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神憑いちゃうぞ!  作者: 黒井のん
10/19

テンプレバトル

蹂躙の幕開けだ!

と思いましたが少しあっさり風味です。

「それで、オレになにか用か?」


 乱暴者の冒険者に絡まれる。

 そんな異世界テンプレのようなイベントに直面したヒロシは内面のウキウキを隠してはすっぱにそう返事をした。

 その無理に感情を押し殺したような声を怯えや恐怖を隠していると錯覚した男たちは俄然いい気になっていく。


「お前が最近この街に来たって新入りだろ? 新入りが先輩を差し置いて良い飯を食うってのはおかしいだろ? 新入りってのは先輩の後について雑用するのが礼儀ってもんだ」

「そうだぜ。先輩には絶対に服従。それが探索者のしきたりってもんだ」

「来て一ヶ月も経ってない奴がこんなところにいることがおかしいんだ。どうせそこの従魔に全部まかせっきりのチキン野郎なんだろ?」

「臆病者が! ビビっちまって返事できねえか?」

「そういうわけでよ。お前の持ってる食い物全部よこせや。なに、代わりに俺らの黒パンを一個だけ分けてやるよ。俺って優しい先輩だろ?」


 男の言葉に仲間たちがギャハハと下品な笑いを上げる。

 正直なにが楽しいのかさっぱり理解出来ないが、実にテンプレすぎて感動してくる。

 態度は人として最悪としか言いようがないが、五人組みとはいえランク2のモンスターを倒してここまでやってきたのだから素人の集まりというわけではあるまい。

 誰もいないところで絡んできたのなら少しくらい下手に出ても良かったのだが周囲の探索者たちの目がある以上ここでなめられると後に響いてくるだろう。ここは強気に出て返り討ちにするのが王道展開というものだ。


「断る」

「あ? お前、今なんつった?」


 男の声が一段下がる。

 脅しているつもりなのだろうが、横で寝そべっているユキがやる気なさそうにしているところを見ると滑稽でしかない。つまりこの男たちはヒロシたちにとってなんら脅威にならない存在だと思われているのだ。


「頭だけじゃなく耳まで悪いのか? 断ると言ったんだ。なんで見ず知らずの人間に食い物を譲ってやらないといけないんだ。バカなのか?」


 毒をたっぷり含んだ言葉を返してやると男たちはたちまちに顔を赤くしていく。

 なんてヘイト管理が楽そうな奴らなんだろう。こんな奴らばっかりだったら狩りも楽になるだろうにとヒロシは変なところで感動する。


「てめえ、下手に出てれば調子に乗りやがって。痛い目みないとわからねえみたいだな。あぁ?」


 いつ下手に出たんだ?

 という疑問は飲み込み、ヒロシはいかにも面倒そうな所作で立ち上がる。

 どう見ても雑魚な連中だがさすがに座ったまま相手にするのは分が悪い。ヒロシに合わせてユキが立ち上がろうとするが「ユキは別にいいよ」と制止する。こんな多数の目があるところでユキの力を見せ付けるわけにはいかない。

 いずれはバレるだろうが、その時期は今じゃない。


「調子に乗っていたとしたらどうなんだ? その腰に飾った剣でも使うのか?」

「っち、死にてえらしいな。ここはダンジョン内だ。てめえを殺したって問題はねえんだぞ」

「いや問題あるだろ。探索者同士の問題は当人たちで解決っていうのが前提だが、法に触れる行為には干渉するって説明されただろ? …………あぁ! バカだから忘れたのか。すまん。気が利かなくて」

「てめえはモンスターの餌にしてやる。そこの従魔は後で俺らのペットして飼ってやるから安心して死ねや」


 男たちの言葉に反応したのかユキが不機嫌そうに尻尾で地面を叩く。

 その目にははっきりと「こいつらヤっちゃっていい?」と書いてあるが、どうも今回絡まれた原因の一つとして従魔に任せっきりの軟弱物と思われていることがあるような気がする。

 確かにいかにも素人同然な格好をしたヒロシと、いかにも強そうなユキの対比はそう映っても仕方ない。ここは周囲の目があるところでヒロシもそれなりに戦えるのだというところを見せ付けてやれば多少は周囲の評価も変わるだろう。

 いい加減探索者たちからの侮蔑の目には辟易としていたのだ。ここらで一発見せ付けてやるのもいいだろう。


「出来ないことを言うとバカに見えるぞ? 元からバカにしか見えないが」

「てめえら、やっちまえ!」

「「おう!」」


 ヒロシの言葉が引き金になったのか、男たちは武器を抜き襲い掛かってくる。

 ヒロシはにやりと笑みを浮かべ男たちの動きを冷静に観察する。

 一番大柄な男がヒロシの正面から突っ込み、仲間の男たちはヒロシを囲むように散開していく。言動は野蛮だがさすがに探索者というべきか、一対多の戦い方というものをよく分かっている。

 惜しむらくは全員が近接武器であることか。せめて一人くらい弓がいればこっちも苦戦する可能性があったのだが突進してくるバカ五人などヒロシにとっては的でしかない。

 せっかくなのでこのバカ相手に対人用に作った魔法の実験でもさせてもらおう。

 正面からやってくる大型の男にターゲットを合わせると、パチンと指を鳴らした。


「ほげええええええええええええ!!!」


 直後、締め殺された鶏のような悲鳴を上げて男が崩れ落ちた。

 その顔は青を通り越して白く染まっており全身をぴくぴくと痙攣させている。突如起こった惨劇に仲間の男たちが恐怖を浮かべてのけぞった。


「おぉ……思った以上に効くなあ。これ」

「て、てめえ。な、なにをしやがった!」

「なんで敵にネタばらししないといけないんだ。バカか? ん~、でもまあ二度と会わないだろうし今回は教えてやってもいいか。簡単に言うとオレの魔法でそいつの急所をぶん殴ってやっただけだ」


 空間魔法『インパクト』

「ディスプレイス」の切る、突く、ねじる、押しつぶす。とは異なり、ターゲットした空間を直接震わせるのがこの魔法だ。

 衝撃の威力はせいぜいヘビー級ボクサーのパンチレベル。当たり所が悪くなければ死にはしないし、鎧を着ていれば大したダメージにもならないだろう。だがこの魔法の恐ろしいところはピンポイントで狙ったところに攻撃できるところだ。

 今回のように急所を狙って攻撃も出来るし、顎先を狙って攻撃すれば一撃で脳震盪を起こすことだって出来る。

 元々はけん制のために作った魔法だったが直接攻撃に使ってもそれなりに威力があるのが分かったのは僥倖だ。


「どうした? ぼけっと立ってるなら良い的だぞ? お前らも同じようになるか?」

「ひぃ!」


 仲間の惨状に怯えたのか男たちはがむしゃらに襲い掛かってくる。

 ヒロシがパチンと指を鳴らす度に男たちは悲鳴を上げて倒れていく。一人は同じく急所に、一人は顎を殴られ昏倒、一人は即頭部をぶん殴られ気絶、そして最後の一人が仲間の犠牲を乗り越えヒロシへと肉薄する。


「死にやがれクソ野郎!」


 上段から振り下ろされた一撃。

 鉈に似た重厚な刃がヒロシの頭部目掛けて襲い掛かる。まったく避けるそぶりを見せないヒロシに勝ちを確信したのか男はにんまりと笑みを浮かべる。

 しかし――


「はい。残念」

「ごはっ!」


 ショートジャンプによって背後に転移したヒロシは男の後頭部にインパクトを叩き込み昏倒させる。

 顔面から勢いよく地面にぶつかった男に「もしかしてヤっちゃった?」と不安になったがちゃんと脈はあった。無事生きているようだ。

 脳死の可能性については考慮しない。


「………………死んでる振りかもしれないからもう一発いっとくか」


 とりあえず全員にもう一発ずつインパクトを急所に叩き込んでおく。

 ぴくぴくと痙攣するバカ共を見下ろすヒロシに周囲の探索者がざわつきはじめる。


「こいつらが弱すぎて大した練習にならなかったな」

「わふ~」


 まったくだと言わんばかりにユキがフンっと鼻を鳴らした。

 周囲に目を向けると、探索者たちは一様に驚いた顔でこっちを見ていた。特に絡んできた男たちと同じくヒロシのことをユキのおまけと勘違いしていた連中は顔を真っ青にして肩を震わせている。

 ヒロシは別に復讐なんてくだらないことに時間を使うつもりはさらさらないのだが、せっかくだしここで釘を刺しておこうと口を開く。


「今後オレたちに絡んでくるようならこいつらと同じ目に遭わすからそのつもりでいろ!」


 顔を青くした連中は壊れた機械のように首をカクカクと縦に振った。

 あとはあいつら良い具合に噂を広げてくれるだろう。これで探索者たちの見る目が変わってくれれば有難い。

 さて、探索者たちの対応はこれでいいとして問題はこのバカ連中をどうするかだ。

 正直面倒なのでこのまま放置してしまいたい。しかし、なにもしないでおくと元気なったらまたいちゃもんを付けてくる可能性もある。それもまた面倒だ。

 とりあえず無闇に喧嘩を売ってきたツケを支払わせる意味で男たちの有り金全部と装備を丸々もらっていくことにした。

 こいつらの実力がどれくらいのものなのかよく分からなかったが、さすがに装備なしでこの階層から地上に戻るのは無理だろう。となると、こいつらは周りの探索者に助けを求めることになる。

 金なし装備なしのこいつらが他の探索者に助けてもらうには必死になって頭を下げる必要があるだろう。

 傲慢な態度のツケとして殊勝な態度で人にお願いする謙虚さを身につけてほしい。

 無理だったら死ぬだけなのでさぞかし必死に頑張ることだろう。

 くっくっくっと、まるで悪人のような笑みを浮かべながらヒロシは男たちの装備を回収していく。


「おいおい、あんた装備全部剥いじまうつもりか? さすがにそいつはやりすぎってもんだろう」

「うん?」


 陽気な声に振り返ると、こんがりと日焼けした肌をした青年がにんまりとした笑みを浮かべていた。その後ろには彼の仲間と思わしき男たちが立っている。

 もしかしてイベントのお代わりですか? とヒロシは警戒と期待の詰まった目で見返す。


「おっと勘違いしないでくれよ。俺たちは別にアンタに喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ。そいつらは前々から態度が悪いって有名な連中でな。個人的な意見を言わせてもらえればスカっとしたのが本音だ」

「? それでお前はどちらさんなんだ?」

「おっと、失礼。俺はパーティ「白銀のナイフ」のリーダーでペテロってもんだ。後ろにいるのが俺の仲間で、アーチャーのニール、魔術師のテラだ」

「はぁ~い」

「よろしく頼む」


 ペテロの声に合わせてチャラそうなアーチャーと実直そうな魔術師が頭を下げる。


「オレはヒロシ=サトウ。そんでこいつが相棒のユキだ」

「わふ」

「ヒロシか。よろしくな」

「こちらこそ」


 ペテロが差し出してきた手に握手で応じる。

 さっきのバカたちのような男たちは全力でお断りだが、礼儀を持って接してくるならそれを無碍に扱うつもりはない。もちろん、警戒を解くわけじゃないが。


「それで話は戻るんだが、そいつらが嫌な奴らなのは分かってる。だが、ダンジョン内で装備品を奪われちまったらそいつらは死ぬしかなくなる。自業自得なのは分かるがさすがにそいつはやりすぎじゃねえか?」

「あぁ、それについては――」


 ヒロシはペテロたちに装備品を奪う意味について説明する。

 殺すつもりだと思っていた彼らはヒロシの思惑を聞いて感心したように目を瞬かせた。続いて目を輝かせて口々にヒロシを賞賛する。


「なるほど! 彼らに反省を促すためにやるわけか」

「そこまで良いものじゃないさ。オレの見立てでは六割方こいつらは死ぬんじゃないかと思ってる」

「元はこいつらが撒いた種だし生きる道が残っているだけに強くは言えないな。だが、せめて武器くらいは残してやったらどうだ?」

「そうか? ならオレが使っていた安物のショートソードだけは残してやろう。誰が武器を持つのかで醜く争ってくれれば楽しそうだしな」


 ヒロシの発言にペテロたちが引きつった笑みを浮かべる。

 彼らの気持ちは分かるがヒロシは敵に対して容赦するつもりはない。バカたちを殺さずに気絶に留めたのは情けでもヘタレたからでもなく単純に魔法の実験をしたかっただけだ。

 もし彼らが手加減できないほどに強かったならヒロシは一切の迷いなく彼らを殺した。

 ダンジョンに入ると決めたときに他の探索者から襲われる可能性は十分に考慮している。実際に人を殺す事態が来るかは別にして、ヒロシは既に覚悟を決めているのだ。


「おいおい噂で聞いてたのとはずいぶん違うんだな」

「噂?」

「おう。誰にでもへーこら下手(したて)に出るヘタレ野郎で、強いのは連れてる従魔だけだって話だったんだがな」

「誰にでも下手に? ……あぁ、もしかしてゴッズさんや受付嬢に対して丁寧に対応してたのがそう見えたのか」


 初対面の人間相手に敬意を払うのは当然だ。

 今回はなめられないためにわざと素の状態で話しているが普段なら丁寧なしゃべり方をしただろう。それを下手に出ていると取られるとは……。


「いやぁ、それにしてもヒロシさんは強いんだねぇ。こいつら態度は悪いけど実力はそれなりにあるんだよ。普段はランク3を相手に狩りをしているような連中だからねぇ」

「ランク3……ってどの階層からだ?」

「ランク3は十一階層からだな。ランク4は十六階層からだ。ただし、十五階層にはボスが出る」

「そのボスが強くてなぁ……。そのせいでなかなかランク4に進めないんだよな」

「ボスと戦ったことがあるのか?」

「一回だけな。すぐに勝てないって分かったから全力で逃げたぜ」

「簡単に逃げられるもんなのか?」

「それは大丈夫ぅ。ボスは十六階層へ進む門の前から動かないからさぁ。逃げれば追いかけて来ないんだよ」

「あれはまさしく地獄だった。我らの攻撃が何一つ通じなかったからな」


 うんうんと白銀のナイフの面々が深く頷く。

 その顔にはうっすらと恐怖が映っている。ボスの強さを垣間見た気分だ。


「なにかスキルを取得するかパーティメンバーを増やすかしないと現状での打破は無理だな。装備を強化するのも手だが……今は金がねえしな」

「それはペテロが酒を飲みすぎるからじゃないかなぁ」

「そういうニールも女に金を使いすぎだ」

「あれぇ? テラだって魔法書にお金使いまくってるよねぇ?」

「まぁ……なんだ。金は使ってなんぼだし、その……な?」


 な? ってこっちに聞かれても困るんだが。

 ヒロシは苦笑を返すが、言いたいことは分かる。

 ゲームの世界ならひたすら装備品やアイテムに金をつぎ込むことが可能だが、リアルな世界でそんな禁欲生活を続けることなんて出来やしない。

 ましてや命賭けで生きている探索者にそういった禁欲を強いるのは精神安定上よろしくないだろう。例え楽に勝っているように思えても命を張っているストレスは見えないところでじわじわと蝕んでくる。

 ヒロシも何度かモンスターに殺される夢を見て飛び起きたことがある。その度に決して油断はしないようにしようと心を戒めている。


「そうだ! せっかくここで知り合ったのもなんかの縁だ。ヒロシ、俺たちのパーティに入らないか? 強さは申し分ないし噂と違ってかなりいい性格してるみたいだしな」


 どうだ? とペテロが人のいい笑みを浮かべる。


「あぁ~……気持ちは嬉しいんだが断る」

「そうか。まぁ、あれだけ強いならソロでもやっていけるか」

「悪いな。誘ってくれたのは嬉しいんだ。その、オレの持ってるスキルがちょっと特殊でな。パーティを組むのに向いてないんだよ」

「ほう。サトウ殿はユニークスキル持ちか」


 テラの視線がユキに向く。

 ヒロシのスキルによってユキを使役していると思ったのだろう。


「ボクたちは従魔持ちでも気にしないよ?」

「そういえば知り合いから聞いたんだがこの街だと従魔持ちは珍しいんだってな。どうしてなんだ?」


 ヒロシの問いに三人は意外そうな反応をする。

 もしかしてこれって常識だったのか? とヒロシの背筋に冷や汗がたれる。


「サトウ殿は今までパーティを組まれたことはないのか?」

「ないな。というより探索者になったのがこの街に来てからなんだ」

「おいおい、この街が初めてのダンジョンってことか? わずか二週間ちょっとでこの階層まで来るってどんだけ強いんだよ」

「ボクたちがこの階層まで来るには一ヶ月半は掛かったよね? いや、もっとだっけ?」

「二ヶ月半だな。我らはあまり裕福ではなかったし装備を揃えるのに手間取ったからな」

「っと、すまん。話が逸れたな。えっと従魔使いの人気がない理由だよな? ぶっちゃけると報酬の問題だな。従魔はいるだけで金を食う。餌代がどうしたって掛かるからな。種族によっちゃ従魔用の装備とかもいる。つまり余計に金と手間がかかる」

「だがその分従魔がいれば戦力が上がるだろ。パーティメンバーを増やすのとそう大差はないと思うが」

「そうそこが問題なんだよねぇ。従魔をパーティの一員だって考えた場合さ。報酬をどう分割するのかが問題になるんだよね。例えば、ボクたちとサトウがパーティを組んだとするじゃない? じゃあ報酬は何分割するの? 五分割? 四分割?」

「なるほど、そういうことか」


 従魔をメンバーと換算して当分で分けた場合、従魔使いの取り分が多くなる。逆にメンバーとして扱わなかった場合は従魔使いの取り分が減る。

 つまりパーティメンバー内で不平等が発生する。

 誰か一人が優遇されたり冷遇されたりするとパーティ内に不和が生まれそれは毒となってパーティを蝕んでいく。それが納得して行われたとしても時間の経過と共に錆び付きいずれ決壊する。

 それが安全な街の中であればいいが、もし危険なダンジョン内で起これば全滅もありうる。そんなリスクをわざわざ背負いたいと思う探索者はいない。

 従魔使いの取り分だけ少し大目にするという手もあるが、その取り分の決め方をどうするのかがまた問題になる。そんな面倒なことをするくらいなら最初から入れない方がいいと思うだろう。


「タラントは迷宮都市として有名だ。領主の治世も良いし探索者が多く集まるからパーティメンバーを集めることはさほど難しくない。ルーキー同士で組みやすいしな。だから余計に不和を生みやすい従魔使いとは組みたがらないんだよ」

「じゃあなんでオレを誘ったんだ?」

「そりゃあんたなら二人分の報酬払っても十分お釣りが来るからな。なんなら俺たちとあんたで二分割でもいい」

「えらく高い評価だな。オレは今言ったようにまだ探索者になって一ヶ月も経ってないルーキーだぞ」

「だからこそという面もある。強い力を持ってはいても探索者としては知らないことも多かろう。そこを我らが補佐してやれば恩も売れるからな」

「テラは正直すぎだってぇ」


 つまりは青田買いが目的だったわけか。

 気前よく情報を話してくれるのも恩を売って後に繋げておこうという魂胆なんだろう。

 自分たちの思惑を隠すことなく堂々と話す彼らにヒロシは好感を抱いた。営業をやっていたからよく分かるが人と人との繋がりというのはまずは利益の探りあいだ。この人は自分にどんな利益をもたらしてくれるのか? それを考える。

 汚い話だと思うかもしれないがこの人と一緒にいたら楽しそう。友達としてうまくやっていけそうというのも自分の利益と言い換えられる。

 ぶっちゃけ誰だってなんかしら下心があって人と接しているのだ。それを見せるか見せないかは別にして。


「なるほど。いろいろと教えてくれて助かった」

「別にいいぜ。貸し一つな?」

「ははっ、ちゃっかりしてるな。了解だ。一個借りとく」

「じゃあ最後にもう一個恩を売っておこう。従魔使いを続けていくならパーティメンバーを集めるのは大変だろうから奴隷を買うといい。奴隷なら報酬で揉めることはないしな」

「奴隷って……戦えるのか?」


 奴隷と聞くとあまり良いイメージが湧かない。

 ファンタジー物だと定番だがいざ自分が買う側になるとどうしても一歩引いてしまう。


「元探索者や兵士、傭兵って奴隷は結構いるぞ。その分高いけどな」


 安くてもフルプレート一式揃えるくらいの値段はするだろうとペテロは言う。

 安物の剣でも二千ジェニーするのだから少なくともの十倍。いや、二十倍は見込んでおいた方がいいだろう。


「よし。それじゃあ俺らは狩りに行くわ。あんまりここで長居してると今日中に十一階層まで行けないんでな。お前はどうするんだ?」

「オレは……まだ狩るつもりだったんだけどこのバカたちのせいでやる気なくなったし今日は戻るわ。明日ここの続きからやるよ」

「続きからって……そういえばさっき何もないところから飯出してたがもしかしてヒロシって空間魔法使えるのか?」

「使えるぞ」

「俺たちの取り分は二割でいいからパーティ組まないか?」

「露骨すぎだろ! 悪いがパーティは無理だ。別ので借りは返すよ」

「くっそ、絶対だぞ」

「ははっ、分かった分かった。それじゃあな。ユキ、帰るぞ」

「わふっ」


 それじゃ、と手刀を切りヒロシは瞬く間に消えた。

 詠唱も溜めもなく一瞬で消えていったヒロシに白銀のナイフの面々は驚愕と感嘆の息をもらす。ヒロシが本気になれば恐らくこの場にいる者全員をたやすく殺せるだろうと感じたからだ。

 彼を敵に回すまい。

 その場にいた探索者たちは一様に思うのだった。


 なお余談ではあるが、ヒロシに倒されたバカたちはそのあまりに哀れな姿に同情した探索者たちの助けを借りて無事ダンジョンを脱出した。

 これからは心を入れ替えて農民として生きていくそうだ。


こういうイベントは書いていてすごく楽しいです。

もし、こういうイベントを書いて欲しいってのがありましたら感想を頂けましたら参考にします。

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