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ALICE♰CRAFT~序章:最愛なる君の記憶~  作者: 夢月真人
2nd.少女型戦闘兵器と姿なき天才
12/26

12.Don't put off till tomorrow what you can do today.

 周囲を取り巻く野次馬たちを掻い潜り、先を行くスズナ達を追いかけるため、ルカの制限(リミッター)を解除したユウラは、先日改造を施した最速最強の美脚を使って群集の中から離脱した。その姿もスズナ達のように人々の手によって撮影され映像として残された。


 その映像は、フジテレビをはじめとする6つの大手テレビ局へと送られ、瞬く間に日本全土へと広まっていった。現在の日本メディアは、ホログラムでの放送と一時期あるライトノベル作品の影響が大きかったVRを活用した体感型の放送の二種類が存在する。ホログラムの放送では一般的にニュースなどの報道関連で使用されており、軍事利用の際は会議などで用いられる。一方でVRの放送は、アニメやドラマなどの主人公目線に立った番組に使用され、映画業界ではVR映画というのが3D映画の代わりに普及し、身近なものになっている。その為、よりリアリティが追求される映像業界では一般人から集めた動画や衛星カメラで撮影された映像を用いて、様々な視点から視聴することを可能にする必要性があった。結果的に、テレビ局はより良い動画を提供した一般人に対して破格の報酬を支払うようになっていった。その為、物珍しい物を見つけては一攫千金を狙う動画収集家たちが急増している。


 そんな動画収集家たちの包囲網を抜け出したユウラたちは、直線距離7.2キロ先にある元東京都庁跡地に建設された第3司令部へ急行した。


 流石は最強最速の美脚。高層ビルに軽く飛び乗ると、あっという間に第3司令部に辿り着いてしまった。しかし、初めてルカに背負われながらの急上昇と急降下を繰り返したユウラは、到着と同時に嘔吐してしまった。


「お、お兄ちゃん!? 大丈夫!?」

「大丈夫、大丈夫。兄ちゃんは強いからな。うっぷ」


 本当は立っているのがやっとのはずなのに、妹には頼りない姿を見せられないと、虚勢を張っているが、嘔吐した後では全く説得力がない。フラつく足で第3司令部に入ると胸の前で腕を組み、誇らしげに仁王立ちをしているスズナがいた。


「はっはー! 私に負けた挙句にその様子じゃあ、次も私の勝ち確定ね!」

「姫様は誰にも負けません。それが必然です。なので、貴方達がここで負けたことを悔いる必要はありません」

「負けてないもんっ! クラフターの実技試験はお兄ちゃんが上だもんっ!」


 勝ち負けのどちらが悪いイメージかと言えば、もちろん負けの方だ。ユウラに悪いイメージがつかないように、懸命にフォローするがルカだったがデータ上、ユウラを弁護するために必要な情報がそれ以上ない。


「それは負け惜しみというものでしょうか? 姫様とユウラ様のデータを比較しましたが、99.2%の割合で姫様が優勢です。不明データを除けば、99.9%の割合で姫様が優勢です。つまり、どう転んでも姫様に軍配があがるということです。私の情報に間違いがあれば、訂正致しますが——」


 幼い出で立ちだが、ALICEはALICE。ルカ同様に様々なデータベースから情報収集するのは速い。スズナの絶対的有利を主張したレイは勝ち誇るどころか、飄々としている。


「訂正はありません! あなたの言う通り不明データを除けば、お兄ちゃんが勝てる確率は0.1%だけど、完璧に負けているわけじゃないのも事実でしょ!」

「ルカ、ここで勝ち負け言っている場合じゃない。兄ちゃんは、スズナより後に着いた。その事実は変わらない。今回は俺の負けってことにしてくれ。今はクダイ領長のところに行くのが先だ」

「でも!」

「でもじゃない」

「わかった。お兄ちゃんがそう言うなら、それで良いよ」


 納得はしていないようだが、優先順位を考えれば、素直に負けを認めて先を急ぐ以外の選択肢はない。


「賢明な判断だと思われます。僅かな可能性に賭けるのは利口だとは思えませんので」

「ふふ。オタクの兄を持つ妹さんとは違って、レイは私に似て有能ね! さあ、クダイ領長の所へ急ぐわよ! 次も私が勝つんだから!」


 勝手に2回戦目に突入したスズナは、レイを引き連れて足早に行ってしまった。


「ふう。やっと行ったか。俺たちも急ぐぞ」

「うんっ!」


 面倒なやり取りを終え、クダイ領長の待っている司令室へと急いだ。高さ1268mの高さを誇る日本で最も高い建造物としても知られる第3司令部の丁度中心部634mの場所に司令室がある。司令室は、元々エリア3D地区、かつて東京都台場区と呼ばれていた頃に台場区の象徴的なランドマークとして名を馳せた、日本最大級の民間放送局スタジオ【FCGビル】の球体部分。FCGビルが解体された際に直径32mの球体展望台を再利用して造られた物である。


 そこへは、直通の高速エレベーターで移動する。エレベーターは楕円形のカプセル型になっていて、通り道は真空状態になっている為、従来の構造とはかなり異なっている。


 真空状態したことにより生じた無重力空間に設置されたカプセルは重力装置によって移動している。その為、速度を調節する調速機(ガバナー)や、カプセルを吊り支えてながら、昇降の切り替えを行う主ロープ。そして、主ロープを用いて昇降を行う為の駆動機である巻上機(ギアレス)などの装置が用いられていない。軽量化に成功したエレベーターは、分速2460mで世界最速。


 世界最速のエレベーターに乗り込んだユウラたちは、マジックミラー越しに見える景色を眺める間も無く、約15秒で第3司令室へと到着した。


 エレベーターを降りると壁一面に数百台はあろうかというモニターが張り巡らされており、各エリアの防犯カメラの映像が映し出されていた。中央には司令官のクダイ領長が座っていて、それを取り囲むような形で扇型に他の隊員たちの席とコンピュータが並んでいる。


「アズマ・ユウラ、只今到着致しました」


 一足先に第3司令室に到着したスズナたちの横に整列した。


「二人とも随分遅かったが、何か問題でもあったのか?」

「いえ、召集命令の確認が遅くなってしまったので到着が今になってしまいました。申し訳ございません」

「私は巡回先が一番遠かった為、遅くなりました」

「そうか。それならまだ良い」


 クダイ領長は、深刻な顔をして二人を見つめると召集命令を出した経緯を話し始めた。


「これから話すことは、極秘任務として君たちクラフター諸君に遂行してもらいたい」

「極秘任務? 何かあったんですか?」

「先日行われた一次予選の際に閉所恐怖症で逃げ帰った男がいたのを覚えているか?」

「ええ、覚えています」

「単刀直入に言う。その男がALICEを連れて逃亡した」

「逃亡ですか?」

「そうだ。君たちにはその男とALICEの捕獲を頼みたい」

「クダイ領長。捕獲するのであれば、私たちがパトロールする際に伝えて頂ければ、捜索出来たのではないですか?」

「そう出来れば良かったのだが、ALICEを所有している以上、下手に情報を共有できん。あの男は閉所恐怖症を装って逃げた可能性が高い事から考えても相当頭の切れる相手だ」

「なるほど、つまり俺たちにALICEと一緒にパトロールをさせて間接的に情報を集めていたって事ですか?」

「そういう事だ。おかげで男の居場所が分かった」


 モニターに男とALICEの顔写真とパトロールをしていたALICEたちから収集した映像や防犯カメラと衛生カメラで撮影した映像が映し出された。


「ミヤギ・ヒロ。年齢27歳。身長175cm。君たちと同じ新東京大学クラフター専攻科を2182年に筆記と実技ともに首席で卒業。その後はクラフター職以外にシステムエンジニアとして、大手エレクトロニクスメーカーに勤務していた経歴を持つやり手だ」

「なんでそんな人が逃亡を?」

「そればかりは本人に聞いてみないことには分からんが、どんな理由があれ、核兵器に匹敵するALICEを連れている以上は危険視しなくてはならない。万が一、街中でALICEが暴走した場合の被害は甚大だ。地下シェルターに保管しているALICEも元所有者のクラフターが情報を提供しない所為で何体か暴走して手がつけられなかったのでな」


 ALICEを没収された元クラフターたちの中には、強制的に国が定めた決定事項に不服を申し立てた者たちも少なくはなかった。その結果、ALICEの個体ごとに異なるエネルギー源の摂取方法を伝えない者がいたせいで、対核兵器用地下シェルターに隔離していたALICEたちは暴走を始め、エネルギー源を求めて暴れ回っていた。幸いにも地下シェルターの壁はALICEに用いられる鉱石を使用していた為、破壊されることはなかったが、活動を停止するまでに平均で24時間、丸一日掛かった。それを踏まえて考えれば、街中で暴走した際の被害がどれ程のものになるのは想像がつく。


 エネルギー不足によるALICEの暴走が及ぼす危険性を良く知っていたユウラは、今置かれている状況の深刻さが分かっていた。


「クダイ領長。逃亡しているALICEのエネルギー消費量と逃亡してからの経過時間は分かりますか?」

制限(リミッター)を解除した形跡はない。恐らく通常の消費量のはずだ。旧国会議事堂から逃亡した日から考えれば、もう3日は経過しているはずだ」

「3日か。ルカ、今日エネルギー補給して制限(リミッター)を解除する直前までの消費量は何%か分かるか?」

「えっとね、5時間12分稼働していたから2.97%だよっ!」

「約3%か。あの後すぐにエネルギー補給出来たとしても、40%以上は確実に消費しているはずだけど、消費速度に個体差がある事から考えても5%〜10%くらいの誤差はあるはず——」

「それにエネルギー補給する時間帯も違うわよね?」

「ああ、恐らくだけど、首席で卒業するくらいの人物で大手エレクトロニクスメーカーに勤務していたなら、規則正しい生活をしていたはずだ」


 労働基準法が大幅に改定され、大手企業であれば尚更その基準に沿った労働をさせている。労働時間は1日6時間に限定された【6時間労働】が徹底されている。勿論、規定時間以上の勤務は禁止されている。出退社に関しても【出退社自由制】が取り入れられ、1日のうち6時間勤務さえすれば、個人個人の生活水準に合わせた出社時間と退社時間を自由に決めることが出来る。給与面に関しても最低限の生活が出来るように固定給が設定され、会社への貢献度によって給与が変動する【変動型給与制度】が採用されている。ユウラのようにクラフターとして個人事業を営んでいる者に関しては、それに該当しない。


 つまり、個人事業を営みながら大企業に勤めていたミヤギ・ヒロには決まった生活パターンがあると判断したのだ。


「さすがはクラフターだな。君の言うようにミヤギ・ヒロの出退社時間データを調べてみたが、午前7時と午後7時に分けて3時間ずつ勤務していたようだ。それも毎日1秒の誤差もなく行っている」

「1秒の誤差もないのか。なるほど、お陰で大体の検討はつきました。移動時間や準備時間から考えても午前11時から午後6時の間にクラフターとして働いている可能性が高いですよね。几帳面な性格からすると、30分刻みとかは好まないはずだから、午後8時以降のキリのいい時間にエネルギー補給をさせていた可能性が高い」

「それなら、毎日欠かさずエネルギー補給をしていたとしても逃亡する前日の午後8時にはエネルギー補給を済ませているってわけね」

「そう言うこと。4日前の午後8時からエネルギー補給出来ていないとすれば、誤差も計算に入れると現時点で約50%〜70%のエネルギーを消費しているはずだ」

「ちょっと待って。その計算通りだとしたら、最悪()()()()猶予がないってことになるわよ!?」

「ああ、あくまでも計算通りの生活をしていればの話だ。逃亡中は、エネルギー補給が出来ないと考えた方がいいし、確実に4日前にエネルギー補給したとは言い切れない。だから、()()()()()と思った方がいい」


 想定以上に最悪の事態だった。頭がキレる上にクラフターとしての実技もトップレベル。更には几帳面な性格で恐らく危ない橋は渡らない男を捜索及び捕獲しなくてはならない。万が一、タイムリミットを迎えることになれば、暴走したALICEによって国民の身に危険が及んでしまう。その被害は、地震や津波などの自然災害の比ではないことは確かだ。


 一刻の猶予も与えられない非常事態に、ユウラとスズナは今までに経験したことのない焦りを覚えた。

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