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ALICE♰CRAFT~序章:最愛なる君の記憶~  作者: 夢月真人
2nd.少女型戦闘兵器と姿なき天才
17/26

17.Out of the counsel of three people comes wisdom.

「お前ら、いつの間にそんなに仲良くなって?」

「ユウラ、それについては私もかなり気になるけど、今はALICEの情報を確認するのが先じゃない?」

「そ、そうだな。ルカ、ALICEと思われる個体ってどういう事だ」

「良くぞ聞いてくれました! さっきお兄ちゃんが転送装置の不具合が起こった日時を確認した時に合わせて、その後起動した転送装置の場所に設置された防犯カメラの映像を確認してみたの。そしたら、転送装置が起動する30分前くらいに必ず1人の女性が現れるのを見つけたの」

「1人の女性?」

「これを見て」


 ルカは2人のタブレット端末に、8分割した静止画を表示させた。その静止画には、ワンレン黒髪ロングの奇麗な女性が映し出されていた。ルカの言う通り、先ほどクダイ領長が入手した情報と照らし合わせても、この女性は必ず転送装置が起動した場所に現れている。しかし、服装を見る限り何処にでもいるようなOL風な女性だ。少女型戦闘兵器と言われているALICEにしては年齢が20代前半と少女には程遠い。可能性は薄いがユウラが予想した別のクラフターの協力者である可能性もあった。


「この女性は確かに怪しいな。一次予選に参加していたクラフターの中には居なかったか?」

「それは私がお調べ致しました。残念ながら、一次予選参加者100名の中に映像映っていた女性と思われるクラフターは居りませんでした」

「じゃあ、クラフターの協力者という線は薄いな。つまり、この女性がミヤギ・ヒロの保有するALICEと考えたほうが良さそうだな」

「レイ、このことをクダイ領長に伝えてもらえる? この情報が確実なら次にミヤギ・ヒロとALICEが現れる可能性がぐんと高まるわ」

「かしこまりました」


 レイは、スズナの指示を受けると早急にクダイ領長へ情報を伝えた。クダイ領長からは、良くやったとお褒めの言葉を預かり、現状ユウラ達が出来る情報収集は全てやり終えたと言っても良いだろう。これで、ユウラ達の専門であるクラフトに専念する事が出来る。


「しっかしあれだな」

「あれ?」

「いや、情報収集がこれだけ大変だっていうのがさ、何か一次試験の延長みたいな感じがするなって思ってさ」

「そうかも知れないわね。もし、日本の代表として領土争奪戦に参加することになったら、相手の情報が全くないってアマテラス国王が言っていたものね」

「ああ、それを考えるとこの状況を打破出来ないようなら俺達は終わりだな」

「今更何言っているのよ。ミヤギ・ヒロとALICEを捕獲できなかった時点で日本は終わったのも同然。領土争奪戦に参加することもないでしょ」

「はあ。取り敢えず俺達はクダイ領長から命令があるまで、クラフトして待つしかないか」

「そうね。もうどんなクラフトをするか決めているの?」

「その事だけどさ、俺とお前で陸上と上空で挟み撃ちにするのはどうだ?」

「挟み撃ち? 何て古典的な作戦」

「古典的だけど意外とこういう作戦のほうが頭の切れる奴にはハマると思うけどな」

「確かに私たちの頭脳でどうこう出来るような相手じゃなさそうだものね。って、この私がミヤギ・ヒロに劣っているとでも言いたいわけ!?」

「俺一言も言ってないだろ」


 意外に冷静に見えていたスズナだったが、心の奥底ではミヤギ・ヒロの底知れない頭脳に恐れおののいていたようだ。しかし、それも無理のない事だ。転送装置の開発のみならず、生物の転送を可能にした技術者である時点で、頭脳においてもクラフト技術においても遥かに上の存在という事実を自覚出来ないほど馬鹿ではない。


「陸上と上空から挟み撃ちにするとしても、私とあんたの連携が必要不可欠じゃない?」

「いや、俺達の連携は必要ない」

「どうしてよ」

「アマテラス国王も言っていただろう。ALICEが身体だとすれば、俺達クラフターは頭脳だって」

「確かに言っていたけど、現場に行ったら状況は変化するでしょ? それに対応したクラフトと指示が的確に出来なかったらその時点で任務失敗よ?」

「それは分かるよ。だから基本的に現場での判断はルカとレイちゃんに任せようと思う」

「あんたの妹とレイに任せるって正気なの!?」


 ALICEに対抗するにはALICEの力が必要なことは誰にでも分かる事だ。しかし、相手は天才クラフターと未知数のALICE。如何なる場合でも的確な指示と対応力を持って応戦してくる可能性がある相手に対して、ALICEのみでの作戦実行は無謀に思えた。


「正気も何も多分その方が勝率は高いと思うぜ?」

「なんで勝率が高いのよ。普通に考えて現場の状況をAIで学習させて最善策を見つけ出させるより、私たちが判断して指示を出すのが断然早いしリスクは低いと思うわよ」

「それもあるけどさ、事前に起こり得る可能性とそれに対応した解決策を全てインプットしたら、俺たちが現場で考えることも減るだろ?」

「あんたが考えていることは何となく理解できたわ。つまり、私たちは現場では想定外の事態に備えて無駄なことを考えないようにするってことでしょ?」

「ご明察。多分、ミヤギ・ヒロの分析力は俺達の数段上のはずだから、俺達は数の利を生かして考えなければならないことを分散して個々の負担を減らす、そうすればある程度は対等になるはずだからな」

「3人寄れば文殊の知恵ってわけね。2人しかいないけど」

「まあ、知識だけの話をすればそうだけど、現場では4人の目で見て判断する事が出来るからな」

「分かったわ。あんたの作戦に乗ってあげる」

「よし、そうと決まればルカとレイちゃんのクラフトに関してだけど、2人にはALICE専用電子チップが内蔵されているから、奴らに気づかれる危険性がある」

「ステルス機能を付けるってことね」

「お前ホント理解が早くて助かるよ」

「当たり前でしょ。私を誰だと思っているのよ」


 ステルス機能。旧アメリカ軍が使用していたステルス戦闘機F-22Aが世界初のステルス機能を搭載した戦闘機とされている。この戦闘機は旧アメリカ空軍のF-15C/D制空戦戦闘機の後継機として、旧アメリカ合衆国の航空機や宇宙船の開発製造会社として有名なロッキード・マーティン社が、先進戦術戦闘機計画【ATF】に基づき、極秘先進技術設計チーム【スカンクワークス】によって開発された。旧アメリカ合衆国亡き後、その技術は他国に露見し、旧アメリカ独自の最先端技術ではなくなっている。


 そのステルス機能を搭載することで、自衛隊が軍事利用している小型早期警戒機【AEW】のような探知機で捕捉されないようにしようというのだ。しかし、通常のステルス機能には大きな欠点があった。それは、自身から電波などを発する事が出来ないという点だ。もし、ALICE自身が他者との通信を試み、ネットワークを通じて情報収集をしようものなら、その電波を通じて逆探知される恐れがあるからだ。そうなってしまえば、ステルス機能を搭載している意味がなくなってしまう。


「俺たち独自にステルス機能を付ける必要があるけど、ここにある機材でどうにかできるかな?」

「プロテクトを使ったらどうかしら? あれなら外部から探知されることもないでしょ?」

「確かにプロテクトならステルス機能にもってこいだけど、俺達も通信手段がなくて連絡の取りようが無いぞ。一次予選の時もルカ達に連絡を取ろうとしたら、旧国会議事堂内外の電波は全部遮断されて使い物にならなかったからな」

「そこはクダイ領長に協力してもらいましょう。私たちは外部からのみ探知できないステルス機能をクラフトしたら良いわ」

「お前何を企んでいる?」

「人聞きが悪いわね。名案が浮かんだだけよ」

「じゃあ、そこらへんはスズナに任せるよ。じゃあ、ステルス機能のクラフトに移るぞ」


 ユウラ達は、格納庫に保管されていた潜入および偵察用で開発されていた自衛隊員用の人型プロテクトスーツからプロテクト発生器のみを取り外し、ルカとレイに取り付け始めた。ステルス発生器は、洋服のボタンサイズの大きさで簡単に取り付けることが可能だ。


「ルカ、前髪あげて」

「うん」


 まず、1つ目のステルス発生器をルカの額の丁度真ん中に取り付けた。見た目は昔のインド人女性が額の真ん中につけていた赤色の粉や丸い形のシール【ビンディ】を付けている感じだ。ちなみにヒンドゥー教では、額は人間の中枢と言われ、神聖な部分であり、身体の中で最も重要な部位だと考えられていた。


「お、お兄ちゃん」

「ん?」

「これって、なんだか結婚しているインド人女性が付けているビンディっていうのに似ている気がするけど、そういう意味じゃないよね?」

「何言ってんだ? 次両肩出して」

「あ、うん」


 ルカは何を勘違いしたのか、意味不明な質問をした。しかし、そんな質問に付き合っている暇がないユウラは軽く流して淡々と作業を進めた。


「よし、後は膝と踵だな。ズボンは先に脱いでおけよ」

「ひえっ! ズ、ズボンも脱ぐの?」

「スカートだったらやり易かったけど、軍服だからな」

「そ、そうだよね」


 ルカは顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにズボンを下ろすと、上着の裾を下に引っ張り、下着が見えないように必死になっていた。

「ルカ、足の震え止めてくれるか? 動いていたら作業できない」

「ご、ごめんなさい」


 どうにかこうにか下着を見られないように、膝を閉じようと内側に力を入れていた為、両足はピクピクと小刻みに動き中々安定しなかった。


「ルカ」

「はい」

「兄ちゃんは妹のパンツに興味はないぞ」

「わ、分かるけど、恥ずかしいのは恥ずかしいの!」

「仕方ないな。スズナ、そっちはもう終わったか?」


 ユウラがスズナ達の方に目をやると、床にレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた【ウィトルウィウス的人体図】のように全裸で寝そべるレイの姿があった。


「って、お、お前何してんだよ!? さすがに全裸はダメだろ!」

「何を幼児体系に興奮しているのよ。あんたやっぱりロリコンなんじゃないの?」

「いや、ロリコンとかじゃなくてダメだろこれは」

「大丈夫よ。これ肌色に近いから全裸に見えているけど、クラフト専用の服よ。それに人工知能搭載の戦闘兵器であるALICEはたとえ全裸だろうと、都条例に引っ掛かることはないから安心しなさい」


 はっきり言ってここで都条例など問題ではない。そう思いながら、全裸のように見えたレイをよくよく見ると、確かにクラフト専用の服を着用していて、全裸ではないようだ。ユウラが、どこを見て判断したのかは敢えて触れないでおこう。


「それでも、クラフト専用の服は普通白だろう? 何で態々肌色っぽい服?」

「見やすいから」

「そうですか。んで、終わった?」

「ええ、一通り取り付けたわ」

「悪いけど、ルカが恥ずかしがって取り付けられないから、こっちも手伝ってくれるか?」

「良いわよ。って、あんた女の子のズボン脱がせて何しているのよ」

「何ってクラフトに決まってんだろ」

「まったく、これだから男はデリカシーがないって言われるのよ。女の子はね、裸に見える服を着ているよりも、実際に肌を露出したり下着見られたりするほうが、よっぽど恥かしいの! 幾ら妹でALICEだからって、もう少し女の子として扱ってあげたほうが良いと思うけど!」

「わ、悪かったな!」

「お兄ちゃんを悪く言わないで下さい」

「妹ちゃんは気にしなくていいのよ。あのデリカシーの欠片もないお兄ちゃんが悪いから」


 そう言うと、ルカを木箱の上に座らせ自分の上着を脱ぎ、ルカの足へそっと掛けた。そして、早々にプロテクト発生器を装着し終えると急かすようにズボンを着せた。


「終わったわよ」

「サンキューな」

「それで?」

「は?」

「妹ちゃんに何か言う事はないの?」

「ああ、さっきは恥ずかしい思いさせてごめん。次から気を付けるよ」

「い、いいよ! 全然気にしてないから! スズナさんもあんまりお兄ちゃんを責めないで!」

「分かったわ。ここは妹ちゃんに免じて許してあげる」

「そりゃどうも、ありがとうございました」


 正直に言って、何も悪いことをしたと思っていないユウラはスズナの余計なお節介に巻き込まれたと、かなり迷惑そうな顔をしていた。女心と秋の空とはよく言ったものだ。ユウラには、女心は全く分からない。


「じゃあ、妹ちゃんとレイは自分でプロテクトを起動できるか試してみて」

「やってみます!」

「かしこまりました」


 スズナの指示通りにプロテクトを起動したルカとレイの姿は、あっという間に見えなくなってしまった。


「プロテクトは問題なさそうだな。後は、起動中にどうやって指示を出すかだな」

「あら、私はもうその辺も考慮してクラフトして終わっているわよ」


 スズナは通常のプロテクトを取り付ける際に事前に外部からの通信が可能になるようなクラフトを施していたようだ。いつもならば、どちらが先に取り付けられるのかという勝負を挑んできて、1番になることに固執する場面のはずだったが、さすがに今回ばかりは自重しているらしい。


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