再会
翌日、警察に財布を落とした事を連絡すると、
驚いた事に、親切な人が拾って届けてくれていた。
薫は、警察署に財布を取りに行く事にした。
警察署で無事 財布を受け取り、ついでに
美雨が通院していると思われる、病院の場所を聞いて、
その病院に行ってみる事にした。
大きな総合病院の受付に、美雨の診察券を出して
「これ拾ったんですけど……」と申し出た。
『ありがとうございます。患者様にお渡ししますので』
受付の女性は笑顔で答えた。
薫は無理を承知で言ってみた。
「あの……この人と会うことはできないでしょうか?
実は僕、この人にお金借りてて、返したいんですけど……」
受付の女性は
『個人情報を、お話しする事はできませんし……』と言った。
彼は
「それじゃあ、お金をここで預かってもらえませんか?
その人が、ここへ診察に来た時に返してもらえませんか?」と食い下がった。
受付の女性は いよいよ困った顔で
『そういった事はちょっと……』と返した。
薫が受付の女性と そんなやり取りをしていると、
背後から女性の声で
『萩原君⁉︎』と呼ばれ、振り向いた。
「あ!小山内さん‼︎ 」
『どうしたの?こんな所で』
「あの、昨夜借りたお札の間に、この病院の診察券が
挟まってて、これ返そうと思って。それに、どうしても
お金を返したくて、今、受付の人に頼んでたんです」
『出世払いでいいって言ったじゃん』
美雨が少し呆れ気味に言うと、
「そう言うわけにはいきませんから……」と言いつつ財布から
お札を取り出し、美雨に渡した。
『ありがとう』
なぜか美雨が礼を言った。
「いえ、こちらこそ。本当にありがとうございました。
助かりました」薫も礼を言った。
『ところでさ、萩原君お腹空いてない?わたし、診察
終わったし、お昼一緒にどう?』
美雨の誘いを断る理由もなかったので、薫は美雨と共に
近くのファミレスに入った。
そこで 美雨は、自分には持病があり、定期的に通院している事、
昨夜 薫が座り込んでいた場所の、すぐ近くの会社で働いている事、
自宅もそこから 、それ程遠くない事などを話した。
薫も今後、もう夢を諦めて就職するか、もう少し粘ってみるか
悩んでいることを話した。
不意に美雨が
『インターネットは?』と言った。
薫がキョトンとしていると、
『最近、インターネット上でマンガ描いてる人、
沢山いるみたいだから。せっかく原稿があるなら
ネット上で世間に公表してみたら?』と美雨が言った。
確かに薫も考えなくはなかった。
ただパソコン以外にも、ペンタブや、イラストのツールソフトなど
必要な物が色々あって、とても薫の経済力では
叶いそうもないと思っていた。
正直に美雨にその事を話した。
美雨は暫く黙っていたが、コーヒーを飲みながら
静かに言った。
『うちへ来る?』
薫は、口の中のコーヒーを、美雨の顔に吹きかけそうになった。
「はあ⁉︎ 」
『だって、家賃とか光熱費とか食費とか、バイト代は
みんな そっちへ使っちゃってるでしょ?そんなんじゃ、
描く環境がちっとも作れないじゃない。
うちね、小さな家だけど部屋は余ってるの。
前は祖母と暮らしてたんだけどね、亡くなってからは
1人で住んでるのよ。
何かと物騒だし、男性がいれば心強いし、うちに
住んだら?今流行りのルームシェア!』
「……」
正直、この女性は正気だろうかと薫は思った。
さして面識もない、しかも異性を、ひとつ屋根の下に
住まわせるなんて……
ただ美雨の言う通り、今のバイト生活をしながら、
ネットでマンガを描く環境を作るのは難しい。
薫が真剣に悩んでいると、美雨が
『今すぐ答えなくてもいいから。その気になったら連絡して』
そう言いながら携帯を出した。
2人は連絡先を交換して店を出た。
『女の人に生活の面倒みてもらうとか、マジ無理だし……』
薫は溜息をつきながら帰路についた。




