第3話 助けの言葉
「初めましてだね。宮下君」
依神に紹介された少女は「柳 舞奈(やなぎ まな)」といった。
淡い栗色の長い髪を後ろで一つに縛り、幼い顔立ちをしている。背丈も低く、小柄な真よりもさらに小さい。
同年代の女性と比べても、かなり小柄だ。
下手をすると中学生に見えるのでは、と思った彼女の首元の帯の色は、先ほどの図書委員の先輩と同じものだった。
彼女は三年生である。
「夢の話だったね」
柳は確認するように聞いてきた。
依神に話した程度の事は彼女にも伝わっているらしい。
真は彼女の対面に、依神は少し離れて柳の後ろに座っている。
「はい。同じ夢を繰り返し見ているんです」
うん、と彼女は頷く。
「ありきたりな事を言わせてもらえば、ストレスとか、強く気にしてる事とかが原因だと思うけど」
「はい。ただ、僕はそう言った悩みはないつもりで、少なくとも自覚はないんです」
「そっか。まあ、一般的な認識で解決するなら悩んだりしないよね」
会話をしながら柳は顎に指を当て、何やら考え始める。
真はそんな彼女を眺めつつ、ふと気になったことを聞いてみることにした。
「あの、柳先輩はカウンセリングみたいな事に詳しいんですか?」
「違うよ」
あっさりとした返答。
「わたしはその手の専門家じゃないから。だから、わたしの方の専門でアドバイスしようかな」
「専門・・・ですか?」
疑問を口にすると、柳はこくんと頷く。
「とりあえず、詳しい内容が知りたいかな。あ、話したくない所は話さなくていいからね」
彼女に聞かれ、真は夢の内容を話していく。
白い髪の少女。白い部屋。
一月ぐらいは夢を見続けている事。
ただ、少女の最後の言葉は言うのをはばかられた。
「宮下君は、その子に心当たりはないんだね?」
「はい。さすがに白い髪の子なんて、一度会ったら忘れません」
しかも、夢の中の少女は綺麗だ。忘れるわけがない。
「ん~。もしかしたら、小さい頃に会ってて髪の色が変わってるとかも考えられるけど。それなら、どうして別の髪色で夢に出てくるか、が分からないか」
しばらく柳は考える。
「うん。やっぱり、私のやり方にしよう」
彼女は言うと、少し椅子を引いて座り直し姿勢を正す。
彼女の後ろで依神も少し座る位置を直した。
「宮下君、まず最初に言っておくけど、わたしの専門はオカルトの類だから。科学的な根拠とかは全然ない。そのつもりで聞いてね」
オカルトか。それでも構わない。自分では何もできない。
真は納得する。
「分かりました」
柳が一呼吸おいてから口を開く。
「夢渡り(ゆめわたり)、て知ってるかな?」
聞いた事がない。素直に首を横に振る。
「特別な才能を持った人が、寝ている間に他人の夢に入り込む事を言うんだけどね。普通は小さい子供が無意識でしちゃう事なんだよ。そして、成長すると共に、その事を忘れて才能も消えてくんだけど・・・。でも時々、成長してもその事を忘れないで、尚且つ才能を伸ばしていく人もいる。そんな人は、徐々に意識して指定した相手や場所にも行けるようになる。もちろん、寝ている間だけね」
夢渡り
あの白い少女が、その能力を使えるのだとすれば話は通る。
これ以上ないぐらいに納得できる。
ただ、
「どうして、僕なんでしょう。あった事もないはずなのに」
これが分からない。
何より彼女の最後の言葉。
何故あんな言を。
「そこは、わたしにも何とも言えないかなぁ」
柳は腕を組んで考える。
「ただ、夢渡りなら相手と話ができるはずだよ。その子に聞いてみるのが確実なんじゃないかな」
話ができる。
真は言葉の意味を理解するまでの間に、一瞬思考が停止する。
真は、あの夢の世界で何もしなかった。
何もできないと思っていた。
思い込んでいた。
「声をかければよかったんだ」
思わず声に出す。
簡単な事だ。
閉塞感から一歩抜け出せた気がした。
「でも、言っておくけど、すぐ現実みたいに会話ができるかは、分からないからね。わたしも他人から教わった知識だし、その子の能力の強さとか、扱い方とか。あと、宮下君との相性もあるだろうし」
柳は一応、と釘を刺すように口にする。
だが、真は決意したように
「はい。でも、今までは何もしてませんでしたから。話しかけるだけでも、できればやってみます」
と、返した。
何かをする。
一歩を踏み出す。
それは、きっと大事な事だ。