祖父はひとつ上の男
禊という名目でシャワーを浴び、サッパリしたところで牛乳を一本、じっくり味わいながら飲み干す。そして、真っ白なふんどし一丁に着替えると、本殿へと向かった。
「ミココス、今更これから何をするのか聞いても怖気づいたりはしないつもりだが、そろそろ目的を教えてくれないか」
言いながら、着々と準備を進めるぼくを手伝いながら、彼は不安そうな顔を向けてきた。
「ブルマコス、このプレーヤーを部屋の隅に。ああ、目的だな。そうそう、それを説明していなかったっけか……。まあ準備しながら話すには丁度いい」
ぼくはヤカンに水とスポーツドリンクを半分ずつ入れながら話していく。
「これはぼくの祖父から教わった儀式でね。端的に言えば、本式が表の玄関だとして、今からやるのは裏口を叩くやり方だ。多くの手順をすっ飛ばして、神様にざっくばらんにお願いする為のものなんだ」
「そんなの初めて聞いたな……」
「ああ、多分だけどウチしかないんじゃないかな。まあ、とにかくこいつを行えば法外な願い事もしっかり聞き入れて貰えるというわけだ」
「おお! じゃあ……」
「ただ、もちろんリスクがある。神社を介さずに願いをするわけだからな、これはただの願い事では済まない。神様は願いの大きさに相応の試練を与えるし、もしもそれを途中で放り出そうものなら、ぼくらにはペナルティが下る。となると、当然ぼくらの願いに相当するような課題となると、どんなとんでもない事を言われるかまったく見当もつかない」
「なるほどな。参考までに聞いておきたいんだが、過去に例は無いのか?」
「祖父が一度成功しているな」
「ほほう。それじゃあお祖父さんの願い事から傾向とか何となく分かるかもしれないな。どんな願いだったんだ?」
「包〇治療だ」
「………………」
「言いたい事は分かる。だが、待ってくれ。当時の医療技術はぼくも知らないが、とにかく祖父にとっては本当に悩みに悩みぬいた末の結論だったんだ。察してあげてくれないか」
「ああ。それで、どんな試練を与えられたんだ?」
「一週間、熱や下痢、幻覚、小指を角にぶつけるなどの様々な苦痛を味わうというものだ」
「うおお……。そういう系統か……」
「まあ、かなり直接的な感じだよな。多分、神様も願い事の内容にちょっと思う所があったんだろうさ。…………と、よし。準備ができたぞ」
「よし……。さて、やるとしようか」
「一応聞いておくが、止めるなら今の内だぞ」
「怖気づいたりなんかしないって言ったろ。不安はあるけどさ、これでどうしようもない病気が何とかなるっていうんなら、やりたいに決まってる」
「ほう、やりたい、とな」
「ああ、やりたいね。望むところだ」
「オーケー、最高だぜ相棒。それじゃあ、説明を始めよう」
儀式の総時間は約六時間。場合によって延長有り。音楽に合わせて踊りながら、部屋をぐるぐるを回り続けるのだ。
踊りはそれほど難しくない。両手のを軽く握る形にし、まずは右手で乳首のあたりをポンと叩き、次に左手で同じように。一歩進んで、手を合わせる。これを繰り返すだけだ。
「かなりの忍耐力があるから、万が一の時はギブアップするんだ。なあに、儀式は失敗してもペナルティ無しだから。それから、どちらか一方は必ず踊っておかなければならないから、水分補給なんかする時は声をかけあっていこう」
「ああ、了解した。だが、それだったら二人一緒じゃなくて一人ずつ交互に踊ればいいんじゃないのか?」
「二人で踊れば二人分儀式は進んだとみなされる。一人ずつ交互にやったら半日以上はかかる事になってしまうな。時間が経てば不利になるのは目に見えているんだ。最短を目指して二人でやった方がいい」
「だったら、もっと大人数でやれば」
「定員が二人でな。それ以上は増やせない決まりなんだよ」
「そうなのか。よし、わかった。それじゃ、やりますか」
「よし、じゃあ位置についてくれ」
ぼくらはいそいそと部屋の隅へと移動する。
「ミュージックスタート」
プレーヤーのスイッチを押すと、スピーカーから何とも厳かな太鼓の音色が響き始めた。それは一定のリズムを保ちながら、様々なバリエーションに変わって曲を奏でていた。
その音色に合わせ、ぼくらはポン、ポン、パンと両の乳首を叩いて一歩進み、合掌した。