表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/37

新世界が見えた!

「姫、あんたにもこの声が聞こえるのか?」


「うん、ちょっとハスキーボイスかもね」


姫は的確に言い当てた。コングの頭の中の声が聞こえているのは間違いなかった。


「何であんな恐ろしい夢なんか見せたんだ!?」


コングは今日、立て続けに二度も異常体験をしている。


バスでは、それまで経験したことの無い恐怖を味わった。


次に、多目的ホールのステージでは命を落とす寸前まで追い込まれている。


それはどちらも現実にはあり得ない悪夢そのものであった。


「エルを見せたのは確かに私よ。でも、それは見える様に協力しただけよ」


「じゃ、エルに殺されかけたのは現実なのか!」


「そうよ」



コングの脳裏には、くっきりとその異常な光景が焼き付いている。


姫はそれを夢ではないと断言した。サラリと言いのけるその口調に不自然な駆け引きは無い。


改めて、コングは自分が死の際まで詰め寄られたことを知らされていた。



…コング、ビビるな…


頭の中の声が姫との会話に割り込んでいた。


むしろコングはその声に驚いた。

しかし、いくらかの見栄が冷静さを装い、その言葉に答えていた。


『ふつう、ビビるだろ。殺されるとこだったんだぞ!』


…安心しろ。お前は今、生きている…


『うるせぇ!、ハエが偉そうにすんな!』


…お言葉だが、俺はハエではない。れっきとした地球連合の一員だ…



『ハエのくせに、地球連合なんて名乗るな!』


…だから、俺はハエではないって…


『じゃ、何だ?』


…神虫だ!…


「ジンチュウ!?」


…お前が勝手に、ハエと決めつけただけだ。お前はハエがしゃべるのを聞いたことがあるのか?、俺は無いぞ…


「バディなんだから、二人は仲良くしてね」


姫はそう言ってコングを見上げ、ニッコリと微笑んだ。



遊園地を出た正面にバス停があった。だが、姫の足取りはそこを素通りして駐車場に向かっている。



ぎっしりと並んだ乗用車の列の外れに、数台のバスが停められていた。


一台のバスのドアが開かれた。


コングが今まで見たことも無いバスであった。


運転席の前部分が突き出ている。その部分だけなら、古いダンプカーの形に似ている。


しかし、運転席から後ろはバスである。映画やドラマに使われそうな代物であった。


その位置から道を挟んで牧場の一角が見えていた。


姫からバスに乗り込もうとした時、声が上がった。


「メーさんだ!」


ミチルがコングの尻の辺りをペタペタと叩いて知らせていた。


突然チルチルが勝手に駆け出し、あわててミチルが追いかけていった。


道路の向こうの牧場にはヤギや羊が自由気ままに放たれていた。


その内の一頭のヤギが、柵からこちらを伺っていた。

そのヤギを目指して二人は駆け出した。



「危ない!!」


コングが反射的に叫んだ!


一台の四輪駆動車が、幼い二人に突っ込んで来た。


瞬間、コングは顔をそむけ、眼をきつく閉じた。


コングの脳裏でチルチルとミチル、そして車が重なった!



しかし、コングの元に、衝撃的な音は届かなかった。


車のブレーキ音も、タイヤの悲鳴も無い。眼を閉じるコングには、何も届けられなかった。


コングが恐る恐る顔上げ、辺りを見る。


チルチルとミチルの二人が、ヤギの頭を撫でていた。


何事もなかった。


だが、確実に交錯するタイミングだった。少なくとも、急ブレーキや急ハンドルは必要な状況であった。


それでも回避不可能なタイミングだった。


コングはそこに、【何か】を感じ取っていた。



「これが、新世界よ」


姫がポツリと呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ