☆4月18日(火) PM11:56 / ハイム・ノタバリコ い棟八〇八号室
問題提起や詳細描写はありませんが、恋愛また性別のあり方について自由な感じになっています。
「ねぇ、明日、〝千年〟見に行かない?」
洗ったばかりのシーツは、花のような洗剤の香りがした。
枕もフカフカでうつぶせに寝たくなる。けど、やっぱ苦しいので途中でやめた。
「……見てどうするの?」
沙良は文庫本に指を挟んであおむけの胸の上に置いてこっちを見る。電気が照らすから、黒目の底まで見えてしまいそうだった。
壁際と壁際。離れたベッド。両方から手を伸ばしても届かない。離れているのは、これが適度な距離だからで、嫌で離れてるわけじゃない。
沙良のシーツは薄いピンクで、あたしのシーツは薄いブルー。柄はおそろい、白のドットの可愛いやつ。仲がいいのは見れば分かるでしょう。
「別にどこでもいいんだけど、最近あんまり、二人で外出てないから」
「デート? いいよ」
沙良のほうからデートって言葉が出たのにうれしくなる。もしかしたら読んでる本の中身が、そういう話だったのかも。
沙良は何でも読むから。コメディ、ホラー、サスペンス、ラブストーリー、エロいのグロいの。特にノンフィクション。テレビもラジオも好き。
「じゃあランチはミケにしよ。10時起きね」
何着てこう。晴れで、気温は20℃。風はあんまり強くない。なら短いスカートでもいいかな。
それで、何を食べようかな。この前はオムライスで、デザートはパンナコッタ。期間限定メニューは……ああダメ、お腹へっちゃう。
目覚ましをかけて、近くの電気を消して、布団にもぐりこんだ。香りが強くなる。
「おやすみ」
「おやすみ、百合」
沙良は朝と夜、確認のようにあたしの名前を言う。昔は会った時と帰る時のことだったけど、一緒の今は。
向こうの電気を消す音は、いつものように、あたしが寝た後にしたみたいだった。