コングパワー炸裂!
コングは棒切れを振り回していた。
羽音のするあたりを徹底的に叩きまくった。
「オリャーッ! オリャーッ!」
羽音がしそうなあたりも叩きまくった。
「オリャツ!」
ついでに、羽音のしないあたりも叩きまくった。
「リャ?」
ハエはコングの攻撃を見事に交わし続けた。それも、ギリギリのところまでじっとして、直前に身をひるがえす。
からかうほどの、余裕である。
攻撃の度に何かが壊れ、それを見てさらにコングは逆上した。
ハエの姿をとっくに見失っていたが、それはどうでもいいことかもしれない…。
フスマは裂け、障子は粉々に飛び散った。
ベッドは破れ、スプリングが飛び出している。
でんぐり返りの扇風機は首をよじってガタゴト騒いでいた。
もともとまともな部屋ではなかったが、今はもう、部屋ですらなくなっていた。
人が住んでいた…それは、過去の出来事のひとつになっていた。
コングの部屋は、アパートの二階である。今どき珍しいほどのボロアパートのおかげで、家賃は破格に安い。
その安い家賃の半分は、年老いた家主の思いやりのようなものかもしれない。
ある意味、受け皿と呼べた。
そんな家主はアパートの一階に夫婦で暮らしていた。
「婆さん、さっきから上が騒々しいのぉ〜」
「そうだねぇ、妙な声もするし…?」
家主夫婦は、仲良く昼食を口に運んでいた。
「ハハハッ、妙でけっこう。若い人は元気が一番じゃ」
「そうだねぇ、なんだか楽しそうだわ。ホッホッホ♪」
平和な昼のひとときで、テーブルがガタゴト揺れている。
老人二人はテレビドラマをながめながら笑いあっていた。
そのテレビの音に混じって、奇声が聞こえていた。
コングの部屋は、修羅場と化していた。それでも攻撃の手を休めようとはしない。
その強靭な肉体によるものか、単純な思考によるものかは定かではない。
「どこ、行きやがった?」
カーテンのポールで目覚まし時計をめった打ちにしていた。
ポールはもとの長さの半分もない。
なんと!ハエはコングの頭の真上にいた。
天井のへりに張り付いて、じっとコングを見物している。
彼は先ほど食事を終えたばかりである。ゆっくりと食事休憩した後のショータイムみたいなものだ。
台所に缶詰めが口を開いて転がっていた。そいつで腹を満たしていた。
そんな食事中もコングは休みなく暴れていたが、ハエには関係のないことであった。
コングは全身汗だくであった。裸の肩が上下していた。
ふと、コングは上を見上げた。そしてそこに敵を発見した。
石膏ボード製の白い天井に、シミのようにへばりついていた。
「ヤローッ!」
なんと!
コングはパンチを繰り出していた。
ボコッ!
丸太のような腕が一気に天井を突き刺した。
ボコッ!
天井に穴が開いていた。砕けた破片が後を追って崩れ落ちる。
ハエはわずかに位置を変えて攻撃を交わしていた。
立て続けにハエを襲った!
ボコッ!
ボコッ!
ハエは身を交わすが、大きくは避けない。天井をわずかに移動した!
フンッ!
腕が切り裂いた!
ゴスツ!
パンチを打ち出しながらも、ハエをロックオンしている。
ブンッ!
ハエが跳ねる!
ボッ!ボッ!
撃ち抜く!
視界の隅にパンチを叩きつける。
白い破片が辺りに飛び散る。
拳の陰から飛び出す ボコッ!
引き抜くと同時に次を撃ち抜く!
ボコッ! ザグッ!
天井に次々と穴が開けられていく!
ハンマーパンチは加速し、巨体からフルパワーが絞り出される!!
「ンオーッ!」
コングが吠えた!




