に。ユキの悲しい顔に同情したが今は立ち止まっている場合ではない。


「ヒロ……お願いよ。私を1人にしないで……。あなたがいないと私……。嫌、嫌よ。嫌、嫌、嫌、イヤ、イ、ヤ……イヤァァァアアア!!」

「な、なんだ!?」


 外に出ようと一歩足を踏み出した瞬間、悲鳴というよりもサイレンに近い悲痛の叫びが建物を揺らした。


「まさか、これって」


 大音量で響き渡るサイレンにも似た悲鳴には聞き覚えがあった。ルカがエネルギー不足に陥り、暴走した時に発したそれと同じ。つまり、ユキは暴走を始めてしまったのだ。


「お兄ちゃん!」

「ルカ!?」


 危険を察知したルカは戦闘態勢を解除し、ユウラの身の安全を優先する為、元に戻っていた。


「ユキさんが暴走を始めたみたい! 急いでここから離れないと」

「分かっている! けど、このままだと他の国民に被害が及ぶぞ!」


 ミヤギ・ヒロの死をきっかけに暴走が始まったのか。タイミング悪くエネルギー切れを起こして妄想してしまったのか。定かではないが、最悪の事態になってしまったことは確かだ。ここを無事に脱出できたとしても、ユキの暴走を止めない限り、明治神宮を中心としたエリア3を含む周辺エリアは24時間危険に晒される。


『ガ……ガガガ……える? ガガガガ……ないの?』


 ユキがその場を動かずに悲鳴を上げ続けていると、ユウラの通信用の指輪が受信した音声が耳に詰め込んでいた小型イヤホンを通じて聞こえてきた。


「こちら、ユウラ・アズマ! ALICEが暴走を始めた! 至急応援を頼む!」


 誰かもわからぬ声の主に状況を伝え、応援を要請した。


『やっと通じた! ユウラ! ちゃんと生きているんでしょうね!?』

「スズナ!?」


 声の主は、クラフトに時間が掛かりユウラと一緒に明治神宮へ来ることが出来なかったスズナだった。ミヤギ・ヒロが死んだおかげか、それとも誰かが意図的にジャミングを解除したのか。通信機器が正常に機能するようになっていた。


『凄い音がするけど、暴走したって本当なの!?』

「今、目の前で悲鳴を上げたまま動かないけど、もう動き出してもおかしくない!」

『私もすぐに到着するから、あんたは足止めしておいて!』


 そう言うと、プツンと通信が途絶える音がした。


「スズナの奴、簡単に言ってくれたけど、エネルギー補給で大人しくさせる以外に抑え込めるかどうか五分五分だぞ」

「お兄ちゃん! ユキさんの表面温度が上昇し始めたよ!」

「考えている余裕はないか……。よし、あれで試してみるか」


 ユウラは左殿に置いてあった軍服を急いで取りに行くと、服に忍ばせていた太めのケーブルを持ってきた。このケーブルはALICEに使用されている金属【エルテヴンダーライト】を素材にして作られた最高強度ケーブルだ。ほかの素材で作られたケーブルではALICEの力に耐えられる保障がなかった為、あの短時間で特別製のケーブルをクラフトしていたのだ。


「ルカ。このケーブルを使ってユキさんの身体を拘束してくれ」

「任せて!」


 ケーブルを手に取ったルカは、近くの木の柱にケーブルを巻き付けると、そこを軸にぐるぐるとユキの身体を拘束し始めた。手足はもちろん身体全体を巻き付けていく。ルカの脚力を活かした早業であっという間に全身を覆った。


「よし、一先ずこれで様子を見よう」


 上手くいけば、この状態で24時間やり過ごす事が出来るかもしれない。そんな淡い期待をしながら、ミヤギ・ヒロの話していた内容を振り返っていた。


 なぜ、ミヤギ・ヒロは真実を知ることになったのか。

 なぜ、それを自分に伝えようとしたのか。

初めに試作品ALICEを起動させたのが自分だったからというだけが理由なのか。

それとも、何かほかの理由があったのか。

 なぜ、自分とスズナがこの任務を任されたのか。

 ミヤギ・ヒロを狙撃した人物は誰だったのか。


 様々な憶測と疑問が頭の中を飛び交う中、1つ重大な見落としがある事に気が付いた。


「なあ、俺がユキさんの後を追って宝物殿に入る時、あの中には何人いた?」

「お兄ちゃんを含めて3人いたよ!」

「その3人は、俺とミヤギ・ヒロと誰かってことになるよな?」

「うん。ユキさんからは元々熱反応はなかったから、それで間違いないよ! お兄ちゃんたちが出て来た時もまだ中に1人残っていたみたいだし」


 やっぱりそうか。ユウラは自分の考えが答えに近づいていると確信した。

 ミヤギ・ヒロを射殺した人物は事前にミヤギ・ヒロが明治神宮へ来ることを知っていた。どこに転送装置があり、いつ来るのかも含めて全ての情報を知っていた。


 恐らく、ミヤギ・ヒロもその存在にいち早く気付いていたはずだ。誰かに聞かれている状況では真相を話す事が出来ない。ジャミングしていたのも外部との連絡を絶つ為ではなく、外部に聞かれたくない内容の話をしようとしていた可能性もある。時間がないと言って、この場所まで移動してきたこともそうだ。ユキの心を取り戻す為だという理由は本当の事だと思うがこの場所まで誘導し、全く関係のない話をし始めたことを考えると、何処に潜伏しているかも分からない宝物殿で必要以上の会話をすることは危険だと判断したからなのではないだろうか。


 そして、ミヤギ・ヒロが知ってしまった真実を隠ぺいしようとした者が狙撃した。

 特殊な銃を使用したことを踏まえると、銃の扱いに慣れている人物という事になる。この日本で銃の扱いに慣れているのは自衛隊員以外にあり得ない。そもそも銃を所持して良いのは元々自衛隊員だけに限定されている。ALICEの装備に銃などの武器をクラフトしても良いと許可が下りるのは今回のような任務を任された時のみ。と、いうことは内部の人間が口封じのために――。


「いや、違う。それだとミヤギ・ヒロの言っていたことがすべて真実だったようになるじゃないか」


 仮にミヤギ・ヒロが言ったことが、真実ではなかった場合を考えると、第3司令室に情報が入ってすぐに誰かを秘密裏に潜伏させ、ミヤギ・ヒロの拘束、および、ALICEの暴走阻止を企てていた可能性も捨てきれない。それに相手は天才クラフターのミヤギ・ヒロだ。任務の成功率を上げるのなら、ユウラ達に伝えていた作戦が筒抜けになることを考え、二重に作戦を実行していたとしても不思議ではない。特に今回の司令官はクダイ領長だから可能性は高い。


 しかし、その考え方だとミヤギ・ヒロの行動が全く意味のない事になってしまう。


「ダメだ。考えるだけで無駄な気がしてきたぜ」


 どれだけ頭を悩ませても今は何が正しいのか。何が疑わしいのか。見定めるだけの判断力を持ち合わせていない。


「お兄ちゃん、さっきから何をぶつぶつ独り言話しているの?」


 険しい顔をしながら、考え込んでいたユウラを心配そうに覗き込みながら訊いた。


「ごめん、ごめん。色々腑に落ちない点が多くてさ。それに拘束しただけで今は何もすることないし、早くスズナが来てくれたら助かるけどな」


 と、意識をユキの方へと向けた瞬間に気づいてしまった。先ほどまで大音量で聞こえていたはずの悲鳴がぱたりと止んでいた。


「あれ?」

「どうしたの? お兄ちゃん」

「いや、ユキさんがピクリとも動かないんだけどさ。もう暴走しているはずだよな?」

「そうだと思うよ! さっきユキさんの表面温度が上昇していたのは、糖質燃料から核燃料へ切り替わったせいだと思うから、無差別戦闘態勢に入っていてもおかしくないはずだけど、全然動かないね」


 明らかに不自然だ。拘束をしているからといって何の抵抗もしないのはおかしい。エネルギー切れの暴走であれば、糖質エネルギーを求めて制御不可能な暴走状態に陥る。そうなれば、置物のように大人しくしていられるはずがない。


「まさか、エネルギー切れの暴走じゃなくて、ミヤギ・ヒロが死んだ悲しみで引き起こされた暴走なのか!?」


 ミヤギ・ヒロが消えてしまう前に話していた「自分の身に何かあれば、暴走する」とは、心を取り戻したユキは感情の高ぶりで暴走するように仕込んでいた。


「お兄ちゃん! なんかユキさんが言っているよ!」

「え!? 普通に話せるのか!?」


 暴走しているはずのユキが身動きをせずに不気味な沈黙を守っていたかと思えば、突然何かを言い始めた。ユウラは恐る恐るユキの頭部付近に耳を近づけた。


「許さない。許さない。許さない。許さない――」

「ゆ、許さない……?」


 このシチュエーションでユキが許せない相手といえば、ミヤギ・ヒロを狙撃した人物になることは間違いない。


「暴走しているのに、目的意識があるのか?」


 単なるクラフターの1人として生きて来たユウラにとってALICEの暴走は、ルカが最初で最後の経験だと思っていたし、もう二度とその現場に立ち会う事はないと思っていたから、ALICEの暴走について詳しく調べたことはなかった。それにルカが言っていた無差別戦闘態勢というのが、通常の暴走時に起こる事なのだとすると、ミヤギ・ヒロは暴走時にALICEが引き起こす無差別的な攻撃衝動を抑えるようなクラフトをユキに施していたのかもしれない。明らかにユキは誰かに向けて敵意を剥き出しにしている。


「私ノ邪魔ヲスル者ハ、許サナイ」

「やっぱり、敵意を向ける相手を限定しているみたいだな。って、邪魔をする者って拘束している俺達も入ってないだろうな?」


 そう思った瞬間、ピーという頭が割れる程の大きさにしたモスキート音がユキを中心に発せられ、周囲の物を小刻みに揺らした。


「エネルギー残量ゼロ。全テノ物ヲ排除シ、エネルギー源ヲ補給シマス。エネルギー残量ゼロ。障害物ヲ全テ排除シマス」


 エネルギー切れによる暴走も始まり、大人しく柱に縛り付けられ、身動き1つしていなかったユキが遂に動き始めた。表面温度の上昇により、ユキを縛り付けていた柱が燃え上がり始めた。伝統ある明治神宮にある建物のほぼすべてが木造建築という事もあり、その火は次々に燃え移ってしまった。炎が上がり、消すこともままならないユウラ達は、ユキをそのまま右殿内に置き去りにしたまま、外に出た。


「結局、こうなるのかよ! 表面温度を上げて柱を燃やすなんて考えもしなかった」

「お兄ちゃん、話している暇はないみたいだよ」

「やっぱ、そうなるか」


 黒煙を上げながら燃え盛る炎の中に、揺らめく人影が1つ。不気味に浮かび上がると「イヤァァァアアア!!」と再び、悲鳴を上げ、ゆっくりと燃える木材を踏み越えながら1歩1歩二人の下へ近づいて来る。


「早く来い、スズナ。このままだと、本気(マジ)でヤバイかも……」

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