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ニコの計画

ドライバーのいない無人のバスが遠ざかって行く。


その時、海沿いの国道には車の姿がなかった。コング達を乗せていたバスだけが、走り去っていた。


「バイバーイ」


そのバスを、チルチルとミチルが手を振って見送っていた。


子供達の後ろには、二人の男がその姿を見守る様に寄り添っている。


コングとニコの二人であった。



「それでは、こちらです」


ニコがコングに声を掛けていた。端正な顔の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。

やはり【下界】には気温があり、夏を感じさせる。



ニコが案内したのは、一軒の高級別荘であった。


街中では滅多に見られない広い敷地に、石組の建物が海に向けて建てられていた。


「ここは地球連合の建物か?」


コングが門をくぐりながら聞いていた。


「まあ、その様なものです。でも今は僕が借りてます」


手入れされた洋風の庭に、小ぶりなプールがある。そのプールの向こうには海が見渡せ、リゾート感を煽っていた。


「地球連合って金持ちなのか!?」


コングは感心してニコの横顔を覗いていた。


「いえ、お金は僕が用意して購入したんです」


ニコが玄関のドアに手を掛けた時、背後で大きな水音がした。


振り返ると、プールの中でふざけるチルチルとミチルがいた。服を着たまま水しぶきを撒き散らしている。


ニコは自然と表情を緩め、言葉を重ねた。


「いろんな特許でお金はあります。ここは地球から借りているだけです」


『……!?』


コング達はプールで遊ぶ子供達をそのままに、建物の中に入っていた。


広い室内に落ち着いた調度品が据えられていた。そのどれもがアンティークと呼ばれる家具類である。


そんなリビングの壁の一面が、ガラス張りであった。室内からはプールで遊ぶ子供達が見え、遠くに海が見渡せる。


コングとニコの二人はソファーに向き合っていた。


「お前、若いのに発明家なのか?」


「はい、発明は好きですね」


「で、その特許で金持ちなんだな」


「金持ちですね」


「お前、ずいぶんあっさり認めるな。少しぐらい謙遜すれば?」


「事実ですから…でも、謙遜する必要なんて無いですよ。ただお金があるだけで、偉い訳ではありません」


「ふう〜ん、そんなもんか。で、どんなの発明したんだ?」


「そうですね、いろいろです。先ほど乗っていたバスも僕の発明品ですよ。今、世の中に出しても消されてしまいますが…」


「消される?」


「はい、発明内容に合った発表のタイミングが重要なんです。判断を誤れば消されます」


「どういう意味だ?」


コングの問いに、ニコは唇を噛んで即答しなかった。


「ヤバいのか…?」


ニコは小さく頷くと、声を落として続け始めた。


「たとえば、詐欺扱いで逮捕された方もいます。不審火で消失するのはある意味で定番です」


「犯罪者に仕立て上げたり、放火まですんのか?」


「昔からやってます。文蔵さんが今守ってる書物も以前、狙われました」


「そうらしいな。あのじいさん変わり者だよな。で、特許も同じか」


「そうです。コングさんは、シティウォーカーと言う乗り物をご存じですか?」


「ああ、知ってるよ。遊園地とかイベント会場なんかでうろうろしてるオモチャだろ?」


「はい、その発明の原案は別物なんです。外観だけを似せて、すり替えられました…」


「途中ですり替わった?」


「ええ、原案では車輪が無いんです。浮きますから」


「…エッ!? そんなことができるのか!」



「オリジナルの発明は以前にあったんですが、その簡易版が再度開発されたんです」


「そのオリジナルは?」



「研究資料も含め、すべて消失しています」


「不審火…か。 エルの仕業ってことだな」


ニコは答える代わりに頷いた。


「コングさん、エルにとって都合の悪いものは、この世から消されてしまうんです。たとえそれがどれほど大切であっても…」


「エルってのはそんなに力があるのか?」


「エルに不可能は無いでしょうね。国家も操れます」


「マイケルとか言ったお前の先生も、文蔵のジジイも、それを知ってるよな?」



「もちろん、知っています」


「知ってて、なんでそんな化け物と一戦やろうってんだ? 勝てる訳ねぇだろ!!」


「勝つ必要はありません。エルを無力化する方法があります」


リビングのガラスにずぶ濡れのチルチルとミチルが張り付いていた。


顔を押し付けて、奇っ怪な形相である。


コングとニコは子供達を見て黙り込んだ。そして、互いを見合って小さくため息をついた。


「ニコ、念のため確認するけど、その無力化する方法ってのは、この悪ガキが関係するのか?」



「残念ながらその様に聴いています」


コングとニコは大きなため息をついていた。



……コング! 奴に嗅ぎ付けられた! ガキ共を中に入れろ!!


『何ッ?』


コングとニコがプール側のドアに駆け出し、子供達を抱き上げた。


「ニコ! ここは安全なはずじゃなかったのか!」


「そうです、磁場を切り離しています」


コングとニコは、部屋にもどり、ずぶ濡れの子供達を床に降ろした。


チルチルとミチルは不思議そうにコング達の顔を見上げている。



今のところ、外の様子に変化は無い。



……バスから敷地内までの空白を嗅ぎ付けやがった!


神虫が言った。


わずか数メートルの距離をエルは見つけ出したらしい。


『そうか、神虫。動きは無いか?』


……きっと、時間が短かすぎて、正確な位置までは掴んでないな。さっき、一瞬だけエネルギーが曇っただけだ。


『あの爬虫類野郎! ずっと探してやがったのか』



……狙った獲物は逃がさない。そんな奴だ。気を付けた方がいい。


『神虫、よ〜くアンテナ立ててろ』


……解ってるって。任せろ!


「ニコ、じいさん達は本当に大丈夫なんだな?」


「ええ、先生も文蔵さんもあの世界にいる限り安全です。エルは絶対に入れないんです」


「なんだか解んねぇけど無事ならいい。じゃあ、エルの無力化って話、聞こうじゃねぇか…」


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