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神憑いちゃうぞ!  作者: 黒井のん
11/19

モンスターハウス

「キタ――(゜∀゜)――!!」


 黄金の小麦亭自室にてヒロシは自分のステータスを見て有頂天に達していた。

 それもそのはずヒロシのステータスは有り余るランダムジェムのおかげでかつてない程に強化されている。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ヒロシ・サトウ

種族:人間

称号:神獣使い

保有スキル:『超幸運』『神獣:ユキ』『空間魔法』『神眼』『魔法適性』『魔法強化』『魔素吸収』『毒耐性』『魅了耐性』『苦痛耐性』『腕力促成』『体力促成』『器用促成』『敏捷促成』『魔力促成』『魔力促成』『運気発勝』

腕力:25

体力:33

器用:19

敏捷:49

魔力:61

精神:51

運 :99999

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 やりたかった実験が出来たことや、新たな発見による利益などもありヒロシのテンションは限界を突破してなお上がり続けている。既に十個以上のジェムを使用しているが、まだテーブルの上には山と詰まれたジェムが残っている。

 いかにしてヒロシがこれほどの数のジェムを手に入れることが出来たのか?

 それはダンジョンでバカ共を倒してから三日後のことだった。





「これで大体回ったかな?」

「わふ」


 額に浮いた汗を拭いつつヒロシは周囲の気配を探った。

 現在ヒロシたちがいるのは「新緑と洞窟」の九階層である。バカ共をあしらってからもなるべくモンスターが多く、それでいて人の少ない道ばかり選んで進んでいるのでその進行速度は遅く激戦が続いている。

 最短ルートを進む他の探索者を避けて通っているためかヒロシたちの進むルートは階層全てを虱潰し(しらみつぶし)に進んでいく形となりやすく適当に作ったにも関わらず地図が欠けなく繋がることも多かった。

 九階層でまだ行っていないところは地図で右上の部分だけだ。


「周りが細い道ばっかりだしでっかい部屋がありそうな感じだよな?」

「わふっ」

「なんかまた集団で襲ってきそうな感じがするよなぁ。小さい部屋ですら集団でいるし、大部屋になったらどうなるんだろうな」


 ランク2のモンスターは虫系で揃っているせいなのかやたらと集団で湧く。

 どんなに少なくとも十体以上で出現し、多い場合など細い通路内で五十体近く湧き物量で押し切られそうになったこともある。

 ドロップアイテムの値段がゴブリンと比べてかなり高いが、毒や酸を使ってくることを考えると赤字になってしまいそうな気もする。

 単体としては弱いが、いやらしい攻撃が多く集団戦になってしまうので初心者にはかなり厳しい戦いになるだろう。その分学べるものも多いのでここでじっくり鍛えれば今後の役に立つことは間違いない。


「オレとしては良い修行の場なんだけど、他の探索者には人気がないみたいだな」

「わふっ。わふわふ」

「毒や酸の臭いがきついから自分も嫌だ? あぁ……そうか。確かに臭いきついもんな」


 ランク1のモンスターは大して金にならないため人気がなく、ランク2のモンスターはいろいろと面倒なことが多いため実力のある探索者はさっさと素通りしてしまう。結果的にボスを抜けないでくすぶっている探索者たちはランク3のモンスターに集中するため十階層までは比較的空いているというわけだ。

 ランク3の階層は探索者同士の激戦区となっており狩場争いが激しいと聞いているのでランク3へ上がるのはもう少し後にしようと思っている。


「大量に湧くのもオレにとってはメリットなんだよな。ジェムが出るしさ」

「わふっ!」

「大丈夫だって。油断はしてないさ。でもジェムはやっぱり必要だしもっとモンスターが出現してくれてもいいんだけどな」


 モンスターの討伐数をカウントしながら狩ってみたが、大体百体~二百体で一個出現するようだ。この階層はモンスターの出現数が多いので一日頑張っていれば一個はジェムが手に入る。

 スキルを揃えるには絶好の機会なのである程度欲しいスキルが揃うまではここでのんびりするのもいいかもしれない。


「さて、目的の場所に到着っと。…………やっぱり大部屋みたいだな」

「わふ~」

「モンスターの気配がしない? 本当か?」

「わふっ」


 警戒しながらゆっくりと部屋に入っていく。

 かなりの広さがあるにも関わらずモンスターが一匹もいない。がらんとした空間は物音一つなく非常に薄気味悪い。

 一歩、一歩ゆっくりと進んでいく。

 足音だけが静寂の中に響いていきなんの気配も感じない。緊張だけが嫌に高まっていく。部屋の真ん中まで来たところでヒロシは足を止めた。


「ユキ。本当になんの気配も感じないか?」

「わふっ」

「じゃあ本当にいないのか? それとも別の探索者が来て狩りつくした後とか?」

「わふ。わふぅ」

「探索者の匂いはしない? う~ん、じゃあここはただのでかい部屋ってことか。それとも休憩部屋って可能性もあるか? なんか引っかかるな」


 後ろ髪を引っ張られるような違和感がある。だけどそれがなんなのかが分からない。

 気味の悪さを感じつつもなにもない以上は引き返す他ない。

 向きを変え、部屋を出ようと一歩踏み出したとき……それは起こった。


 ――ドサリ、と音がした。


 まるでゲリラ豪雨に襲われたときのような激しい落下音。

 音が鳴ると同時に増えていく部屋を埋め尽くす蠢く影。その影がぎちぎちと音を立てているのをヒロシはしばし呆然と見つめてしまう。


「ガウッ!」


 最大限の警戒を示すユキの鳴き声にハっと我に返るヒロシ。

 周囲を埋め尽くすモンスターの波に先ほどまで感じていた違和感の正体に気付く。


「モンスターハウスか!」


 某有名ローグライクゲームに登場するデストラップ。

 膨大な量のモンスターによる物量攻撃でプレイヤーを押しつぶすという単純且つ凶悪なトラップだ。純粋な力押しで来るためこちらが取れる対策が少なく、不意に遭遇してしまた場合力尽きるまで戦うか即座に逃げるかしか選択肢がない。

 モンスターたちはまだ数を増やしている。

 視界全体にびっちりと湧くモンスター。部屋の規模から考えて既に百……いや、二百はいるだろう。まだまだ増え続けていることを考えると最終的には五百を越える可能性がある。

 対してこっちは一人と一匹。

 この状況――


「チャンスだ! ユキ、こいつら皆殺しにするぞ!」

「わふ!? わふー!」

「危険は承知の上だがこれだけの数を倒せばジェムの二つ三つ手に入るかもしれない。こいつら相手なら身を守ることだけなら問題ないし、最悪転移を使えば地上まで戻れる」


 現状の力を把握するのにちょうどいい。

 リスクを抑えてゆっくりとやっていたことの弊害か、敵が弱すぎてヒロシもユキも本気を出す機会が無かった。敵単体は弱くても数は力だ。これだけの数があればざっとであるがユキの力がどれくらいのものか計ることが出来るだろう。

 ヒロシにとっても威力が高すぎてなかなか実験できなかった魔法を使うのにちょうどいい。

 先日のバカたちの「おかげ」というか「せい」というべきか困るが、ヒロシたちは良くも悪くも目立っている。なるべく大人しくしていたつもりでも(※注 ヒロシの主観が含まれます)絡まれる結果になったし、今後もレア素材の売り払いに関して問題は起こるだろう。

 ラファエルに相談することも考えているがそれでも確実というわけではないだろう。いずれバレるだろうし面倒ごとは起こる。もうこれは確定した未来と考えていい。

 ならヒロシたちがやるべきことは自重することでも隠棲することでもなく力を高めて自衛することだ。

 ユキがいるので単純な力押しにはまったく負ける気がしないがヒロシ自体が弱点になってしまっては意味がない。またこの世界の一流と呼ばれる存在がどれくらいの戦闘能力を保有しているかも分からない。

 今後も〝なるべく〟目立たないようには努力するが、それで行動が制限されてしまうようなら自重はしない。金も力もあればあるだけ便利だ。その分、面倒ごとを引き寄せてしまうだろうが現時点でもさほど差がない以上自重する意味が見出せなくなっている。


「わふっ、わふっ」

「分かってる。怪我しないようにやるさ。だから攻撃はほとんどユキに任せる」

「わふっ!」

「よしっ。ユキ、本気でヤれ!」

「――ッ! アオォォォォォォォン!!」


 遠吠えと共にユキの体から白光が迸った。バチバチと音を立てて弾ける様は雷にも似てその神々しさは普段のダメワンコぶりとは隔絶している。その相貌ものほほんとした顔から狼を思わせる精悍なものへと変わり、その身にはサンスクリット文字を思わせる文様が鎧のように周囲に纏わりついている。

 これこそが神としてのユキの姿なのだろう。

 白い閃光と化したユキがモンスターの群れへと突っ込んでいく。

 光が弾けたと思った途端、軌跡を残してユキの姿が掻き消えた。瞬間移動と勘違いするほどの圧倒的なスピード。

 モンスターたちが次々に光となって消えていく。ユキが移動する度に残光となって消えていく様はまるで光の園だ。周囲が虫系統のモンスターに囲まれている状態でなければその幻想的な光景に見とれていただろう。


「っと、あまり呆けているわけにもいかないな。このままだと全部ユキに持っていかれちゃうからな」


 ヒロシは気持ちを切り替えモンスターに向き合う。

 使用するのは効果範囲と殺傷威力が高すぎて使えなかった魔法だ。

 練習するのも危なっかしいのでなかなか使う機会がなかったのでこの機に思いっきりぶっ放してやろうと思う。


「行くぞ!」


 ショートジャンプを使ってモンスターの群れの上空へと移動する。

 突如ヒロシを見失った虫たちが慌てたような動きを見せる。


「『コンプレクション』!」


 モンスターの群れに手のひらを向け魔法を発動させる。

 イメージは掃除機、または水洗トイレ。

 空間が渦を巻き中心に飲み込まれるように全てが圧縮されていく。魔法の圏内に入った哀れなモンスターたちが圧縮に巻き込まれて中心点へと消えていく。

 まるで水が漏れ出るようにヒロシの体内から魔力が抜け落ちる。軽い倦怠感を味わいながらもヒロシは必死に魔法のイメージを維持し魔力練り上げる。

 この魔法は効果範囲が広い上に威力が高すぎる。

 効果範囲に関しては多少調整出来るが、圧縮の威力はまったく調整出来ないためなまじ自分が巻き込まれてしまうと助かる可能性がゼロに近い。幸いなことにこの魔法の効果が一瞬で発動する上に、上下に対しては効果範囲が狭いため巻き込まれないようにすること自体はさほど難しくない。

 一瞬にして周囲のモンスターを吸い込み圧縮された空間が黒いボール状の形を取ってヒロシの手に収まった。黒い球体からは今にも殻を破って外へと飛び出そうとする強い脈動のようなものを感じる。

 球体が脈を打つ度にヒロシの魔力がごっそりと抜け落ちていく。それもそのはず、この魔法はまだ終わっていない(・・・・・・・)。

 ヒロシは球体を落とさないように慎重に握ると、ショートジャンプを使って別のモンスターの群れの上空へと移動し、その黒い球体をそっと落とすと即座にショートジャンプを使ってその場を離れる。


「『エクストラクション』!」


 黒い球体を中心に半透明の巨大な箱が現れる。それは大事なものを守るための金庫というより災いを閉じ込める牢獄のようだ。

卵が孵化するように黒の球体がピキリと音を立てて割れた。

 ――直後。トラックが壁に突っ込んだような轟音が鳴り響き透明な箱の中にあったあらゆる物が衝撃波に巻き込まれて灰塵と化した。

 空間魔法『コンプレクション』と『エクストラクション』は二つで一つの魔法である。

 コンプレクションによって球体状に圧縮された空間は魔力が続く限り(・・・・・・・)圧縮した状態で留め置かれる。つまりは圧縮している間は魔力を食われ続けることになる。

 さらにいえば圧縮された空間は魔力が切れたと同時に元に戻ろうとする。

 空間が元の大きさへと戻ろうとする際、空間と一緒に圧縮された空気は凄まじい速度を伴って吐き出される。空間が元に戻る際の速度は光の速度すらも越える。それに押し出され瞬時に膨張した空気は衝撃波となって周囲に破壊をもたらす。

 下手をすれば水素爆弾をも越える広域殲滅魔法となりかねない。それを抑えるのがエクストラクションだ。

 ただ魔力を止めて解凍してしまった場合、周囲にもたらされる被害は想像したくもない規模になるだろう。エクストラクションはその破壊の威力を抽出し、固定化した空間で囲うことで破壊の規模を抑えることが出来る。

 閉鎖した空間で爆弾を爆発させるに等しいためその威力は想像を絶する。

 現在ヒロシが使用できる魔法では最大最高の威力を有しているが、魔力の制御が難しい上に失敗すると自分も死にかねないため戦闘で使うのが極めて難しいというデメリットがある。

 上空から攻撃をしかけることで一方的に攻撃できる環境が揃っていたので良かったが、これが相手の攻撃をさばきながらとなれば絶対に使用しようとは思わないだろう。


「うん、やっぱりすげえ威力だけど制御が難しすぎだわ。それにごっそり魔力持っていかれたしちょっと休憩しないとダメだな」


 額に流れる汗を手の甲で拭いながら大きく息を吐く。

 心臓が激しく脈を打っている。手持ちの魔力が底をつき体力が代償として支払われたからだ。コンプレクションの魔力消費もさることながら、エクストラクションの魔力消費はそれに倍するほどに激しい。身を守るためにも魔力をケチることが出来ないため仕方ないといえるが一発撃っただけでガス欠になっているようでは実戦では使い物にならない。


「最初に使ったときは一発で気絶しかけたからまだマシになってるんだろうけど…………。残りはユキに任せるしかないかな?」


 荒く息を吐きながら閃光となってモンスターを狩りまくるユキを遠目で見やる。

 ヒロシが全魔力を消費して倒した数よりもユキが暴れまわって倒しているモンスターの数の方がどう見ても多い。

 これがステータスの差か! と思わなくもないが、多少の努力や工夫でステータス差を覆すというのはそれはそれで理不尽だと思う。

 少し休憩し、息が整ってきたので再度狩りを始める。

 さすがにもう大技を使えるほどの余裕はないので、ショートジャンプとゾーンを駆使してなるべく一方的に攻撃できる場所を確保しながらディスプレイスでちまちま狩っていく。敵が密集しているので多少大振りで攻撃しても全弾ヒットするので効率が良い。

 ディスプレイスの一振りで三・四体が千切れ飛んでいくのを見るとやはりコンプレクションはオーバーキルといわざるを得ない。

 狩っても狩っても次から次へと湧いてくるモンスターたちの相手をしながらより効率的に、より安全に戦える方法を模索していく。

 ヒロシのスタイルは魔法使いだがショートジャンプのおかげで間合いに関してはいくらでも調整が効く。さらにディスプレイスは距離に関係なく攻撃が可能――ただし魔力消費は上下する――なのでなおさら遠距離にこだわる必要がない。

 むしろ敵の背後に回ったときは魔法を使うよりショートソードで首を刈り取ってやる方が楽だし効率が良かったりもする。


「この戦い方ってまんまアサシンだよな……」


 おかしい。魔法使いのはずなのにやっていることは暗殺者だ。

 バックアタックおいしいです。

 などとバカなことをやっている内にモンスターがついに底をつき始めた。戦闘を開始して約半時間くらいだからヒロシたちにしてみればかなり長時間戦っていたことになる。

 まばらに残ったモンスターを一々倒していくのも面倒なので残りの討伐はユキに任せてヒロシはアイテムを拾っていくことにした。

 大部屋全体にアイテムが散らばっているのを見て回収が死ぬほど面倒になってくるがランダムジェムが落ちている可能性が高いので全部拾っていくことにする。


「こういうときのために作ったコンプレクションなんだけどなぁ」


 本来コンプレクションは散らばったアイテムを簡単に回収するために作ったもので、あんな広域殲滅魔法になるとは思っていなかった。広範囲にアイテムを吸い集める魔法を作ったはずなのにどうしてこうなったのか?

 魔法の使い方が下手だからこうなったのか。それともイメージが悪かったのか。

 どっちにしろ使いたいように使えないのは課題だ。


「おっ、やっぱりジェムが落ちてるな」


 ヒロシだけでも百近くのモンスターを狩ったのだから一個くらいは落ちていて当然といえる。ユキが討伐した分を含めると二個……いや、三個はいけるんじゃないだろうか。

 ほくほくとした気分でヒロシは次々にアイテムを回収していく。

 アイテムのレア率はあまりよくはない。

 ほとんどユキが討伐したようなものなのでアイテムの率はよくはないが、数が数なので今日の稼ぎはとんでもない額になるだろう。

 ヒロシが出したレア素材も含めると今までの稼ぎとは桁が違ってくると思われる。


「全部売りに出すと問題になるよな。かといって自重して抑えるのはもったいないし」


 ヒロシのスキルを十全に発揮するには自重しない方が効率がいい。

 周囲の評価を気にしてアイテムの売りを抑えるのはもったいない。

 かといってヒロシだって問題を起こしたいわけじゃない。その妥協点を見つける必要がある。


「やっぱり早いとこラファエルのおっさんと繋ぎを取ったほうがいいな。アイテムはある程度大目にさばいておいて、おっさんに次会ったときに相談するか」


 自分のスキルについてどこまで話すかを決めておく必要がある。

 ユキのことや自分が異世界から来ているということを話すのは少々マズイ気がするので、幸運についてはドロップアイテムを出しやすい、またはレアドロップ率を上げるようなスキルだと説明すればいいだろう。

 いろいろと今後のことを考えているうちにドロップアイテムの回収が終わった。途中からユキがアイテムを集めてくれていたのでかなり早く終わった。


「ガフッ!」


 本来の姿だからなのか、久しぶりの本気戦闘で気が高ぶっているからなのかユキの鳴き声がいつもより若干ワイルドだ。

 アイテムの合計数は数えるのが面倒になるほどの量になった。その内レアの比率は五パーセントほどだった。敵の九割がたをユキが担当したのでこれでも多いくらいだろう。

 そして肝心のランダムジェムは……残念なことに二個だった。

 倒した数に比べて少ない気がするが、短時間で二個も出たことを考えればお釣りが来るくらいだ。


「やっぱり数を狩ると出るのか? にしてはちょっと個数が少ないよな……。う~ん、まだジェムの発生条件については分からないことが多いな」


 検証する数が多ければ多いほど確実な数値が出せるのだがいかんせん自分一人しか検証している人間がいないのではっきりした答えが出るまで時間がかかりそうだ。


「なにはともあれ乗り切ったな。下手すりゃ死にかねないトラップなんだろうがオレらにとっちゃボーナスゲームだったな」

「ガフッ!」

「え? いや、本当に死ぬかもしれないって思ってたわけじゃないぞ? ちゃんと安全マージはしっかりと取ってだな」

「がふぅ! ガフ!」

「うっ……そう言われるとそうだけどさ。でもこんなチャンス見逃すわけにも」

「ガウーッ! ガウッ!」

「悪かった! 悪かったって! でも、こんなこと早々あるもんじゃ…………ないのか? 本当に? これ……利用できないか?」


 自分の放った言葉に強い違和感を覚えてヒロシはぶつぶつと独り言を始める。

「発生条件は?」「一回限りのトラップなのか?」「この部屋がそれ専用だとしたら?」「クールタイムが存在する?」「リセットの条件を満たせば……」「利用できる!?」

 漏れ出る単語がどんどん不穏なものになり、それに合わせてヒロシの口角がニヤリと釣り上がっていく。

 さっき注意したばかりだというのにさっそく危険なことをやらかそうとしている自分の主に若干呆れを感じたユキは「わふ~」と疲れたようなため息をついた。

 その顔はさっきまでの精悍さを失いいつもの暢気そうな顔をしていた。



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