銀狼3
イブに投稿しようと思っていたのですが一日遅れてしまいました。
年内にもう一回は投稿するつもりです。
きっと、たぶん、メイビー…………
タラントの街が夕日に赤く染まる頃、黄金の小麦亭では探索者たちが酒を片手に歓談に酔いしれていた。その中にはつい先ほどまでアントマンの集落狩りをしていた探索者たちが多く含まれている。
店の外にあるオープンテラスには餌と一緒にちょっとのお酒を飲まされてほろ酔いになったユキがこっくりこっくりと首を動かしながら椅子に座ったヒロシの太腿をまくらにして船をこいでいた。
ヒロシは優しげな表情でユキを撫でながらジョッキに注がれたコールドエールをうまそうに飲み込んだ。
「それにしても久しぶりだなヒロシ。元気にやってるそうじゃないか」
「ペテロこそ随分活躍してたじゃないか。失礼だと思ったけど狩りは見させてもらってたよ」
「別にいいさ。真似できるならしたらいいし、第一あの狩り方は俺たちも他の探索者の狩りかたを真似たやつだしな。それよりもヒロシ。お前、良かったのか?」
「転移の件か? 値段についてはペテロたちに相談しただろ」
「確かに相談は受けたぜ。転移石が一個二万ジェニーだからそれを参考にしろってな」
「そしたらヒロシさん一万ジェニーで転移を引き受けたよねぇ。相場の半額っていうのはさすがにマズいんじゃないかなぁ」
「技術には相応の対価が支払われるべきだ。サトウ殿の好意は美徳だがあれではなめられてしまうのではないか?」
白銀のナイフの面々はさきほどダンジョンであった出来事について苦言を呈した。
重症を負った探索者とその仲間たちを転移で外まで運んでやったのだ。その際に対価として金を要求したのだがそれが安過ぎたのが彼らには引っかかっているようだ。
事実、ヒロシの提示した値段が安かったせいか他の探索者のパーティまで運ぶハメになってしまいヒロシは余計な手間を強いられることになったのだ。
しかしそれについてヒロシに後悔はなかった。
彼らは軽口を交えながらも感謝を示し、誰一人としてヒロシに対して悪感情を抱いていなかったのだ。あまり人と接することのないヒロシにはその反応はすごく新鮮でありどこか温かいものだった。
ただ、あだ名を「転移くん」にされたことだけは納得していない。
ちなみに転移石というのはギルドのアイテム売り場で売られている高額アイテムでダンジョン内で使用すると一度に六人までの人間と手持ちの荷物をダンジョン入り口まで転移させてくれるアイテムである。
転移できる荷物は一人当たり大よそ二百キロが限度となっており、馬車や荷車などを転移させたい場合は別途転移石が必要となる。
そのため、タラントではパーティは最大六人という認識が通例になっている。
「別にあれを商売にしようってわけじゃないし、今回はあくまで例外だ。それに持ち運べて自分たちの好きなタイミングで使える転移石とオレのきまぐれじゃ比較する意味ないだろ」
「ヒロシがそのつもりでも周囲はそう思わないかもしれないぞ。俺だったら転移石の倍はふっかけるね。相手が弱ってるときこそ強気にいくべきだぜ」
「僕も同感かな。お金がどうこうっていうよりもそうした方が相手も納得しやすいと思うよ? ヒロシさんだって見ず知らずの人間にいきなり親切してやろうって言われたら疑うでしょう?」
「金のためにやってやるというスタンスなら相手も信用しやすいだろうしな」
「あぁ……なるほど、そういう面もあるのか。たしかにそれならもっとふっかけた方がよかったのかもな。次からはそうするわ」
自分の考え足らずの部分を指摘されヒロシは素直に受け入れた。
言われて気付いたが命がかかっている場面でいきなり知らない人間に「わたしが助けてやろう!」と言われていきなり信用できるかと言われたらノーだろう。間違いなく疑ってかかる。
今回はペテロたちが間に入ってくれたために相手も割りと簡単に受け入れてくれたがヒロシだけだった場合は断られていた可能性が高い。断られたところでヒロシにはなんの損もないのだが、変に疑われたまま終わることになったかもしれない。
「そうしろ。あと、俺たちは本当にタダでよかったのか? 今回はいい儲けだったし金なら払うぞ」
「ダンジョンでも言ったけど借りを返そうと思っただけだよ。こっちが好きでやったことだから気にするなって」
「そうだぞペテロ。仲間の厚意は素直に受け入れるべきだ。実際、かなり助かったのも事実だしな」
「本当だよねぇ。いつもなら重い素材かついで出口まで歩かないといけないのに転移だとビュンってひとッ飛びだもんねぇ。今度から転移石を買おうか迷っちゃうよね」
「バカ言え。一回戻るたびに二万ジェニーも使ってたら儲けが半分になるだろうが」
「その分、時間は節約できるし安全だよぅ。戻りが危険なのはペテロも分かってるでしょう?」
「そりゃあなぁ…………」
ニールの言葉にペテロが苦い顔をした。
その顔つきから白銀のナイフがどれだけ帰り道に苦労しているかが窺える。
「そんなに帰り道は大変なもんなのか?」
「それは当然…………もしかしてサトウ殿はダンジョンに入る前から空間魔法が使えたのか?」
「そうだけど…………」
ヒロシの言葉に三人はなんともいえない微妙な顔つきをした。
文句を言いたいような、羨ましいような、嫉ましいような、だがそれを言うのはどうもなぁ……そんな複雑な感情の混ざった顔だ。ヒロシも自分がズルをしている自覚があるので「あはは」と乾いた笑顔でごまかした。
「まったく、期待のルーキー様はこれだから困るぜ」
「自覚はあるけどその言い方は勘弁してくれ」
「探索者が金を手に入れるにはダンジョン内で手に入れたアイテムをギルドで売らなくてはならない。つまり、ダンジョンでいくらアイテムを手に入れたところでギルドまで持ち帰れなくてはなんの意味もない」
「帰りにモンスターに襲われてアイテムをなくしちゃったら? 他の探索者に奪われちゃったら? 全部パーだよねぇ」
「となれば大赤字。下手すりゃ一発でなにもかも失っちまう。だから探索者にとって帰り道の安全ってのはなによりも重要なんだ」
「なるほどな。……でも、言っちゃなんだがそれでも二万ジェニー払ってまで転移石を買うのはもったいなくないか?」
ヒロシですらアントマン討伐で稼げる一日の儲けは十万ちょいだ。
幸運を持たない上にユキの嗅覚による索敵もない普通の探索者たちの稼ぎはこれの十分の一にも満たないだろう。
「まぁ、ランク3程度ならたしかにうまみは少ねえな。だが、ランク4・5となれば話は別だ。このランクになってくるとどのモンスターを倒そうがアイテムの買取額が二千ジェニーを越えてくるからな。ランク5ならその倍以上だ」
「大手クランとなれば一回のダンジョン探索で百万以上稼ぐからねぇ。転移石を買う資金なんて端金だよねぇ」
「サトウ殿の場合、帰りだけでなく行きも転移できるのだろう? 探索者にとってみれば垂涎の能力だ」
「だからよ、ヒロシ。お前、なめられたら他の探索者に食い物にされるぞ」
ギシっと音がするような鋭くそして重い空気がヒロシを貫いた。
ペテロの言葉を言い過ぎただと茶化す気持ちは欠片もない。ヒロシ自身もそれは真実だろうと思う。
「知り合いからもいち早くボスを撃破して腕を証明したほうがいいって言われてるよ」
「うん。それがいいよぅ。ボスを倒せるような一流を下っ端扱いなんてしたらギルドから目をつけられるからねぇ」
「ただ、腕が良いことを証明すると別の問題が立ちあがっちまうんだよな」
「貴族からの勧誘だな。奴らは腕のいい探索者を子飼いにしようと必死だ」
「聖国との関係が悪化してるからねぇ。保守派と開戦派の小競り合いも最近は激化してるって話だし近々戦争になるんじゃないかって怖い噂が流れてるよねぇ」
軽い調子でニースが言うが、その言葉の内容はおそろしいほどの重さを持っている。
ヒロシは彼らの言葉から手に入る情報を必死に頭で咀嚼する。
今、自分の置かれている状況は? 世界の情勢は? 自分はどう動くべきだ?
「すまん。ちょっと聞きたいんだが、この国は世界的に見てどれくらいの規模の国なんだ?」
「ふむ。規模……で言うと大国の一角になるのではないか? 少なくともアリアン王国に匹敵する国力を持つ国となると片手で数えられるほどだ。この国よりも規模が大きい国なら」
「帝国だけかな? ただあの国は先代の皇帝が戦下手でかなり消耗してるから今は国力を取り戻すのに必死で戦争なんてやってる余裕はなさそうだよねぇ」
「聖国は?」
「あの国は天主教の総本山だからな。帝国ほどじゃないがかなりでかいぞ。まあ、宗教国だから規制が厳しくて生きにくいって話だ。酒も満足に飲めねえらしい俺は住みたくねえな!」
同意とばかりの三人はうまそうに酒を飲む。
ヒロシも釣られて酒を口に含む。エールの苦味が熱を持った頭に染み渡っていく。適度な酩酊は思考をクリアにする。
状況はそれほど切羽詰ったようものはなさそうだ。
国同士の軋轢も、国内の問題は言ってみれば他人事でありその政治闘争に巻き込まれる可能性など現時点ではほとんどないと言っていいだろう。
直近の問題はなぜか自分を尾行していた銀狼なる探索者と、別の尾行者について。あとは探索者たちの勧誘をいかに回避するかという点か。
後者はボスを倒せば解決するが、その場合次は貴族からの勧誘が待っているらしい。これについてはラファエルに解決してもらうのが一番だろう。
多分、それを見越してボスを倒してみてはどうかと持ちかけていたのだろう。あの筋肉ダルマな成りでなかなかにたぬき親父だ。さすがは貴族と言うべきか?
やはりまずはボスを倒すことを目的にして動くべきだ。
あまり大きな流れに意識を向けて足元がおろそかになってはいけない。ヒロシは確かに異世界転移をしてきたチート持つという類稀な力を持っているが所詮は個人でしかない。国という巨大な化け物の動向など心配するだけ今は無駄だ。
どうせ化け物が動き出せば否が応にも巻き込まれるのだから。
「まっ! 俺らみたいな二流探索者がそんなこと気にしてもしかたねえ! 今日は稼いだんだ。パーっと飲もうや」
「賛成~!」
「あぁ!」
ジョッキをぶつけ合いさわがしく夜は更ける。
ダンジョンで知り合った探索者たちも巻き込み盛大に飲み倒し全員が酔ってぶっ倒れるまでそう時間は掛からなかった。
「うあ゛あ゛あああああ………………頭っいてええ! ……おぅ、酒飲みすぎたか」
翌朝、思い切り二日酔いになったヒロシはベッドの上で身悶えていた。
日本にいたときはそこまでハメを外すほど飲むことなどなかったので人生初となる二日酔いにヒロシは完全にのめされている。
「…………そういや、ネット小説とかだと解毒魔法で二日酔い治ったりするよな……」
試しにやってみるかとヒロシは体内からアルコールを抜くイメージで魔力を体内に通してみる。解毒というより単純にアルコールを分解してみたわけだ。
ヒロシには毒の知識がないので人体に有害なものを適当に除去……とやればいろいろと副作用が出てしまいそうな気がしたのだ。
ポっと青い光が灯りヒロシの体をなめるように流れていく。
電気マッサージでも受けているかのような微弱な振動を受けて「おふっ」とヒロシが気持ちの悪い声を上げる。
「あぁ~…………この振動と微弱な刺激はクセになりそうだ…………ってバカなこと言ってないでさっさと起きてユキの相手しに行くか」
朝一のスキンシップをしないとすぐに機嫌を損ねるので毎日ちゃんと相手をしてやる必要がある。機嫌を損ねたところで餌をやるなりブラッシングなりすればすぐに尻尾をぶんぶん振って擦り寄ってくるのだが大事な相棒のことだ。しっかりしてやりたい。
まだ若干痛む頭を抑えながら厩舎へと向かう。
朝の爽やかな陽気が心地よく、井戸の冷たい水で顔を洗った頃には頭はしゃっきりといつもの調子を取り戻していた。
「…………ん? なんか囲まれてる?」
頭がすっきりしゾーンが普段どおりの効果を発揮したことで周囲の気配に気がついた。相手側は一切気配を隠すつもりがないらしく堂々した足取りでこっちへ向かってきている。数にして二十程度。
実力は…………数人が確実に自分よりも上。
「用件がわからんしいきなり逃げるってのも選択肢狭めるからダメだな。まずはユキと合流すっか」
ユキも気配に気がついていたのか「がうぅ」といつもよりずいぶんと勇ましい声でお出迎えしてくる。ユキの毛を乱暴に撫でてやりながら時間を潰していると彼らがやってきた。
「ほう。噂どおりなんと立派な従魔だ」
やってきたのは三十半ばほどの術師らしき男だった。
草色のローブを纏い、肩口まで伸びた髪を後ろで一本にくくっている。顔つきはいかにも学者風であるが右の眉間から顎先まで走る三本の傷痕が彼の風貌を荒々しいものへと変貌させている。
彼に付き従うようにして探索者らしき男女がぞろぞろとやってくる。
その中に先日重症だったところを助けた探索者のパーティがおり、こちらと目が合うといかにも申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
なんとなく彼らの来訪の理由にあたりを付けたヒロシは少し憮然としながらも当たり障りのない丁寧な態度で対応することにした。
まあ、心の中までは別だが。
「お褒めに預かり光栄です。それで貴方は一体どこのどなたでしょうか?」
「おっと失礼。私はクラン「新緑の風」のリーダー、『凪』のベッセルと申します。ヒロシ=サトウ殿とお見受けするがいかがか?」
「いかにもそうですが。して、そのベッセル……殿が私にいったいなんのご用で?」
口調こそ丁寧だが言外に込められた「お前なんか知らん」という意味を感じ取ったのだろう。彼らの部下らしき探索者の男が露骨にこっちを睨んできた。
それをしれっと無視してベッセルに視線を送る。
別にヒロシは皮肉のつもりで言ったのではなく、本当に知らないからそう言っただけだ。だが相手側はそう受け取らなかったのだろう。ベッセルは微妙に口の端をひくつかせ無理に笑顔を保っていた。
「これはこれは……手厳しい。この街ではそれなりに名を売っているつもりだったのですがね」
「わたしはよそ者な上に探索者になってからまだ一ヶ月とちょいですからね。あまり気にする必要はないかと」
言ってからこれも皮肉っぽいなと思ったが訂正するとなおさら皮肉になりそうな気がしてヒロシは飄々とした態度を貫いた。
その態度がまた「お前なんか興味ないし」という挑発に見えたのか新緑の風のメンバーたちはさらにボルテージを上げていく。
おかしい。不幸はもう失っているはずなのにオートでヘイトが溜まっていく。
ヒロシは理不尽を感じながら相手の反応を待つ。
「私も自意識過剰だったというわけですか。いえ、愚痴はよしましょう。早く本題に入ったほうがお互いによさそうだ」
「ですね」
「単刀直入に言います。ヒロシ=サトウさん。私のクランに加入しませんか?」
「お気持ちは有難いですがお断りします」
「理由を聞いても?」
「メリットがありません」
「――貴様っ! 俺たち新緑の風をバカにするか!」
「よしなさい!」
激昂し、武器まで抜きかけた部下をベッセルの怒声が貫いた。
男は「し、しかし……」と納得いかなそうにしながらも渋々ベッセルに従い引き下がる。しかし怒りは収まっていないようで突き殺すかのような視線がヒロシに注がれている。しかもそれは彼だけでなく新緑の風のメンバーの大半がそうだった。
唯一例外なのは先日助けたパーティだけだ。
「部下が失礼しました」
「いえ、忠義に溢れた素晴らしい部下かと。彼の態度を見ただけでも新緑の風がすばらしい場所なのだと分かりますよ」
もちろんお世辞だけど。
「しかし、貴方は入る気がないと?」
「ええ、まったく」
「ふぅ……とりつく島もないという感じですね。たしかに貴方の力はすばらしい。いきなり見ず知らずの人間が来て勧誘されれば疑うのは当然ですが貴方も今の状態のままではマズいと感じているのでは?」
たしかにヒロシも〝今の〟状況はいろいろ面倒だなと感じている。だが、それはあくまで現状であり未来までそうだとは思っていない。
先日のペテロたちとの話でも言ったがヒロシは近い内にボスを討伐し力を証明するつもりだ。最悪、ユキに頼れば今すぐにでもボスの討伐は可能だ。
ヒロシがそれを良しとせず、ちゃんと自分が倒そうと思っているから時間を要している。
つまり今の面倒な状況はヒロシのわがままによって成り立っており、どうしようもない状況となればなりふり構わず打開してしまえばいい。
よって、ベッセルの言いたいことはいささか的外れだ。
「私が知っているだけでも四つを越えるクランが貴方の獲得を目指して動き始めています。内一つにいたってはかなり強引な手段を用いてくる可能性が高い。サトウさんは自分の力に自身がおありのようですが所詮は一人。集団の力には敵わない。サトウさん、貴方には庇護するクランが必要だ」
とつとつと語るベッセル。
その態度はまさしくこちらを心配しているというもので、世間知らずの若者ならころっといってしまいそうなカリスマ性がある。さすがはそれなりに名を馳せた人物だ。
ただ、ヒロシの目からするとベッセルの言葉にはうっすらと打算が見える。
しかも無自覚の――。
多分、ベッセルは心底こちらを心配して発言しているのだろう。だが、心の奥では感動を誘いこちらに心を開かせようという思惑が透けている。
(なるほど自己陶酔型のヒーローきどりって感じか。悪人じゃないが面倒そうな人物だな。関わらないほうがよさそうだ)
そう見切りをつけたヒロシはさてどうやって彼の勧誘を断るかを考え始める。
厄介な話だがベッセルの言っていることはしごく正等なものだ。個人と集団では集団の方が有利に決まっているし、手段を選ばずに目的を達しようとしている相手がいるのならどこかに保護を求めるのは道理だ。
なにも間違っていない。
それを断ろうというのだから、こっちもそれなりの理由というものが必要になる。
今までヒロシは自分の「特別性」を盾に勧誘を断ってきた。
しかし、今回はその特別性が問題になっているので理由としては使えない。
ヒロシの心をそのまま言葉にするなら「うっとうしいから関わるな」でいいのだが、陶酔型の正義漢に感情で発言するとよりうっとうしくなることは日本にいた頃に嫌になるほど学んでいる。
こういう輩は納得させるだけの理屈を用意してやらなくてはいつまでも付きまとってくる。自分にとってとても都合の良い善意という大義名分を持って。
そうなってしまうと吐き気がするほど面倒なことになるので是非とも彼らにはご納得した上でご退場いただきたい。
さてなんと言ったものか?
ヒロシの脳内が高速で理屈をこね始めたそのときだった。
「あはっ、やっと見つけたよ」
割り込んできた第三者の声に視線が一気に集まった。
まるでモーゼのように人の波を割って現れたのは銀髪の剣士。そう――
「やあ、はじめまして。君がヒロシ=サトウ? ボクはルヴィエラ=ミルコット。よろしくね、ヒロシ」
銀狼の登場だった。