地球連合って何?
文蔵の眼が笑っていた。
甚平に似た服を着込んでいる。寺で坊主が着そうな、作務衣とか呼ばれる代物だ。
麻布か何かで出来ているらしく、涼しげであった。
「おはようございます」
コングはゆっくりとドア脇で会釈をした。
「食事をいっしょするかね?」
そう言うと、文蔵はコングの返事も聞かず、スッと背中を見せて歩き出している。
コングはあわてて足先を靴にねじ込み、その後に続いた。
意外にも文蔵が向かったのは、階下の自室ではなかった。
アパートのすぐ近所にある商店街の喫茶店であった。
カフェと呼べる垢抜けた店構えではない。これと言った特徴のない古い喫茶店である。
しかし、明らかに他の店とは異なる部分がある。
店名を示すはずの看板に、ちょっと理解に苦しむ文字がある。
【地球連合】
【喫茶・地球連合】ではない。そこにはただ、地球連合としか書かれいない。
中を覗くと、やはり誰の眼にも喫茶店である。地球連合の名をイメージする演出はどこにもない。
テーブルの半分以上に先客がいた。常連なのか、それなりに繁盛しているらしかった。
「おはよう♪文蔵さん、今日はゆっくりだね」
若いウェイトレスが忙しく立ち回りながら、明るい声を掛けてきた。
「ああ、今日は新入りを連れて来たからな」
文蔵のその返事は、コングを新入りと決めているらしかった。
だが、本人のコングは何も聞かされていない。
何の新入りなのか?
コングはある意味、覚悟を決めていた。
昨日、文蔵に何でもすると、宣言していた。
混乱して、うっかり口が滑った。
誠意のつもりの一言である。
そして今、新入りと告げられた。
『なんだ? 新入り?』
コングは文蔵に連れて、席に着くと同時に口を開いた。
「新入りって、俺のこと?」
「ワシが連れて来たのは、あんた1人じゃ」
コングが更に質問しようとした時、ウェイトレスがテーブルに来た。
「新入りさんはモーニング付ける?」
改めて見るとその声の主は、思わず絶句するほどの美女であった。
間違いなくコングが出会った女性の中では桁外れに美しい。
その容姿から放たれるオーラの様なものが強く、周囲を包み込むほどである。
テレビや映画に映る美女達とはまた違った、異質な美しさがあった。
「こやつはモーニングの特大。飲み物は冷えてりゃ何でもよい」
文蔵は勝手に注文し、美女はクスクス笑いながらカウンターに向かっていった。
そのカウンターの向こうに見馴れた顔がある。文蔵の妻、千恵であった。
「今の女も、新入りって言ったよな? いったい何の新入り?」
コングがまた、不思議そうに尋ねた。
「そりゃ、地球連合に決まっとる」
文蔵は、おしぼりで顔を拭いながら、当たり前のことのように答えた。
「大家さん、地球連合って何なの?」
コングは更に問いかけた。
「大家さんは、やめよう。文蔵でよい。」
「じゃ、文蔵さん、地球連合って何なの?」
文蔵は手元の水を一気に飲み干し、口を開いた。
「あんた、ニックネームか何かあるかね?」
「みんな、コングって呼ぶけど…。な、地球連合って何?」
「コング、気にせんでよい。そのうち解る」




