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それぞれの日常が戻った。

薫は、バイトとマンガの原稿を描く日々。

美雨は、会社と家を往復する日々。


何の変化もなく毎日が過ぎて行った。


バイト先から給料が振り込まれた日。

薫は美雨を、食事に誘おうと思いついた。


二度も食事をご馳走になっているし、

お礼がしたいと思った。


『女の人って、どういう所で食事したいんだろう……』

薫は、散々迷って美雨に直接聞く事にした。


少しドキドキしながら、交換した番号に電話をかけた。


『……はい』 電話越しの美雨の声は、気怠そうで、

少し辛そうにも聞こえた。


「あの、小山内さんですか?僕、萩原です」

『うん。知ってる』

やっぱり声がしんどそうだ。


「小山内さん体調悪いんですか?

何か、声が辛そうですけど……」


『ちょっと風邪引いちゃって……』

美雨の咳き込む声が聞こえる。


「大丈夫ですか?薬ありますか?食事は?」


『大丈夫。2〜3日食べなくたって死なないし……

ああ、でも もうスポーツドリンクがないな』


「僕、買って届けます。家、どこですか?」


薫は、美雨から聞いた住所で、何とか

スポーツドリンクや果物、薬を買って

届けにやって来た。


都心から少し離れた、静かな下町に、美雨の家はあった。


古い木造の2階建ての小さな家。

玄関で声をかけてみたが返事がない。

驚いた事にドアに鍵がかかっていない。


「小山内さーん!入りますよ」

薫はドアを開けて家の中へ入った。

随分散らかっていて、コンビニの袋らしき物が、廊下にまで転がっている。


「小山内さん……上ですか?」そう声をかけながら

2階へ上がって行くと、廊下でパジャマ姿の美雨が

倒れているのを発見した。


「小山内さん、しっかりしてください‼︎」

薫の声に、美雨がゆっくり目を開けた。


『はぎ……わら……くん、ほんとに……きたんだ……』

薫は、美雨を抱き起こしておでこに手を当てた。


「アツっ!小山内さん、熱あるじゃないですか⁉︎

とりあえず、ベッドに戻って」

『ちょっと待って、トイレ……』

薫は肩を貸した。


トイレから戻った美雨をベッドまで運び、

持って来たスポーツドリンクを飲ませた。



「小山内さん、台所借りていいですか?」

美雨は頷いた。


お世辞にも、片付いてるとは言えない台所で、

薫は手際よく、お粥を作った。


咲希と二人暮らしの時に、一通りの家事は教わっていた。

この程度は朝飯前だ。


お粥を持って、美雨の眠る部屋の前に立った。

「入りますよ」と呼びかけて、薫は美雨のそばに

お粥を運んだ。


美雨が再び目を開けた。


「お粥作ったんですけど、食べれますか?」

美雨は少し驚いたような顔をしたが、

すぐに『うん』と頷いた。


美雨は出来立てのお粥を、フーフー冷ましながら

一口含んだ。

『おいしい……』そう言った途端、彼女の

目から涙が零れた。


薫は慌てた。


『だって、手作りのご飯なんて、ほんとに、本当に

久しぶりで…… 嬉しくて……』

美雨は子供のように泣きじゃくった。


薫が笑った。

「小山内さんって、何か幼いよね」

『……』

「すみません……」

『萩原君、料理できるんだ』

「僕、叔母と二人暮らしだったんで、結構手伝いとかしてて……」

『叔母さんと?ご両親は?』

「亡くなりました。事故で」

『……ごめん』美雨の顔が一段と蒼ざめた。


「いえ。そんな事より、食べたら寝てくださいね。

風邪には、栄養と休養が一番ですから」

『はい……』

「あの……僕、下の部屋に泊めてもらってもいいですか?」

『はい!』

「何かあったら呼んでください」


薫は そう言うと、一階へ降り、軽く片付けを始めた。


美雨は、久しぶりに家の中に、自分一人きりじゃない

と思うと、嬉しくて仕方なかった。


ーーーー


翌朝……

身体が軽くなった気がした美雨は、一階へ降りてみた。


薫が、茶の間で細い身体を丸くして眠っていた。

着ていたコートを毛布代わりにして……


雑然としていた茶の間は、スッキリと片付いていた。

片付いた部屋に

眠っている薫の姿が、なぜか胸に沁みて、また涙がこみ上げて来た。


眠りから覚めた薫の目が、美雨の姿を捉えた。

「あ、おはようございます。もう、大丈夫ですか?」

『お陰様で。熱も下がったみたい』

「良かった!でも、今日はまだ休んでた方がいいですよ。

僕はこれで帰ります」


『え?帰るの?』

「え?だって……」

『このまま住めばいいじゃない』

「そういう訳には……」

『見たでしょう?二階にもう一つ部屋があるの。

あそこ使っていいから。ね?』


美雨の必死の説得に、薫が折れる形で、二人の

奇妙な同居生活が始まった。





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