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神憑いちゃうぞ!  作者: 黒井のん
8/19

ダンジョン

モンスターと初戦闘!

といってもヒロシは結構慎重にものを進めるタイプなので今回の戦闘はあっさり気味です。

「うわぁ……思ってたよりも広いな」

「わふっ!」


 ヒロシが決意を新たににしてから三日後。

 ヒロシたちはダンジョンへとやってきていた。ダンジョン攻略までの時間が延びたのは修行期間を延ばしたからだ。

 現状、ヒロシの攻撃手段はナイフと空間魔法のみだ。ユキのステータスが恐ろしく高いのでヒロシは後衛に回っていればまず問題はないだろうが不意討ちの可能性や、囲まれてしまう危険性を考慮するとヒロシ自身も最低限戦えるようにする必要があった。

 いくつかのテストと、ユキとの模擬戦を通して「死なないようにする」程度なら問題ないと判断しダンジョンへとやってきた。

 タラントのダンジョン『新緑と洞窟』はタラントの中央に位置し、巨大なドーム型の建物によって覆われている。この建物はタラント領主直轄の騎士団の屯所にもなっておりダンジョンでなにか事故が起こった際に即座に対応できるようになっている。

 ダンジョンに入るには探索者ギルドの証明書さえあれば良いのでヒロシたちは証明書を提示してダンジョンへと入った。

 ユキという強大な従魔を連れているとはいえ、まんま町民の服装と武器はナイフのみという出で立ちは周囲の探索者から侮蔑の対象として見られていた。

 ヒロシが逆の立場なら「あいつ大丈夫か?」と思っただろうから彼らに対してなんら思うことはない。

 さすがに絡んできたら返り討ちにしてやろうと画策していたのだが〝残念なことに〟そんなことにはならなかった。


「洞窟っていうより坑道だな。暗くもないし、簡易だが舗装もされてる。ダンジョンらしいって言えばそうなんだけど、なんか違う感じがするなぁ」

「わふ?」


 ダンジョン『新緑と洞窟』は迷路ように入り組んだ洞窟と、森を思わせる広場が合わさった迷宮型のダンジョンだ。

 洞窟部分では鉱石が、森では薬草などを採取することが出来、出現するモンスターも低階層ではランクが低いため初心者にもやさしい作りになっている。

 しかし、五階層を境に急激に難易度が上がりはじめ十階層から以降十の倍数の階層にはボスと呼ばれる極めて強力なモンスターが立ちはだかる。

 ボスのドロップアイテムは高価で取引されるため実力ある探索者たちによって定期的に狩られているらしい。ヒロシも最終的にはボス狩りで資金稼ぎをするつもりだが、リスクは命に直結する以上無理をするつもりは一切ない。


「なあ、ユキ。周囲にモンスターがいるかどうかってお前分かるか?」

「わふっ」


「分かるよ!」とユキは元気よく頷く。


「それなら単体か、もしくは二匹で固まってるモンスターがいるところへ案内してくれないか。地図は買ってきたからこれを参考にしてくれ。あ、出来れば周囲に他の探索者がいないところがいい」

「わふっ!」


 ダンジョンの地図はギルドが一括して管理しており、階層が深くなるに連れて徐々に高くなっていく。一階層の地図は十ジェニーで、十階層までは十ジェニーずつ高くなっていく。それ以降の地図は一気に値段が上がるので、ひとまずヒロシはモンスターが強くなると言われている五階層までの地図を購入した。


「わふ~」


「ついてきて」とユキは尻尾を振りながら歩き始める。

 一階層だけあってか、ヒロシと同じようにモンスターを探して歩いている初心者らしき探索者たちがいる。そのほとんどが三・四人のパーティで、ソロで行動している探索者はいない。

 ユキに気付くと決まってギョっとした顔をする。その後、首輪に気付きヒロシに気付き最後にはヒロシの身なりを見てなんとも言えない顔をするまでがテンプレだ。

 あからさまに侮蔑の視線を向けてこないだけマシだが、やはり見た目に関しては早めに対応した方がいいだろう。このままではいらん面倒を抱え込みそうな気がする。


「武器は魔法使いってことにして、せめてローブとかコートとかそれっぽい服は着たほうがいいな」


 今日の稼ぎがどれくらいかで装備品のグレードが決まるだろう。

 さすがに一日で十ジェニーくらいの稼ぎしかないのに装備で千、二千と使うわけにもいかないだろう。


「わふっ」


「そろそろつくよ」とユキはヒロシの服の端を引っ張った。

 長く続く通路の先に小さい影は二つほど見える。

 ゆっくりと近づいていく。


「うわぁ…………まんまゴブリンじゃん」


 現れたのは身長一メートルちょいの全身緑色をした亜人だった。

 頭部に毛はなく、耳は尖がっている。鼻と口は大きいのに、目は小さいため凶悪な猿のように見える。

 腰布を纏っている以外はなにも着ておらず手には石や木で作ったと思わしき武器が握られている。

 ギルドで調べた情報によると大人が力任せに棒で殴れば倒せてしまうほどに弱いらしいが、反撃してくるため油断していると大怪我をする。ゴブリンの武器は不潔であるため怪我をすれば化膿、腐食する可能性があり小さな怪我でも油断できない。

 ゴブリンはこっちに気がついたのか雄たけびを上げて威嚇する。


「できれば一対一でやりたいから、ユキ。一匹頼める?」

「わふ~」


 返事をするなりユキの姿がかき消えた。

 残像すら残さず風となったユキ。次にその姿を確認できたのは頚動脈を噛み千切られ噴水のように血を流すゴブリンを咥える姿だ。瞬きをする暇すらなかった。

 ステータスの敏捷の値がバカげた高さをしているのは知っていたし、模擬戦で何度も姿を見失ったこともあるが本気で戦うとここまで速いのか。

 目を丸くして驚くヒロシだが、それ以上に驚いているのは仲間を殺されたゴブリンだった。見るからに慌てふためき、絶対強者たるユキから少しでも距離を取ろうとへっぴり腰で後退していく。

 ブチリと噛み千切られたゴブリンが光となって消えていく。


「今なら隙だらけだなぁ」


 完全にヘイト――ゲーム用語で相手の注目、敵意のこと――がユキに向いている。そっと近づいてナイフで後頭部を殴ればそれだけで勝てそうだが今後のために実験をしておこう。


「行くぞ!」


掛け声と共に魔力を込める。

 直後、ヒロシの視界が一瞬で移動する。否、正確にはヒロシが瞬間移動したのだ。

 モザイクが掛かったように周囲の景色ごとぐにゃりと歪曲しなにか吸い込まれるようにしてその姿が掻き消えると同時にゴブリンの背後へと移動する。

 空間魔法『ショートジャンプ』

 ヒロシが作り出した移動魔法だ。目で見ている場所へと移動するため壁の向こうや、地下など目に見えていない場所には移動できず、移動できる距離も最大で十メートルほどと欠点も多いが魔力の消費が少なく連続して使うこともできるなどメリットも多い。


「続けてッ!」


 ゴブリンの首筋に合わせてヒロシはすっと右手の人差し指を横に引いた。

 ゴブリンの首に赤い線が走ったかと思うとそのままズルリと線に沿って首がズレた。零れ落ちたゴブリンの頭はなにが起きたか分かっていないのか呆けた表情をしている。

 指令塔を失った胴体が崩れ落ちるのと同時に光となって消えていった。

 コロンと軽い音を立てて転がったのは恐らくドロップアイテムだろう。


「うまくいったか。ゴブリン相手ならかなり有効だな」


 空間魔法『ディスプレイス』

 空間そのものをズラすことで切断、貫通、衝撃を与える魔法だ。今回は指で線を引いた部分だけ横にズラしたのだ。対象の固さや質量によって消費される魔力が変わるため最小限の干渉でしとめることが望ましい。

 ゴブリン相手ならばほとんど魔力を消費しないで倒すことが可能だ。


「それにしても倒したら光になって消えるって……完全にゲームだな。いや、まあ死体が残ってもどうしろって話なんだけどさ」


 死体どころか血の後すら残らないのはどうなのだろう。

 命を奪うことに対する忌避感が和らぐのは助かるが、今後のこと――盗賊などの対人戦――を考慮するとこれではあまり意味がない。ヒロシはダンジョン攻略に際して他の探索者や盗賊などと戦う可能性も考慮していた。

 ゴブリンのような人に近い生物を殺すことでそこらへんの意識が改革されることをちょっと期待していただけに少し物足りなさを感じる。


「ドロップアイテムはなにかな~っと」


 赤い石のようなものを拾う。


『ゴブリンハート』

説明:ゴブリンの心臓が死して結晶化したもの。高純度の魔力を含んでいる。

品質:上質

価値:五百ジェニー


「あれ? かなり高いぞ。ゴブリンのアイテムにしては高すぎないか」


 探索者が命と引き換えに高額の報酬を得ている職とはいえ、ゴブリン一体倒して五百ジェニーはいくらなんでもおかしい。

 物価的に見て、一ジェニー=百円だからゴブリン一体倒すだけで五万円だ。これはいくらなんでもおかしい。


「もしかして、ドロップアイテムって一個じゃなくて複数種類があるのか? だとするとこれはレアアイテムってことになるのかね。そういえば、ユキの方はアイテム落ちなかったのか?」

「くーん」


 アイテムは出なかったのかユキが申し訳なさそうに耳をペタリと下げた。


「ユキが悪いわけじゃない。というか、むしろよくやったって言うべきかな」

「わふ?」

「アイテムドロップに関しての実証がしたい。さっきと同じように二体くらいいる場所があったら案内してくれ。なかったら三体とかでもいい」

「わふ~」


 ユキの案内で、ヒロシたちは少人数で固まっているゴブリンたちを狩っていく。二体の場合は一体ずつ狩り、三体以上の場合はなるべくヒロシが多く倒すようにしていく。

 二日間の練習で、ヒロシは自分が持つ魔力量に関しては完璧に把握しているので戦闘中に魔力切れを起こすなんてヘマはしない。さくさくとゴブリンを狩っていき、二十匹ほど狩ったところでヒロシは休憩を入れることにした。


「ふぅ、体感的にはこれで一時間ちょいかな? これで二十体なら十分かな」

「わふ」


 ユキのおかげで広いダンジョン内をモンスターを探してうろつく必要がないので最短時間でモンスターを狩れているはずだ。

 大規模な集団には手を出していないのでその分損をしているが、今日は自分がどれくらい戦えるのかを見るために来ているので稼ぎは二の次だ。


「ドロップアイテムに関しては思った通りの結果になったな」


 ヒロシたちが手に入れたドロップは以下。

 ゴブリンハートが二個に、ゴブリンの牙が十個だった。

 その内、ヒロシがトドメを刺したゴブリンの落としたアイテムがゴブリンハート二個と、ゴブリンの牙が八個だ。

 つまり――


「ドロップアイテムの取得率やレア率にもオレの幸運の恩恵があるってことだな。問題はオレがトドメを刺さないと効果が出ないってところか。同じパーティメンバーにも効果があるならめちゃくちゃ有効だったんだけどそううまくいかないか」

「わふ~」


 ユキの殲滅力を生かして狩りまくれば一躍大金持ちになれたかもしれない。


「今日の稼ぎとしてはもう十分か。ゴブリン相手だとあまり練習にならないし、今日はもう戻ろう」

「わふっ」


 従魔使いということでかなり目立ってしまっているということはラファエルから聞いているが、あまり派手に稼ぐと目立つ理由が変わってくる。

 いかにも初心者です。といった今のヒロシの格好では余計な騒動を呼び込むだろう。


「面倒だけど数日かけて金を稼いで装備品を揃えよう。五階層までならそれほどモンスターも強くないらしいし明日から一階層ずつ深くしていこう」


 別に急ぐ必要などどこにもない。

 命を大事にしながらのんびり進んでいけばいい。

 ヒロシはドロップ品をアイテムボックスにしまうとダンジョンを後にした。


ついに幸運のチートくささが出てきました。

今後は話を加速させるためにヒロシには積極的に動いてもらうことになります

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