そこは、異次元。超能力 特殊能力が氾濫していた!!
店の中を、二人の小さな子供が走り回っていた。
1人は男の子、もう1人は女の子である。
二人とも五歳前後の年齢に見える。
周囲の大人達を気にすることなく、テーブルとテーブルの間を縫う様にはしゃいでいる。
「ここは、文蔵さんの店?」
「ワシ個人の物ではないが、まあ、面倒はみている」
文蔵はそう答え、子供達に視線を流した。やがて表情が緩み、目尻に笑いが滲んでいた。
コングもまた、子供達をそれとなく見ていた。
「今日は1日、あの二人を遊ばせてやってくれんか?」
「それって、地球連合となんか関係あんの?」
「直接は関係無いが、少しはワシ達のことが理解出来るかもしれんな」
先ほどのウェイトレスが注文の品を手にしていた。
それらをテーブルに並べながら、彼女はおどけた調子で口を開いた。
「文蔵さん、また企んでるな?」
コングの前には、ジョッキ入りのオレンジジュースとトーストの山があった。
そして、小皿に二つ割りのレモンがある。
「姫、ワシの道楽じゃ。許せ♪」
文蔵はそう言ってコーヒーカップに手を伸ばした。
『なんで、子守りが地球連合なんだよ…それに、タクラミって?』
その言葉はジョッキ入りのオレンジジュースと共に
コングの腹の中に流し込まれた。
その時、女の子が姫とテーブルの間をこじ開け駆け抜けていた。
手元のジョッキが振られ、ジュースが床にこぼれ落ちた。
その直後、コングの耳の中で羽音がした。
それは小さく断続的な信号に似た羽音であった。
そして二人目の男の子が、床に拡がるジュースの上を駆けている。
とっさに、コングは走り去る子供の足元を凝視した。
コングは気づいてしまった。
気づいて、驚いて、動けなくなっていた。
二人の子供達が床から浮かんでいた!
床からわずか1〜2センチほどの高さではあるが、間違いなく足は床を離れている。
こぼれ落ちたジュースがそれを証明していた。
踏まれた痕跡が無い!
コングは完全に石になっている。
「文蔵さん、いいの?」
姫が文蔵に向き直った。
文蔵はそれには答えず、ゆで玉子を剥いている。
「ねえ、コング。そんなに驚かなくてもいいよ、そのうち馴れるから…」
姫と呼ばれた彼女が優しい口調で語り掛けていた。
文蔵はコングの顔を覗き込み、耳元でささやく様に言った。
「子守りではない。遊ばせるのだ」
コングは息を止め、文蔵をじっと見つめた。
そして、確かめるようにゆっくりと話し始めた。
「文蔵さん。確か俺、子守りとは言ってないけど…」
「それと、姫。コングとも名乗ってない…。もちろん、俺が毎朝、レモンを喰うこともな…」
姫はこれ以上ないほどの笑顔を浮かべ、コングを見つめた。
「文蔵さんが認めるのが解るわ」




