表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/37

訪問者の罠

拡いガレージ内に、来客を告げるチャイムが鳴り響いていた。


出発の準備を終え、シャッターは全開に開け放たれている。この位置から門扉の様子が伺えた。


そこに、二人の人影が立っている。


今、チルチルとミチルは部屋で乾いた服を着込んでいる最中だった。


二人の人影がこちらに向けて軽く会釈をした。表情までは確認出来ないが、こちらに視線を注いでいる。


「嗅ぎ付けたのか?」


そう言って、コングはニコと眼を合わせた。


……いや、そうじゃ無いな。この辺一帯をシラミ潰しに探し回ってるんだ。


神虫が代わりに答えていた。


「俺にまかせろ」


コングはそう言って、ニコを見つめた。


「ここのシールドは物理的な力には無力です」


ニコの口調がそれまでになく早くなっていた。


「安心しろ、俺のガタイは物理的に強力だ」


「お願いです。コングさんは、子供達といっしょに部屋に隠れてくれませんか。僕が対応してみます」


「あぶねぇ奴なら、俺の方がいいんじゃねぇか? お前は無理するな。それに俺には、ガラの悪い虫が着いてる」


「でも…」


「インテリの出番じゃ無いぜ」


「そうですか、解りました。けど、この敷地からは一歩も外に出ないでください。絶対です…」


「ああ、そうするよ」


コングが再び歩き出していた。


……誰がガラの悪い虫だ! お前の方がよっぽど品が無いぞ。


コングは立ち止まり、靴ヒモを直す仕草をした。


『連中はエルの手下か?』


……そうだ。自分が操られていることも理解してない下っばだ。無意識に探りを入れて来るはずだ。


『トボケきりゃいいんだな?』


……ま、そう言うことだ。


コングはゆっくりと立ち上がって、また歩き出していた。


『バレりゃ、どうなる?』


……なる様になるだけだ。


『それもそうだ…』


……止まれ、そこまでだ。敷地の外は、ニコの装置が効かんぞ。



「どちらさんですか?」


コングはその二人の訪問者に声を掛けた。


会話が不自然にならない距離まで間を詰めていた。


そのコングの爪先には、ニコが造り出した見えない境界線が横たわっている。


その見えない境界線を挟んで、コングと二人の訪問者が向き合う形になっていた。


目の前の一人は中年の男で、夏の暑い中きちんとネクタイを絞めている。


その男の隣には、やはり男と似通った年齢の女が不自然なぐらいの笑顔を浮かべている。


「こんにちは、立派なお屋敷ですねぇ。お庭も拡くてオシャレだし…」


男はコングの問いには答えず、世間話を始めていた。


隣の女はひたすら男の言葉に合わせて、頷いている。


訪問者二人は、敷地ギリギリの道端に肩を並べ、人の良さそうな笑みを浮かべている。


「要件は何でしょう?」


コングは冷静に男に問いかけた。


すると男は、いかにもうっかりしていた風な表情を見せ、女に目線を投げた。


すかさず女は自分のバッグから、小雑誌を取りだし、男に手渡した。


男はそれを受け取ったまま、切り出した。


「プリズマンってご存知ですか? お子様に人気で、テレビでもやってるんですが、私の甥っ子も……」


男はプリズマンの人気に絡めて、身内の話まで始めようとしていた。


「悪いが、俺はあんたの甥に興味は無い」


コングは長引きそうな状況を、それで打ち切りにしようとした。


「いえ、実はそのプリズマンが、私たちの教会のイベントに来てくれることになりまして、本日はそのご案内に伺いました」


そう言って男は手にした小雑誌をちらつかせた。


『聞いたか? プリズマンだ』


……ああ、気をつけろ。奴らの眼を覗き込むな。


人気キャラクターをエサに、布教活動を行う宗教団体。


そんなところだろうと、コングは想像力を働かせた。


「無料の招待券が少しばかりあるんですが、こちらに小さなお子様はいらっしゃいますか?」


コングがそれに答える前に、女が口を開いた。


「先ほど、小さなお子様の声が聞こえた様ですけど…」


訪問者の二人は、コングの表情に絡みついた。わずかな変化も見逃さない眼であった。


『こいつら、俺の頭ん中が読めるのか?』


……いや、シールドの中の者を読み取ることは出来ん。


チルチルとミチルの声が道端から聞こえるはずが無い。


言葉のトラップを仕掛け、顔の表情から何かを読み取ろうとしていた。


「ここには、子供がいないから、キャラクターショーには興味ないな」


「あら、私の聞き間違えだったかしら?」


女はそう言って、さらにコングの眼を凝視した。


『こいつらが、シールドの中に入ったらどうなんだ?』


……入ることは出来るが、エルの眼では無くなる。だから、シールドの中には入らない。


「何かの聞き間違いじゃないか、子供はいないよ」


「そうですか…、アッ、こんにちは」


男の視線がコングを素通りした。


振り返らると、ニコがホースで庭に水撒きをしている。


ニコは何気に会釈だけで、男に挨拶を返していた。


『任せておけって!』


「見たところ、外国の方の様ですが…」


男が汗をぬぐいながら聞いて来た。


「ええ、まあ」


「うちには、外国の方もたくさんいますよ。楽しいですから、ぜひ一度遊びに来てください」


男がそう言うと、隣の女はまた不必要なぐらいの笑みを浮かべた。


「良かったらどうぞ」

男が小雑誌と、チケットをコングに手渡す仕草をした。


無造作に受け取りかけたコングの手から、不意に足元に落ちた。


「アッ!」


男とコングが同時に腰を降ろし、その小雑誌に互いに手を伸ばした。


瞬間、小雑誌の上で男とコングの手が重なった。


そこは、ほんのわずかにシールドの外であった。


コングの伸ばした手に、男の手が重なっていた。


「キャラクターショーをご覧になったことはありませんか? ごく最近…」


男の眼が、爬虫類のそれに変わっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ