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格闘の夜 思考はハートを超えてしまうのか?

 

その夜、コングはどうにも寝付けないでいた。


普段ならとっくに夢の中をうろついている頃だ。


だが、この部屋でたった一つの時計が壊れ、時刻の確かめようがない。


ひくひく動く時計の息の根を止めたのは自分であった。


そして、扇風機を破壊したのもまた自分自身である。


熱帯夜にエアコンが壊れているのはやはり辛い。


それでも扇風機を回せば、いくらかはましだった。だが今夜はそれがない。


あるのは耳の中の邪魔者だけであった。


コングは壊れたベッドに横たわり、破壊した部屋の天井を眺めていた。


眠れないのも無理はない。頭を抱え込んでしまう問題が目の前と、耳の中にある。

さらに、熱帯夜が追い討ちをかけ、汗が止まらない。


眠れないのは、当然と言える。


コングは深い葛藤に捕らわれていた……。





…… おい! 寝たのか?……。


…眠るならそっから出て、好きなだけ眠てくれ。


…何なんだ、自分だけのんきに眠やがって…。


…大体、いつまで、くつろいでいるんだ?……まさか、ずっと居座るつもりか?…


…しかし、出て来ないとなるとマズイぞ。


…まあ、腹が減ったら、そのうち出て来るか…。


…待て! 耳クソがある!


…多分、こいつは耳クソを喰うぞ。イヤ、絶対に喰うな…。ハエだから。


…耳クソって美味いのか?


…美味くない方がいいな。


…もし、喰ってみて、美味いと思ったら絶対にヤバイ!


…外に出る気がまるで無くなる。


…後から後から、耳クソは湧き出て来るからなぁ。

下手したら、本格的に永住するぞ。


…毎日ゴロゴロしてても飯に困らん…。その飯がなんとも美味い。


…俺なら間違いなく出ないな。


…こいつ、オスかメスどっちだ?


…オスだな、きっと。やたら根性あるもんな…。


…そのうち、メスを連れ込んだりしないだろうな…。


…耳ん中で、平和な家庭を造ったら、元気な赤ちゃんが産まれたりするぞ。家族そろって……?……!


…赤ちゃん?


…ハエの赤ちゃんったら【ウジ】じゃねぇか!


ウジはマズイぞ!頭ん中、ウジはマズイでしょ!!


…育ち盛りのウジは耳クソで腹がいっぱいになる訳ないだろ!


そのうち、喰い物探してウロウロして、奥までもぞもぞして……?


…ゲッ!そりゃ、脳ミソだ!


…脳ミソはヤバイ!


それだけは絶対にイヤだ!


頭ん中でウジが湧いて、脳ミソ喰われるのは死んでもイヤだ。


…毎日、少しずつバカになるぞ!

今よりヤバイぞ!


結局、頭ん中、空っぽになってあの世行きだろ?


司法解剖かなんかで頭割ったら、空っぽでした♪…。

なんて、ひょうきんな医者にツイッターで騒がれるに決まってる!


そんなこと俺の田舎の連中は、ハイエナ並みの嗅覚ですぐに嗅ぎ付けるぞ。


…ああ、やっぱり笹原のセガレは頭空っぽだったんか…♪

なんて皆で腹を抱えて笑い転げるに決まってる。


…しかも、暇な年寄りばっかりだから、葬式なんて、宴会を通り越して祭りみたいに騒ぐぞ。


…あのデタラメな村長が葬式を仕切ったら最悪だ。


下手すりゃ、屋台まで引っ張り出して盛り上げるかも知れん。


そうなったら、たこ焼き片手に焼香するじいさんとか出て来る。

線香の代わりに焼きリンゴ立てて笑うばあ様なんか現れるかもしれん。


…飲んだくれの寺の和尚なんか、完全に酔っ払って、木魚をとうもろこしでポクポクするぞ!


村長なんか、集会所に垂れ幕………




コングは耳にハエを入れたまま、やがて眠りについていた。



夢を見ていた。


夢を見ている時、それが夢であることに気づくのは稀である。


しかし、その夢の世界にいる限り、夢のすべてが現実となる。


別世界の記憶を手放せば、なにもかもが現実だと錯覚する。


そこは、自身の思考が創造した世界である。だから本当は、何の制約もない。


すべては完全に自由である。




目覚めた。




コングはその部屋のベッドの上にいた。


不思議な夢を見ていた感覚がある。感覚はあるが、どんな夢だったのかが思い出せない。


どこか気分がふわふわと浮ついた感じであった。


忘れ物をした。しかし、何を忘れたのかが思い出せない。そんな気分に似ている。

動こうと思えば、すぐにも動ける。

しかし、動く気力そのものがまだ眠っていた。


コングは目覚めた姿勢のまま、じっと何もない空間を視ていた。



ドアをノックする音があった。その音に重ねて声が聞こえた。


「笹原君、起きとるか?」


文蔵のしわがれた声であった。


『じいさん、早いよ…』そうは思ったが、年寄りは皆早い。


コングは仕方なく返事をした。


「鍵、かかってないです」



ドアは開かれた。



読んでいただき、ありがとう♪


今日もたくさん楽しいことがありますように……。



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