表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神憑いちゃうぞ!  作者: 黒井のん
15/19

蠢く者たち2

お待たせしました。

かなり短いです。まだ納得のいかない出来ですが、これ以上お待たせするのもいけませんので上げることにしました。

いずれ修正したいと思います。

 平和で安全な日本で生まれ育った人間が尾行されていることに気付くことは「普通は」不可能だ。むしろ、それ専門に鍛えた人間でなければ尾行を察知することなど出来るわけがない。

 ならどうしてヒロシは尾行に気付くことが出来たのか?

 ゾーンを駆使して周囲の気配を探っていたから?

 ユキがそっと知らせていたから?

 ――違う。

 答えは実に単純だ。


(ヤクザの取引をうっかり目撃して半年近く暗殺されかけたから尾行慣れしてるんだよな)


 ヒロシの不幸は伊達ではない。

 命の危機に瀕するような事態など慣れている。

 平和で安全な日本で「普通に」生まれ育ったなら尾行に気付くのは不可能だ。ただ、ヒロシの人生が普通じゃなかっただけだ。


(さて、つけられている理由は…………なんとなく分かるけどどうしたもんかな)


 いつから尾行されていたのかははっきり言って分からない。

 うっすらと気付いたのはドライフルーツを買っていたときだ。なんとなくだが視線を感じたのだ。そのときは気のせいだと思ったのだが、次に本屋で立ち読みしているときにも同じ視線を感じた。

 さすがに二回続くと偶然とは思えずヒロシは本屋の店主の言葉に従って西側へ行くふりをしながら小さな道に入り不特定に曲がってみたが視線はついてきた。

 間違いなく尾行されている。そう確信する。


(尾行されたのって久しぶりだな~)


 普通の神経なら「どうしてオレが尾行されてるんだ!?」とか「これってヤバイんじゃ!?」とか考えるのだろうが、不幸慣れ――ひいては不幸から来る様々な危機に慣れているヒロシにとって尾行されているくらい大したことじゃない。

 いきなり弾丸が飛んでくることもなければ顔の怖いお兄さんがずらっと道をふさいでいたりすることないのだから安全そのものと言える。

 こんなのまだまだ余裕なのだ。

 尾行されている理由についても大体察しているのでどういった相手が尾行しているのかも大体予想できる。


(目的はオレの能力か、もしくはどうやってあれだけ大量のアイテムを手に入れたかの情報だろうな。となると、いきなり殺されることはないかな?)


 しかしここがファンタジー世界であることを考慮すると迂闊に接触するのもヤバイ気がする。

 相手を洗脳する魔法や薬、死体からでも情報を抜く手段なんてものがこの世界にある可能性は否定できない。というか、あると思って行動した方がいい。

 魅了耐性は持っているが洗脳や精神攻撃が魅了耐性で防げるのか分からない。もしものためにジェムを砕いて確認しておこう。

 ヒロシはそっと手のひらにジェムを転移させる。


(洗脳を無効化するスキルください!)


 ジェムが砕け握った手のひらにぽっと小さな光が点る。

 こっそりステータスを確認すると『精神耐性』のスキルが新たに付加されていた。

 洗脳だけ防いでくれればよかったのだがスキル名を見る限りもっと幅広い攻撃に対して耐性を得たような気がする。ヒロシが以前やっていたゲームに同名のスキルがあったが、そのゲームでは気絶や混乱、魅了、睡眠に対しても耐性があった。

 このスキルのせいで眠れなくなるってことはないよな?

 ないと信じたい。

 転移を使えば尾行相手をまくことは容易だが、それをしてもあまり意味はない。ヒロシはユキを連れていることもありとにかく目立つ。おまけに今のところ宿を変更するつもりがないのでこの場でまいたとしても明日の朝に宿の前に張っていられたら意味がない。

 宿からダンジョン、タラント郊外へと転移で飛べるので宿に張り付かれていたとしても問題はないが…………ウザい。

 以前に尾行されていたときも感じたことだが誰かにつけらるというのは多大なストレスを伴う。

 まるで自分の生活、いや人生に自由がどこにもないような錯覚に囚われるのだ。実際監視されているのだから余計にそう思うのだろう。

 なのでヒロシとしては尾行を止めさせたいのだが今尾行をしている相手にユキをけしかけて倒したところでなんの解決にもならない。

 どうせ次の奴が送られてくるだけだろう。


(となると、まいた振りしてから相手を逆に尾行して黒幕を見つけた方が早いか。あとはしかるべき場所に通報して対処するって感じで)


 ラファエルに伝えれば大丈夫だろうか?

 それともギルドにすべきか?

 問題の発端がヒロシ自身にあるのでこれで大丈夫なのかどうかは自信が持てないが、ひとまず相手がどんな奴なのかくらい確認して損はあるまい。

 何気なく小道へと曲がる振りをし、道に入ると同時にユキと一緒に転移を発動。すぐ近くの建物の屋上へと移動する。

 気付かれてしまうとマズイのでついでとばかりにジェムを砕き『隠密』のスキルを取得しておく。

 よくある異世界転移物の汎用チートと違い、ジェムを使ったスキル取得は「欲しい時」に「欲しいスキル」を入手できるので実に便利だ。その分、使いこなすのに努力が必要だがなんでもかんでもイージーモードな人生なんて味気ないだろうとヒロシは思う。

 なまじ不幸と苦労にまみれた人生を歩んできたせいでそう思うのかもしれないが。

 屋上からそっと下を覗いてみると薄いブルーを含んだ銀髪をした女性が慌てたように周囲をきょろきょろ見回している。

「あれ?」とか「見失った!?」と呟いているところを見ると彼女がこっちを尾行していた犯人なのだろう。

 髪の色に合わせたのか薄いブルーの金属鎧を身にまとっており腰には剣も刷いている。顔つきはひどく中性的であり勇ましい探索者風の格好と相まって声を聞かなければ華奢な男だと見間違えていたかもしれない。

 年齢はおおよそ二十前後といったところか。少なくともヒロシよりは年下だろう。

 参ったとばかりに頬を掻き、銀髪の女性は困ったように元いた道へと戻っていく。

 フルプレートではないにせよ明らかに尾行に向かない金属鎧を身に纏い、対象を見失うなりああも慌てふためいている様を見る限り彼女はあまり隠密活動に向いているようには思えない。


(どう見ても戦士タイプだし隠密できなくてもなんの問題もないもんなぁ)


 今なら建物の上から一方的に奇襲を仕掛けることができるがそれでもヒロシ単体で戦うことになったら一も二もなく即効で逃げを選択するだろう。

 ゾーンを使ってさりげなく相手の挙動を把握してみたが全くもって隙がない。

 彼女の持つ剣の範囲に入ったが最後なにが起きたか理解する前に真っ二つにされる未来しか想像できない。

 ユキであれば楽勝だろうがヒロシが彼女に勝てる確立はゼロだ。

 ここは大人しく彼女が帰っていくのを見送ることにしよう。

 逆尾行して相手の黒幕を探りたいところだが、彼女クラスの猛者が他にもいた場合逃げることすら困難になるかもしれない。


(これは早めにラファエルのおっさんと接触した方がいいかも。謀略に対抗するには権力の庇護下に入るのが一番楽だもんな)


 自力でなんとかしようと思わないあたりヒロシの性格が現れている。

 不幸が人の形をしているような以前のヒロシが単独でなんとかしようとしても「まさかこんなことが起こるなんて!?」という事態が発生してえらいことになるのは目に見えている。今まで何度もそういう目に遭ってきたので可能な限りヒロシは人を頼ることにしている。

 昔は他人を自分の不幸に巻き込むなんて、と思っていたが自分一人ではどうしようもないし他者の助けを借りるとこれがあっさり解決することもあったりするので今は前ほど他人に頼ることに忌避感はない。


(わふぅ?)

(ひとまず今日は宿でのんびりすることにしよう。夜になったらおっさんが来るかもしれないし今日来なかったら…………明日探してみよう。会えるかどうか分からんけどな)


 銀髪の戦士の後ろ姿が見えなくなるのを見送ってからヒロシたちは宿へと転移した。幸い本を買ったので時間つぶしには事欠かない。のんびり夜まで待つとしよう。



 と思っていたら一時間もしない内に血相を変えたラファエルが飛ぶ込むようにして黄金の小麦亭へとやってきた。


「ヒロシ殿はいるであるか!?」

「どうしたおっさん。そんな顔色を変えて」

「おぉ! いたであるか。探していたのである」

「なんか緊急の要件っぽいな。部屋に場所を移した方がいいか?」


 ヒロシは周囲を見回すようにして言う。

 まだ夕方にもなっていない酒場はまばら程度にしか人はいないが壁もなにもない場所だ。話しの内容が周囲に漏れる危険性がある。


「いや、構わぬ。出来れば早急に確認したいことがある」

「分かった。ディア君、なにか飲み物を」

「気遣いは無用である。場合によっては茶を飲む時間すら惜しいのである」

「そこまでヤバいのか」


 ラファエルの鬼気迫る態度に押されてヒロシは緊張に表情をこわばらせながら席につく。

 ラファエルはなにから話せばよいかと少し逡巡した後に口を開いた。


「まずは確認からである。ここ数日に渡ってギルドに大量のアイテムを販売したのは事実であるか?」

「事実だ」


 ヒロシは正直に答える。

 ラファエルの態度から嘘をついたらいごまかしたりするのは危険だと判断したからだ。


「それはどのようにして手に入れたのであるか? 話せない内容もあるであろうが可能な限り応えて欲しいのである。無論、情報に対する礼はするのである」

「分かった。えっとだな――」


 ヒロシは罠を利用して大量にモンスターを狩ったこと、自分が多数を一瞬で葬れる魔法を使用できることなどを偽りなく話す。ただし幸運についてはアイテムを出やすくスキルを持っていると濁した。

 さすがに運99999という破格のステータスをしているからと話せば別の問題が立ち上がると思ったからだ。

 当初、詰問するような厳しい表情をしていたラファエルだったが話しを聞くにつれ呆れたような表情になり次に疲れたような額に手を当て最後には大笑いを始めた。


「わっはっはっはっ、なるほどそういうことであるか!」

「おいおい、おっさん笑ってる場合か? なんか問題が起きてるんじゃないのか?」

「いやはや、すまぬのである。こちらの勘違いだったのである」

「すまん。事情を聞いていいか? 多分オレが関わってるんだろうが正直なにがなんだかさっぱり分からないんだが」

「うむ、実はここ最近ダンジョン内でモンスターの数が増えているという報告を聞いておってな。もしや大繁殖(スタンピート)の前触れかと思っておった折にお主が大量のアイテムを毎日のように持って帰ってきたという情報が入ったので慌てて事実を確認しに来たというわけである」

「すたんぴーと? ってなんだ?」

「大繁殖を知らぬのか。探索者として生きていくなら絶対に知っておくことであるぞ」

「うっ、そうなのか」


 自分がこの世界の事柄について勉強不足であることは自覚していたのでラファエルの言葉がぐさりと突き刺さる。


「ふむ、お主が今後も探索者としてやっていくのなら情報収集は小まめに手広くやることである。世間知らずの探索者など長生きできぬのである。……説教はこれくらいにし大繁殖のことであったな。大繁殖というのはダンジョン内のモンスターの数が異常に増える現象のことで、おおよそ発生から一ヶ月は増え続ける。大体二年から三年に一度起きるのである。前回の大繁殖は二年前ゆえモンスターの数に関しては皆敏感になっているのである」

「そんなにヤバイのか?」

「過去の例から平均して十倍以上に増えるのである。大繁殖の期間中は一部の上級探索者以外はまともにダンジョン探索などできぬであるから経済に大打撃を受けるである。大繁殖に備えて備蓄はしているであるが領主としては頭の痛い話である」

「そういうことだったのか。なんか紛らわしいことしてしまったみたいで悪いな」

「構わぬのである。むしろ勘違いだと分かってよかったのである」

「おっさんが血相変えてやってきたときはてっきりアイテムの件かと思ったんだが」

「ヒロシ殿がさっき言っておったアイテムの取得率を増やすスキルのことであるな。確かに珍しいスキルではあるが似たようなスキルがあるのでな。それ単体では特に問題とはならぬのである」

「単体では、ってことはなんか別の問題があるのか?」

「アイテムの入手をあげるスキルがあり、移動と運搬に便利な空間魔法の使い手であり、そこそこの腕を持つ探索者を五人相手どり無傷で勝てるほどの実力者でありながら未だに決まったパーティを組んでおらぬよそ者の探索者。この情報を聞いてヒロシ殿がこの街で活動する探索者だったらどうするであるか?」


 ラファエルの意地の悪い質問にヒロシは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「勧誘するだろうな。誰よりも早く」

「であろうな。お主がギルドで大量のアイテムを売っている姿を見ていた探索者はそれなりの数である。何人かは大繁殖を予想するであろうがある程度時間が経って杞憂だと分かればお主の能力について気付く者も出てくるであろう。それからは大変であるぞ」

「だよなぁ……。あんまり目立ったりしたくなかったんだが能力を隠してこそこそやるってのもオレの性に合わないしな」


 せっかく異世界に来たんだからやりたいことをやりたいという願望がある。

 別に他人に迷惑を掛けたり誰かを不幸にしたりはしたくないが周囲の目に気を遣って小さく生きるのはなんとなく違う気がする。


「それならばむしろ早く名を売った方がよいであるな。今のお主は目立ってはおるが所詮は駆け出しの探索者でしかなく悪い言い方をすれば舐められているのである。ヒロシ殿もなにか考えがあって動いているのであろうが実力を示しておくことは重要であるぞ」

「そう言われてもどうすればいいんだ? 片っ端から他の探索者を倒していくわけにもいかないし」

「それではただの通り魔である。この街で実力者だと示すには……ボスを狩るのが良いであろうな」

「なるほどな。でも言っちゃ悪いが十五階層のボスってランク的にはたったの3だろ。それで実力者って認められるのか?」


 ヒロシの発言にラファエルは嘲るように肩をすくめた。

 ひどくバカにされたような気分になるが、なにも分かっていないと自覚したばかりなのにさっそくやらかしたと気付いたヒロシはバツの悪そうな顔になる。


「ランク3のモンスターを狩れるというのは探索者の中で一人前を指す言葉である。ましてやボスとなればなにをいわんやである。ヒロシ殿は特に苦もなくモンスターを狩っているせいか少々ダンジョンを過小評価しておるのではないか」

「うん。かもしれない。あぁ~……ダンジョンに入る前は死と隣り合わせなんだからしっかりしないと、と思ってはずなんだけどな。気がゆるんでたみたいだわ」

「人である以上はどこかで緩めねば擦り切れてしまうである。しかし、探索者たるものダンジョンに対しては常に警戒し意識を張り巡らすべきである」

「返す言葉もないな。猛省するよ。あとアドバイス通り当座の目的はボスを狩ることにするよ。たかがランク3と言っておいてなんだけどやっぱりちょっと不安だから慎重にいくことにする」


 ユキをけしかければ一瞬で片がつきそうではあるがそれでは意味がない。

 ヒロシが倒すからこそ意味がある。


「それがよいのである。では我輩はそろそろ戻ることにするのである。我輩が戻らねばギルドの者たちはいつまでも心配しておるであろうからな」

「手間をかけさせて悪かった。今度また飲もう。次はおごるよ」

「その言葉覚えておくである」


 ラファエルはにんまりと笑みを浮かべると機嫌良さそうに帰っていった。

 ラファエルの背を見送ったヒロシは、ふぅと大きく息をついて椅子の背もたれにもたれかかる。脳内では様々な情報が飛び交い、チリチリとした感覚がしている。

 細かい問題がどんどん浮き彫りになってきた。

 生きている以上なんの問題も起きないなんてありえないことだと分かっているが、もう少しゆっくりさせてくれてもいいじゃないかとヒロシは勝手な思いを呟いた。

 日本人の感覚としては「オレは強いんだ!」と誇示するのは勇気がいることだしヒロシの感覚としては「痛い」行為だが、残念なことに今のヒロシはそれをする必要に迫られている。

 あぁ、これでオレも痛い子の仲間入りか。

 とこの世界の人に対して大変失礼な感想も漏らした。結構追い詰められている証拠だ。


「あっ! そういや尾行されてた件についておっさんに話してないな。てっきりアイテムの件だと思ってたけどもしかしてあの尾行って勧誘しようとして人だったりするのか?」


 だとしたら完全にストーカーである。

 ヒロシの顔が今日一番歪んだ。



まさかこれほど難産になるとは思いませんでした。

投稿した字数は少ないですが、この話を書くだけで十万字近くデリートしたのは苦い思い出

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ