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神憑いちゃうぞ!  作者: 黒井のん
13/19

乱獲

お待たせしました。

ちょっとモチベーションが上がらずエタってましたが、再開します。

不定期更新なのでまた同じようなことが起こるかもしれませんが、他のお気に入り作品の合間にでも更新確認をして頂ければ幸いです。

「こんなもんかな?」


 ヒロシは自分のステータスを眺めて満足そうに頷いた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ヒロシ・サトウ

種族:人間

称号:神獣使い

保有スキル:『超幸運』『神獣:ユキ』『空間魔法』『神眼』『魔法適性』『魔法強化』『魔素吸収』

腕力:11

体力:23

器用:9

敏捷:34

魔力:46

精神:39

運 :99999

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 新たに取得したスキルはどちらも魔法に関するものだ。

 単純に魔法の効力を高めるものと、魔力の回復を促進させるものだ。なお後者は微量ではあるが攻撃した相手から魔力を吸うことも出来る……はずだ。

 ジェムでスキルを取得する際に「こういうスキルが欲しい」と願って取得するわけだが、手に入れたスキルが本当にそういう効果を持っているかどうかは使って判断するしかない。スキルの効果が分かるスキルでもあればいいがそのためにジェムを一個消費するのはどうなのか。


「わふ、わふ?」

「ちょっと不安ではあるけどまずはやってみるさ。危ないと思ったらユキの判断で攻撃してくれ。なるべくそうならないように立ち回るけどな」

「わふ!」


「任せて!」と言わんばかりに尻尾を振ってじゃれついてくるユキをあやし、小さく深呼吸する。

 敵は雑魚だが数が多い。

 一度ペースを持っていかれたらそのまま押し切られるだろう。移動を繰り返しながらちまちまと削っていこう。大技に頼ると隙が生まれる可能性が高い。


「よし、じゃあ行ってくるな」

「わふっ」


 ユキと別れ、モンスターハウスに入る。

 正直、不安がないのかと言われるとすごく不安だ。

 ミスをすればリアルに死の可能性があるのだ。怖くないわけじゃない。

 ――でも、それって日本いるときは日常だったもんなぁ。

 トラックに轢かれかけたり、階段を踏み外してビルから転落したり、一度だけだがヤクザの鉄砲玉に標的と勘違いされて殺されかけたこともある。

 それに比べて魔法なんて力があるだけ今の方が何倍もいい。


「そろそろ出てくる頃かな」


 部屋の中央まで歩いたところでヒロシは立ち止まり周囲を窺う。

 相変わらず静かな場所だ。

 耳を澄ましていると遠くからザザっと足音が聞こえてくる。それは徐々に数を増しどんどん近づいてくる。

 ざわざわと音が集まり部屋を飲み込んでいく。

 ――ボトリ。

 と、音を立ててモンスターたちが次々と湧き出してくる。

 ぎちぎちと不快な音を立ててモンスターたちが行動を開始する。罠にかかったあわれな獲物を食らうために。


「今回はオレが狩る側だけどな!」


 開幕と同時に指を鉤爪のようにして斜めに振り下ろす。

 複数同時発動のディスプレイス。指の一本一本から放たれた次元の刃が直線上にいる全てのモンスターを切り裂いていく。今回は干渉範囲が広いのでその分魔力消費も割高だが、スキルで魔力を吸収しているので実質消費はほとんどない。

 今の攻撃で十匹近くを葬ったが敵の総数から考えると微々たるものでしかない。モンスターは仲間が死んだことなど一切意に介さず雪崩となって襲い掛かってくる。


「さすがは虫だな。仲間がゴミクズ同然に死んでもまったく動揺しない」


 これがゴブリン相手なら動揺や恐怖を誘って戦う方法もあるのだが、相手が虫となるとそういう精神を追い込んでいくような戦法は一切意味をなさない。

 複雑な戦術が取れない代わりに精神的な瓦解が起きないというのは大きな利点かもしれない。そんなことを思いながらヒロシはショートジャンプを使って敵の攻撃を回避しながら優位な位置を保持していく。

 ディスプレイスで一回、二回ほど攻撃しては移動。また攻撃して移動。というサイクルでちまちまと削っていく。

 敵の数が多いので多少適当に攻撃しても問題なく当たるので狙いを定める必要がないのは楽だ。その分、状況把握と回避にはミスが許されない。

 攻撃は余裕があるときのみ行い、基本は回避と逃げでいく。


「っと、上からも注意しないと!」


 ジャンプの転移先に天井からぶらさがった六本蜘蛛が立ちはだかる。

 近くに壁がなければ天井までは登ってこないワークアントと違い、蜘蛛は糸を使って立体的に攻撃を仕掛けてくるため状況把握が困難だ。

 おまけにそこかしろに巣を作り罠を張るため攻撃とは別にディスプレイスを放ち巣を破壊しておく必要がある。

 時間が経過するほどに比例的に状況把握が困難になっていく。

 敵の数も減ってはいるが情報処理に費やされるヒロシの体力と精神力の方が消耗している。このままではジリ貧だ。

 どんどん移動する場所が削られていく。まるで詰め将棋のようにどんどん自分の領域が侵されていく。


「マズっ!?」


 横の移動だけでは回避しきれないと踏んで上へと移動した瞬間、天井から釣り下がっていた蜘蛛が一斉に糸を吹き出した。

 放射状に広がる粘着糸の網。ショートジャンプの移動距離で回避できない。


「――ッ! 『フィクシング!』」


 回避不能と判断し、ヒロシは空間を固定して壁を作り出す。

 壁に激突した粘着糸はまるで時間が停止したかのように空中に固定されている。この魔法は壁を作りだしているというよりは空間を固定させる領域を作り出しているという方が近い。そのため、領域に触れた存在すべてをその場に固定するという効果もあり防御と束縛を併せ持つ優秀な魔法だ。

 その分、消費が激しく短時間ですら持続させることが出来ない。

 面の攻撃に穴を空けるのが目的だったので即座に魔法をキャンセルし、同時にショートジャンプを使って距離を取る。

 蜘蛛の放った粘着糸に絡め取られた別のモンスターたちがニチャニチャと音を立てながら団子状に固まっていく。


(うわぁ……これネットに流れたら即座に通報食らうレベルだろ…………)


 嫌なもんを見たとヒロシの背筋がちょっぴり寒くなる。

 粘着団子が障害になって蟻の進行が若干乱れ始める。これ幸いに団子を壁にしてディスプレイスを放ちモンスターの数を削る。

 もう百は倒したと思うがまったく終わりが見えない。部屋の広さを考慮すると五百はいかないと思うが少なくとも今の倍か三倍は倒さないと終わらないだろう。


「あかん、オレじゃ火力が足りない」


 どこぞのビリビリレールガンのような火力があれば楽だがヒロシの手持ちにあんな使い勝手の良い手札はない。

 火力だけならあるのだが…………使い勝手が悪い。というか加減が難しい。

 手加減しないでいいならむしろ楽なのだが――


「そういえば……この部屋って入り口一つだけだよな?」


 十階層へと続く道とは別の滅多に人の来ない場所で、入り口が一つだけしかない密閉された空間。

 この条件なら全力でコンプレクションを使用して入り口を塞いでしまえば一網打尽に出来るのでは?


「試したいところだけどもう状況がゴチャゴチャしてて今回は無理だな。というかもう押し返せそうにないし…………仕方ない。ユキ、頼む!」

「…………アオォォォォォオオン!!」


 恐らく準備してくれていたのだろう。

 呼びかけると同時に光の矢となったユキがモンスターの群れをぶち抜いた。

 モンスターの群れはバラバラになって宙を舞い、光の粒になってキラキラと輝きながら消えていく。相変わらず倒したときの光景は「美しい」の一言なのだが、光の元が虫の屍骸だと思うとすべてが台無しだ。

 ユキの一方的な蹂躙劇を横目に見ながらヒロシは魔力の回復のために深く息を吸い込む。連続して魔法を使用したせいか体内の魔力が荒れ狂っている。神眼を発動させ体内の魔力の流れを視覚化し、ゆっくりと無理のないように本来の流れに戻していく。

『魔素吸収』スキルのおかげで魔力の自然回復力は高まっている。このまま戦闘終了までのんびり出来ればコンプレクションの実験に必要な分の魔力は回復するだろう。

 それにしてもユキの速度はとんでもない。

 こうやって遠くから見ているにも関わらず目に映るのは残光だけでユキの動きをまったく把握できない。

 もしこれが戦闘相手だったらなにも分からないうちに殺されてしまうだろう。


「さすがダメワンコといえ神だな」

「わふっ!?」


 さすがは犬というべきか。ヒロシが小さく呟いた言葉をばっちり聞いていたのか、「心外だ!」と言わんばかりにユキが抗議の視線を送ってくる。


「ユキー、頑張ってくれたら今晩は骨付き肉にしてやるぞ」

「わふぅ!」


 途端、顔を輝かせて狩りを再開するユキ。

 ――こいつチョロすぎる。

 犬だからなのか、ユキだからなのか分からないがこのチョロさはどうなのか? ヒロシにとっては都合が良くていいのだがなんとなく「どうなのかな~?」という気分になる。

 せっかくやる気になってくれたのだし残りの狩りはユキに任せてヒロシはさっそくアイテムの回収を始めていくことにした。


「あれ? 今回はジェム一個だけ?」

「わふぅ……」


 前回と同じくらいの数だったと思ったのだがジェムの数が減っている。

 そもそも前回も倒した数に比べてジェムの数が少なかったように感じた。その差は一体なんだろう?

 今までの経験からジェムの取得条件におそらく運は絡まないと分かっている。となると今回と前回の差はなにか?


「んー、情報がまだ足りないか。これから連戦する予定だしそれで情報集めればいいな。よし、ユキ。一端、一階層に戻ってリセットするぞ」

「わふっ」


 転移を使って一階層まで飛び、入り口を出入りしてリセットを掛ける。

 分かってしまえば単純だし、なぜ気付かなかったのかと不思議に思う。意外とこういう分かりやすそうなものほど悩んでいるときは分からないものだ。

 転移で罠部屋まで戻ると、ヒロシはユキに乗ったままたっぷりと魔力を練りこんでいく。


「ユキ、モンスターが出現したら即効で真上にジャンプしてくれ。その後はコンプレクションを回収せずに部屋の真ん中に放り投げるからその後は全力で部屋の入り口までダッシュだ。いけるか?」

「わふっ!」


「問題ないよ!」と元気よく返事するユキ。

 魔力を練っているので撫でてあげられないが「ありがとう」と言葉で伝えておく。

 十分魔力が練りあがったところでボトリといつもの音がした。雨のようにボタボタと湧き出してくるモンスターを横目に見ながらユキが天井すれすれまで跳躍する。


「ナイス、ユキ! 『コンプレクション』!」


 地上に向けて全力のコンプレクション。

 前回とは比べ物にならない程の範囲が捻じ曲がり渦に飲み込まれていく。今回は範囲を横に大きく広げ、その分さらに上空への範囲を狭くしている。

 まだ湧き始めだったからか巻き込まれたモンスターは少ないが問題はない。必要なのはその後だ。

 圧縮された空間が黒いボールとなってヒロシの手の中へと戻ってくる。

 ヒロシはそのボールを部屋の中央部分にそっと置いた。


「ユキ!」

「わふっ!」


 振り落とされないようにしっかりとユキの毛を掴む。

 一瞬、視界がブレたと思ったら既に入り口まで来ていた。

 ステータスの桁が文字通り違うことは分かっているが、実感すると改めてユキのすごさが分かる。ユキと同じ強さを持つ相手なんて本当にいるんだろうか?

 あくまで仮定として考えているが、現時点でそんな敵が現れたら死ぬしかないなとヒロシは冷や汗を流す。


「よそ事考えてる場合じゃないか。…………タイミングを合わせて、『フィクシング』!」


 と、同時にコンプレクションの魔力を切る。

 刹那――世界から音が切り落とされた。

 否、正確にはあまりに巨大な音が発生したために他の音が消し飛ばされたのだ。

 轟音と烈光が迸り、視界は火花が散ったようにちかちかと瞬いている。耳はキーンと高い音が響いてなにも聞こえない。

 まるで宙に浮いているかのような錯覚に囚われる。視覚と聴覚が死ぬとこうも自分の位置が分からなくなるのかとヒロシは自分のことながら驚愕する。

 指先に感じるユキの毛の感触が無かったら無様に慌てふためいていただろう。もふもふとしたユキの温かい感触を楽しんでいると徐々に視界が元に戻ってきた。


「……うわぁ。これはひどいな」


 最初に視界に映ったのは部屋中を埋めつくす光の粒子と、ボロボロになったダンジョンだった。

 壁や床は至るところがヒビ割れ、爆発の中心地だった部分に至ってはクレーターのように大きくへこんでいる。フィクシングによってあらゆる衝撃を防いだためか通路には破壊の跡が一切ないがあくまで防いだのは入り口部分だけなので入り口付近の壁は大きく欠けてしまっている。

 入り口さえふさいでしまえば衝撃も爆音もこっちまで来ないと思い込んでいたが部屋全体を封鎖できたわけではないので壁や隙間を伝ってこっちまで届いてしまった。

 それにフィクシングは壁の向こう側が見えるように光の粒子に関しては素通りするので爆発の光に関しては無力だ。

 いろいろと抜けのある計画だったなと改めて思う。

 もし、抜けが致命的だったら自分は死んでいたかもしれないのだ。わりかしなんでも慎重に進めるくせにテンションが上がっているときはどうも抜けが多い。

 この悪癖はなんとかしないと今後がマズイなとヒロシは反省する。


「………………わふ」


 爆発の余波に巻き込まれたせいか埃にまぶされてちょっと灰色になったユキがジト目でこっちを見つめていた。

 全面的に悪いヒロシは「ははっ……すごいよな」と笑って誤魔化す。

 あとでユキにはたっぷりわいろを贈っておこう。


「半分くらい倒せれば十分だと思ってたんだけどまさか一発で全員昇天とは…………。密閉空間で爆発系の攻撃はヤバイな……」


 自分が引き起こした惨状にヒロシは若干引き気味だ。

 自分のしたことに対して引いているというよりは、空間魔法の恐ろしさに引いている。ヒロシのステータスはまだまだ低い。だというのに条件次第ではこれほどの破壊力をもたらす魔法という存在が恐ろしい。

 自分以外の魔法を見たことがないので比較ができないが、もし他の人間が使う魔法もこれと同じ威力を生み出せるのだとしたら…………


「世界滅亡まっしぐらって感じだな」


 一般人が核爆弾を持つようなものだ。

 願わくばこの魔法の威力がイメージによる補正――現代知識チートの一環であることを願いたい。


「アイテム集めするか」

「わふっ」


 気を取り直してアイテムを集める。

 本来の目的はこっちなのだ。魔法の思わぬ力にビビったがアイテムさえ手に入るなら何度でも同じことをする必要がある。次からはうまく調整していきたい。


「…………八個、だと?」


 半時間ほど掛けてアイテムをすべて回収するとランダムジェムが八個もあった。

 前回が一個。前々回が二個であることを考えると明らかに多い。


「多い理由は明らかだよな? 今回は全部オレが倒したからだ…………ってことはジェムも運要素なのか? レア以上にでにくいウルトラレアアイテムとか?」


 それにしては世間の評価が低すぎる。

 滅多に手に入らないレアアイテムであり低確率であるがスキルを手に入れることが出来るアイテムと、やたらめったら手に入る割りにスキル入手率が低いアイテム。

 どう考えても世間の評価は後者だ。

 タラントの商人にランダムジェムについて質問したときも「そこそこ手に入る」という評価だったからほとんど出ないレアアイテムというわけではないだろう。


「よく分かんないな。でもまあ、たくさん出る分には損はないわけだし? 当初の目的どおりリセットしまくってジェム稼ぎしますか!」

「わふっ!」


 ジェムの入手条件については一端後回しにしてヒロシはモンスターハウスマラソンを敢行する。

 結果、ヒロシたちは一週間で約百個近くのジェムを獲得することに成功した。


「キタ─wwヘ√レvv~(゜∀゜)─wwヘ√レvv~─!!」


 ヒロシの有頂天始まる。



とりあえずヒロシ君の強化というか戦闘面の描写は一端ここで終わり、次回からはガラっと話を変える予定です。

その方針のせいでエタってたわけなんですが…………。


まだ話の内容については悩んでいるので次回更新はちょっと短めになるかもしれません。

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