黄金の小麦亭
紹介された宿屋に向かう道中。ヒロシとユキは露天をひやかしつつウインドウショッピングに興じていた。
ヒロシは両手にさきほど露天で買ったホーンボアの串焼きを持っている。右手の串はユキの分だ。ヒロシが左の串の肉を齧るのに合わせてユキも器用にヒロシの持つ串から肉をかじってむしゃむしゃと咀嚼している。
よほど気に入ったのか一口食べるなり串を飲み込む気か思うほどに大口を開けて肉に齧り付く。
尻尾を大きく振って満足そうにユキは「きゅ~ん」と鳴いた。
串の肉がなくなったことに気がついたユキが物欲しそうな顔でこっちを見てくる。ヒロシは仕方ないなと肩をすくめて左手に持っていた方の串をユキに向けてやると、「食べてもいいの?」とユキが首を傾げてくる。
「食べていいよ」と頷いてやると、ユキは尻尾をブンブン振って肉を齧り出した。
この勢いだともう二・三本買っておいた方がよかったかもとヒロシは苦笑する。
「それにしてもいろんな物が売ってるなぁ。見たことがない果物も多いし、これはしばらくカルチャーショックに悩まれそうだな」
やれやれとヒロシは額を押さえた。
この世界の文化水準や市場価格を知りたくて大通りの露天を眺め、道沿いに飾られている商品をチラ見していたがおおよそ中性ヨーロッパ程度の文化水準で間違いはなさそうだ。ただ、時折見たことが無い道具や果物がある。
また、道行く人間の中に魔法と思われるものを使用する人たちがいる。
なにもない空中から水を生み出して桶に入れている者や、竈に火をつける際に杖を振って火を起こしている者。さきほどは手をかざしただけで土が盛り上がり、簡易の台を作り出している者もいた。
(この世界には魔法があるみたいだ。なるべく早く入手したいが……手段がぱっと思いつかないな)
定番であれば師匠的役割の人間と出会うか、魔術の教本などを買って自力で取得するかだ。
自力取得のルートは大概転生した場合に用いられ、幼少の頃から鍛えることで英雄レベルにまで成長するというのがテンプレだが、転移でやってきたヒロシはのんびり時間をかけて修行するというルートは選び難い。
かといって魔法系チートなんてもらっていないので魔法を手に入れていきなり使いこなすなんてことも無理そうだ。
(いや、優秀な魔道具とか入手するパターンもあるか? 運特化だしむしろそういうパターンの方がありえそうだな)
今後についてあれこれ考えながら通りを歩く。
街の人たちはユキを見て一瞬ぎょっとした顔をするが、首輪がついているのを見て目を丸くし、その隣を歩いているヒロシを見てまたもぎょっとし、最後には「まあ、いいか」とばかりに肩をすくめていく。
(いかにも強そうなユキと、いかにも弱そうなオレの対比に驚き、考えるのが面倒になったって感じかな。まあ、オレだって似たようなコンビがいたら同じような反応するだろうしな)
と、同時にどうやってユキのような従魔を手に入れたのか知ろうするだろう。
ゲーマーとしては当然の反応だが、これと同じことがこの世界の人間にも言えるのならこうして街を歩いているだけでいらん面倒ごとを引き寄せている可能性がある。
(しばらくは目立たないようにゆっくりやっていくつもりだったけど……ユキがここまで注目されるのは予想外だった。モンスターがいる世界だしユキくらいの奴がごろごろいるのかと思ったんだが)
過ぎたことをうだうだ言ってても仕方がない。
目立っているという前提で今後は動けばいいだろう。むしろ隠れてこそこそする必要がなくなったのだから動きやすくなったと思えばいい。
無理やり気分を変えて商品を見ていく。
ぱっと見たところ食品や日常雑貨の類は安く、武器や薬など探索者向けの商品は割高だ。さっき食べた串焼きが一本一ジェニーだったのに対し、なんの変哲もないただの鉄の剣が二千ジェニーもしていた。
(ざっと見た感じ、一ジェニーは百円とほぼ同等って感じだな。ってことは鉄の剣は二十万円? 高いと思うべきなのか安いと思うべきなのか判断に困るなぁ)
串焼きを買うときに確認したが、現在のヒロシの全財産は銅貨が三十七枚、銀貨が十五枚だ。串焼き屋の店主に銀貨を渡しておつりを貰おうとした際に店主が「百ジェニー銀貨? 銅貨はねえのかい?」と聞き返したところを見ると、おそらく銅貨百枚で銀貨一枚と同等というわけだ。
つまり現在のヒロシの全財産は千五百三十七ジェニーというわけだ。
(日本円換算で大体十五万円。オレの手取りとほぼ同額か……)
こっちの世界に来る前に、それだけの金額を全額ガチャにぶち込み玉砕した苦い思い出が浮かび上がってくる。
(今のオレならガチャで無双できそうだよな。こっちの世界にガチャってないのかな)
そんなことを考えたからだろうか。
ヒロシの目に「ランダムジェム」と書かれた商品が目に付いた。
売っているのはいかにもうだつがあがらなそうな若い商人だ。地面に直接敷いた布の上に乱雑に商品を並べ、その前に商品名と値段を書いた板を置いている。
商売する気がないのか仏頂面で明後日の方を向いて耳を掻いている。
ランダムジェムの値段を見てみると、乱暴な字で百ジェニーと記載されている。その文字の上にはバツで消された百五十ジェニーという文字が見えた。あまりに売れないから値下げしたということだろう。
(百ジェニーってことは銀貨一枚か。稼ぐ手段を確立してない状況でこの額の出費は痛いな。でも、ランダムって言葉には惹かれる。効果は分からないけど、オレの運のステータスがランダム要素に対してどれだけ有効なのか早めに調べておきたいし)
まずはどういう商品なのか知らないことには判断できない。
そう考え、ヒロシは商人にジェムを指差して話しかける。
「すいません。これってどういうアイテムなんですか?」
「あぁ? ……あぁ、ランダムジェムことか?」
「そうです」
商人は実に面倒くさそうにこっちに顔を向けると訝しそうな顔をする。
なにか変な質問でもしただろうか?
「これを知らないってことは兄さん探索者じゃねえな? こいつはダンジョンに入れば手に入れるのはそう難しくねえからよ」
「そうなんですか? あ、あとオレ一応探索者ですよ。といっても登録したのついさっきですけど」
「なるほど新人さんかい。なら、この商品はオススメだな」
「どういうことですか?」
「こいつはな。使用することでなんかしらのスキルを手に入れることができる…………場合があるアイテムなんだわ」
「へぇ……」
ヒロシは商人の説明に喜色を浮かべそうになり、それを必死に押し隠した。
幸い商人は商品の方へ視線を向けていたためとっさに浮かんでしまった笑みは見られずに済んだ。
――このアイテム。スキルガチャだ!
商人の口ぶりと値段から察するに、おそらくスキルを入手できる確立は低いのだろう。
入手確立とスキルの抽選に運の要素が絡んでいるのだとすれば、ヒロシにとってこのアイテムは好きなスキルを入手できるチートアイテムと化す。
なにがなんでも手に入れたい。一つでも多く。
最悪ここで全財産を失っても結果的にお釣りがくるのは間違いない。投資するべきはここだ。
「面白いアイテムですね。でも、そんなすごい効果なのになんでこんなに安いんです?」
「うっ……いや、そのあれだ。ダンジョンさえ行けばすぐに手に入るアイテムだからだよ」
「なら今どれくらいこの商品を扱っているんです? 見たところここには二つしか並んでいないみたいですけど」
「他のは売れちまったんだよ! 兄さんもそれが欲しいなら早めに買っておかないとなくなっちまうぜ?」
商機と見たのか商人が売り込んでくる。
しかしまだこちらは知らないアイテムに対して質問しただけというスタンスを崩してはいない。ここは一度引く。
不景気の日本でたった三年とはいえ営業に携わってきたのは伊達じゃない。営業で鍛えた交渉術を活用して値切りまくってやる。
「そうですか。それは残念です。まだここには来たばかりであまりお金がありませんので百ジェニーは厳しいです。それにダンジョンに入ればすぐ手に入るなら自分で手に入れればいいですし」
自分の発言を逆手に取られ商人が「うっ」と小さく呻いた。
さぁ、どうやって切り返す?
まだ舌を使っていくつもりならこっちはそれを利用してさらに追い込んでいくだけだ。ヒロシは確かにこのアイテムが欲しいが、別にいますぐ入手する必要はない。むしろここでランダムジェムの情報を入手しただけでも十分すぎるほどの利益を得ているのだ。
がっつく必要はない。
欲しいのは確かだし、全財産はたいてでも数を揃えたいのは事実だが、それをここで行う必要はないのである。
「い、いや! そりゃ無理だ。簡単に手に入るって言ったのは上級者だけの話でな。新人さんはそう簡単に手に入るもんじゃねえんだよ」
「だとすればもっと高価なアイテムになるのではないですか? 上級探索者の稼ぎは相当なものだと聞きます。たった百ジェニーのアイテムをわざわざ持って帰ってくるのは損をしているような気がします。手に入れた先でさっさと使ってしまえばいいわけですし」
またも発言を逆手にとって反撃する。
商人はもうぐうの音も出ないのかうんうんと唸り出した。
ヒロシにしてみればまだまだ反撃できるだろうにと思うのだが、この世界の交渉術はそれほど発達していないのかもしれない。それか単にこの商人が無能なだけか。
「あぁ! 分かった。一個八十ジェニーでどうだ?」
ついに値下げが始まった。
いきなり二割下げてきたということはもっと下げられるだろう。ここは吹っかけていこう。
「一個五十で」
「そりゃ無茶苦茶だ! 赤字になっちまう」
「じゃあいらないです」
「ま、待ってくれ。一個七十五だ。二つで百五十でどうだ?」
よほど人気のない商品なのだろう。
別に買うなんて一言も言っていないのに勝手に値下げを始める。
ヒロシにとっては有効なアイテムだが、この世界の住人――ひいては探索者にとっては――それほど必要なアイテムではないのだろうか?
それならば今後は探索者たちに直接交渉してランダムジェムを売ってもらうのもいいかもしれない。
「一個五十五で」
「くぅ……七十二だ」
「五十五で」
「一個七十だ。これ以上はもう無理だ」
「う~ん、ちょっと厳しいんですけどまあいいでしょう。一個六十五で買いますよ」
「あぁ! くそっ! 分かったよ。それで持ってけ!」
「毎度あり~」
商人に金を払いジェムを受け取る。
去り際に商人が「二度と来るな!」と涙目で見送ってくれた。
また欲しいアイテムを扱っていたらあそこで買ってあげよう。値下げのサービスが充実しているみたいだし。
「きゅ~」
交渉をずっと見ていたユキがなにか言いたそうな顔でこっちを見ている。
豊穣の神様だったユキにしてみればこういう人間の狡賢い面を見るのは不快だったんだろうか?
「そんな顔をするなって。お金は大事なんだぞ? それに浮いたお金でまた串焼きを買うことだって出来るわけだし」
「わふっ!?」
串焼きと聞いてユキの目が輝きだす。
――うん。こいつチョロすぎる。
お供え一つでほいほい奇跡でも起こしそうな勢いだ。
というか構って欲しかっただけなんだろう。ユキの喉をコリコリと掻くように撫でてやるとユキはふにゃりと体から力を抜いた。そのまま撫で続けてやるとひっくり返って腹を見せてくる。
あっさり服従する神って一体? ヒロシは口元をひくつかせる。
ぷよぷよとしたユキのお腹を突きながら、ヒロシはランダムジェムについての考察を始める。
(『超幸運』がどれくらい有効なのかが問題だな。段階としては狙ったスキルが手に入るが一番上で、次に狙ったものではないにしろスキルが確実に手に入る。最後に、普通に比べればスキル入手の確立が高い。くらいか)
狙ったスキルが手に入るのが一番良いが、スキルが確実に手に入るだけでも十分だ。
別にスキルさえ手に入ればなんとでもなると考えているのではなく、そもそもランダムジェムの仕様の関係で狙ったスキルが手に入らない可能性があるからだ。
例えば、ジェム毎に手に入るスキルが決まっていてランダム性があるのはスキルが手に入るかどうかという点のみという可能性。もしくは、ランダムジェムで手に入るスキルはある程度決まっていてその中から抽選されている可能性だ。
それに狙ったスキルが手に入ったとしても、それが抽選の結果で手に入れたのか、そもそもジェムがその狙ったスキルだったのか判別ができない。
(結局のところ、スキルが手に入ったなら運の要素が絡んだ状況であればスキルが有効であると判別は出来る。それだけでも十分だ)
つまりはこのアイテムは試金石なのだ。
ヒロシはこのアイテムを使ってチートスキルを引き当てようとしているのではなく、自身の持つ力の検証をしたいのだ。
慎重すぎると思われるかもしれないが、ヒロシの今までの人生は〝運が絡むと必ず負ける〟人生だった。そのため運の要素を極力省いて確実に手に入るものだけを選び抜いていく必要があった。
もちろん運がないと分かっていてもギャンブル性のあるものに手を出すこともあったが、損することは予め覚悟していた。
(大事なのは判断するための材料を集めることだ。まだこの世界に来て初日。集められる情報はなんでも集めていかないとな)
銅貨と一緒に布袋にしまったジェムを袋の上から握り締める。
こいつの検証は宿を取って一人になれる状況を作ってからだ。オープンスペースでやるようなことじゃないし、ジェムを使っているところは可能な限り誰にも見られたくは無い。
ジェムを使って手に入れることが出来たとバレれば間違いなく今後ジェムを入手することが難しくなる。
それはヒロシの望む展開ではない。
(落ち着いて情報収集を行うためにもまずは宿を確保しないとな)
ユキをあやしながらヒロシはニっと笑みを浮かべた。
ギルドから歩くこと約半時間。
ヒロシたちは目当ての宿屋へとたどり着いた。
木造の落ち着いた外観をしている。入り口の前にはせっせとほうきで掃除をしている少年がいた。赤茶けた髪をした十代半ばくらいの健康そうな少年だ。
腰にかけたクリーム色のエプロンが実に家庭的で凡庸な感じをかもし出している。
(どう見ても悪人には見え無そうだ)
全身から善人オーラを発する少年だ、とヒロシは感じた。
もしこれで悪人だったらヒロシはもう人を信じることは出来そうにないだろう。
「そこの君。ここが黄金の小麦亭であってるか?」
ヒロシは気さくな感じで少年に話しかけた。
宿にはしっかりとした看板で『黄金の小麦亭』と書かれているので間違っているわけはないのだが、わざわざ店の名前をあげながら話しかけたのは理由がある。
この店に用がある人間ですよとアピールしつつ、少年と会話を始めるためのきっかけを作るためだ。
「はい、ここが黄金の……うえっ! でか! あっ、と失礼しました。ここが黄金の小麦亭です」
ユキを見るなり大きくのけぞった少年だったがその目に恐怖はなかった。
首輪に視線がいくなりすぐに落ち着いたところを見ると従魔連れで泊まりに来る客が多いのだろう。ユキを見て本気で驚いていたにも関わらず、客だと分かった瞬間に気持ちを切り替えたのは見事だ。
(安宿だから雰囲気悪いかと思ってたんだがこれは当たりだな)
この店を紹介してくれたあの受付嬢に後日お礼をしに行こう。ついでに名前も聞こう。美人だったしね。
「そうか、良かった。ここに泊まりたいんだけど大丈夫かな? 見ての通り従魔も連れてるんだけど」
「うちは従魔連れでも大丈夫ですよ。ただ部屋は狭いんでお客様がお連れの従魔ですと外の厩舎で寝てもらうことになりますが」
「それはもう仕方ないだろう。ユキもそれでいいよな?」
「わふっ」
「別にいいよ」とユキが小さく鳴いた。
素直に言うことを聞いてくれた礼に頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
「宿泊代はいくらかな?」
「一泊朝食つきで二十ジェニーです。昼と夜はうちの食堂で頼んでくれたら多少値引きしますよ。あと、厩舎の使用料は一泊五ジェニーで、従魔の食事をこちらで用意する場合は追加で五ジェニーです。十日以上宿泊して頂けるなら宿泊料ともども一割引きしますよ」
「うん。値段も手ごろだししばらく厄介になろうかな。十日でお願いするよ」
「ありがとうございます! ぼくはここの店主の息子のディアっていいます。お客様は?」
「オレはヒロシ=サトウだ。それでこのわんこがユキ」
「わふ」
「サトウ様にユキちゃんですね。サトウ様。お手数ですが宿に入って台帳への記入をお願いします。中に母がいると思いますので一言掛けて頂ければ対応します。えっとそれでユキちゃんの方はどうしましょうか?」
「ユキ。このディアの言うことを聞いて厩舎で待っていてくれるか?」
「わふ~?」
「ずっと厩舎でいろってわけじゃないぞ。オレが出かけるときはちゃんと連れていくし、もしオレに用があるなら厩舎で鳴いてくれればすぐに行くから」
「わふっ」
「分かった」とばかりに鳴いたユキだったが、離れるのが寂しいのか「撫でろ」「かまえ」と主張するかのように鼻先をこすりつけてくる。
軽く撫でてやるとそれで満足したのかディアの後に続いて厩舎に消えていった。
図体がでかい割りに中身は甘えん坊の子供のようだ。元は神だったのだからヒロシに比べて相当年上だと思うのだがこれじゃあどっちが年上だか分かったもんじゃない。
やれやれとヒロシは肩をすくめて宿に入る。
中は落ち着いたシックな作りで、一階は酒場を兼ねているのかテーブルがずらりと並んでいる。まだ昼日中だからか店内に客は誰もいない。夜になればさぞかし騒がしくなることだろう。二階へ上がる階段の横には台帳が置かれたカウンターがあり、奥には頭にふきんを巻いた勝ち気そうな女性が立っている。
「おや、お客さんかい? 食事か宿かどっちだい」
「宿をお願いします。入り口でディア君とは話したので値段は聞いてます。宿と厩舎、あと従魔の食事代込みで十日でお願いします」
「あいよ、二百七十ジェニーだね。台帳へ記入してもらえるかい? 文字が書けないなら代筆するが?」
「大丈夫です。料金は今支払ったほうが?」
「後払いでもかまやしないよ。もちろん今払ってくれる方がうちは助かるけどね」
「それじゃあ今支払っておきます」
カウンターに銀貨を三枚のせる。
「あいよ、三十ジェニーのおつりだね。あとこれが部屋の鍵だ。鍵に番号が書いてあるから同じ番号の部屋を使っておくれ。掃除は二日に一回、昼にやるから掃除の邪魔になりそうなもんがあったら掃除をしないからそのつもりで。鍵はなくしたら百ジェニーの罰金だ。ダンジョンでなくしたりしないように外に出るときはカウンターに預けておくれ」
「分かりました。それじゃあしばらくお世話になります」
「あいよ。食事がしたくなったらいつでも一階のフロアにきな。うまい飯を食わしてやるよ」
「楽しみにしてます」
ヒロシは鍵とおつりを受け取り部屋へ向かう。
番号を見ながら部屋を探す。ヒロシの部屋は二階の一番奥の部屋だ。
鍵を開けて中に入る。
部屋は前情報通り本当に狭い。ベッドが一つと長持ちが一つ。それで部屋が全部埋まってしまっている。標準的なビジネスホテルの間取りからシャワー室とトイレを切り取り、残った面積を二つに割ったらきっとこんな部屋になるだろう。
「あぁ~、疲れた!」
干草を箱に詰め、その上にシーツを被せただけの簡易なベッドにヒロシは飛び込むようにして寝転がる。
寝転んだ感触は悪くない。せんべい布団で寝ていた日本の生活よりむしろ心地良いと思うくらいだ。
神に出会ってから今までずっと気を張り続けていたので肩が突っ張ってしまっている。首をひねると「ゴキリ」と良い音がした。
宿についたら今後の方針を決め、ランダムジェムの検証もしようと思っていたが疲労が限界だ。ちょっと仮眠を取ることにしよう。
「おやすみ~」
こんな明るいうちから昼寝をするのは何年ぶりだろうか?
そんなことを考えているうちにヒロシの意識は落ちていった。
交渉部分を書くのが楽しすぎます。
ヒロシはどちらかというと戦闘系の無双ではなく、交渉や知識での無双を目指しています。