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消え失せたコング達

 

コングとニコが人ごみの中で肩を並べて歩いていた。


ニコは周囲の者から頭ひとつ突き出るほど長身である。


しかし、そのニコの頭の上にコングの顔があった。


そのコングがチルチルとミチルを両腕に抱えていた。


そして隣のニコは、大きなリュックを背負い、額に汗を浮かべている。


広々とした庭に小石を敷き詰めた歩道が伸び、多くの人びとが流れを造っていた。



「ずいぶんと重そうだな」


ニコのリュックを見ながらコングが声を掛けた。


「大丈夫です、これでも少ないぐらいです」


ニコが小石の道を踏みしめながら答えた。


しばらくすると道が二つに別れ、一方の先にレンガ張りの近代的な建物があり、

人の流れはそこに続いている。


そしてもう一方の道の先には、中世の城に似た教会の建物が威厳を放っいた。


その見上げるほどの建物を横目に、コング達は人の流れに身をまかせていた。


……お前でもビビるのか?


神虫が話しかけた。


『冗談じゃねえ、あんまりデカイから、ちょっと呆れただけだ』


「コング、お姉さんに来てほしいの?」


腕の中のチルチルが耳元で聞いていた。


「うるせぇ!黙ってろ」


建物の入り口は開け放たれ、次々と人が呑み込まれている。


その入り口をくぐると、ガラス張りの広いロビーとなっていた。


入り口付近で、関係者らしい若い男女が来場者を迎え入れている。

チケットを確認し、来場者を左右に振り分けているようであった。


チケット持参者はそのまま通し、持っていない者は一枚のアンケート用紙を手渡されている。


その用紙には、ありきたりの質問事項の最後に住所や名前の記入欄がある。

それを書き込めば、無料で入場出来るシステムであった。


コング達は適当に記入を済ませ、ロビー沿いに並ぶ重い扉を押し開けた。


ズラリと並んだ肘掛け付きの椅子。そして一段高いステージと壁に埋め込まれた大型スピーカー。


ちょっとした市民ホールと比較しても、見劣りしない造りであった。


ただ、それらの市民ホールと違うのは、ステージ中央に教会のシンボルマークがあることぐらいであった。


コング達は席に座らず、会場の後方のドア近くに並んで立っていた。


「改めて見ると、あれは気味が悪いな」


コングがその教会のシンボルを見上げて呟いた。


……神聖な存在と信じる者には逆に美しく映るもんだ。不思議だな。


神虫も独り言の様に続いていた。


シンボルマークはワイングラスであった。ただ、そのグラスの縁にぐるりと蛇が描かれている。神の血を飲むグラスだと言う。


聖杯と呼ばれるシンボルであった。


「コングさん、始まりますよ」


ニコが小声で呟いた。


ステージ脇に一人の女性が現れてイベントの開催を告げ、さりげなく教会の宣伝を混ぜ込んでいる。シスターと呼ばれるのか、独自の服装であった。


そして神父が紹介され、会場から拍手が沸き上がる。


ステージ中央に立った神父が挨拶をし、手短なコメントでイベントの開催を告げた。


神父の後方の幕がスーッと上がり、見覚えのある光景が現れた。


軽快なテーマソングを響かせ、プリズマンショーが始まった。


……コング、今だ!


神虫の声が響いた。


「よし、行くぞ!」


コングがそう言って背のドアを慎重に開けていた。チルチルとミチル、ニコがそれに続いていた。


ニコの計画であった。


イベントの開催中、エルが会場にいる可能性は高い。

そして、大勢の者をコントロールする為に、意識が一瞬コング達からそれる。


その隙を突く。


やはり、ロビーには人影は無い。入り口付近で受付の気配がするだけだ。


ニコがリュックの口を開け、中からペットボトルを取り出してがぶ飲みを始めた。そして次に、中身を頭から被った。


コングも素早くニコに連動し、リュックに手を掛ける。


ペットボトルの中身は【ミズ】であった。


「これで、エルは私達を見失ったはずです」


ずぶ濡れのニコがコングを見つめる。


「こいつらはいいのか?」


コングがチルチルとミチルを【ミズ】のしたたる顎で指す。


「あなたが消えれば、この子達も奴の視界から消えますよ」


『ハエ野郎、大丈夫か?』


……ああ、突然消え失せたんで、あわててやがる。


「乾いちまうまでに勝負を決めるぜ」


コング達は無言で非常口のドアを開け、建物の外に出た。


強い夏の陽差しが容赦なく照りつける。気温はおそらく体温といくらも変わらない。


足元の濃い陽影の先に、古めかしい教会の姿が高い。


辺りに注意を払いながら、慎重に歩き出した。




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