さん、さん、さん 爽やか ふんふふ
高知美咲さんとの邂逅から一夜明け、ぼくらは近所の公園に居た。
「で、ミココス。突然呼び出して、今日はどうしたんだ?」
「うん、それなんだがな。ぶっちゃけた話、彼女の病状について君はどう思う? それから、ぼくらはこれからどうしたらいいか相談したいんだが」
「ふむ。そうだな……彼女の病気を考えれば、完治しない限り学校には行けないだろうな。その為にはやっぱり根本的な解決が必要だと思う」
「その通りだ。でも、実際問題として、今まで見つからなかった治療法がいきなりひょっこりと出てきて、しかも短期で劇的に改善するなんてあると思うか?」
「……何が言いたいんだ?」
「とぼけるなよ。ぼくらはこれからずっと、彼女に学校の情報を与えるわけだが、それは学校に行ける見込みの無い彼女にとってはとても残酷な事なんじゃないのか?」
「お前……! 本気で言ってるのかよ。見込みが無いから、知らないままでいさせようってか? そんで、早々に諦めて、忘れて、無かった事にしようっていうのかよ!?」
ブルマコスは怒りを露わにした表情で、今にも襲いかからんとしていた。なるほど、これは本気だ……。
「嫌ならさっさと降りればいい。俺だけでもやってやる。例え、何と言われようと、俺は最後まであの子に付き合う!」
彼は苛立ちを露わにしながら、そこらの遊具を蹴ろうとして、止めた。どうやら、暴力的な八つ当たりができないタチであるらしい。
物事には順序というものがある。それを守った上で、ゆっくりと話をしたかったのだけれど。彼の剣幕を考えるに、それはできそうも無さそうだ。ちょっと微妙な話を持ってきたから、説明する時間が欲しかったのだけれど、ここではむしろ回りくどい言い方をするのは逆効果だ。テンションを合わせていくのが最善だな。
「……君はぼくがそんな奴だと思っていたのか? 病に臥せって、病院で過ごす女の子を無視して自分だけが幸福であればいいなんて言う人間だと」
「…………いや」
「言ったはずだぞ、これからの事を相談したいと。いいか、ブルマコス。ぼくらにはできる事とできない事があるんだ。そして、現状を把握するのは大事な事だ。そう、だからぼくらはできる事を全力でやるしかないんだ」
「……………!!」
「なあ、ブルマコス。ぼくはな、確かに彼女に学校の事を色々話してあげたい。でも、やっぱり彼女自身を学校に通えるようにしてあげたいんだ」
「俺だってそうだ。でも、お前も言ったじゃないか。そんな事、そうそう起こるはずがないって……」
「そうだ、有り得ない事だ。奇跡でも起こさない限りはな」
「それじゃあ……」
「奇跡を起こそうじゃないか! 現実が何だ、常識が何だ、全ての普遍的な事情のことごとくを破壊して、ぼくらは彼女を救う。それに奇跡が必要なら、起こしてみせるまでだ」
「お前、自分で何を言ってるか分かってるのか?」
「当然だ。もちろん、ぼくだってスーパーで買えるような気安いものじゃないくらい知ってる。金銭的な価値を言えば、億がついてもいい買い物だ」
「そうだ……。俺たちには荷が重い……。だが、ミココス。お前がそこまで言うなら、何か考えがあるって事だ。当たってるだろ? そして、それは俺たちにしかできない」
ブルマコスの目に先ほどの非難がましい色は無い。今はむしろ、軽々に勘違いをしてしまった事に対する申し訳なさのようなものがあった。
まあ、それは彼の反応を読み違えたぼくの責任であるのだけれど……。
「やるかどうかは聞くまでも無いだろうな。ついて来い。歩きながら話そう」
「ああ。……なあ、ミココス。誤解してゴメンな。てっきり俺は……」
「いいんだって……。ぼくの言い方が悪かったんだから」
実際、そうだからな……。
「なあ、ミココス」
「うん?」
「俺は、お前が相棒で良かったよ」
「おう、ぼくもだよ」
本当の事だ。彼女の為に激昂できるような人間じゃなきゃ、ぼくだってやってられない。これくらいのテンションだからこそ、どうしようも無いような事だってやってみないか、と提案できるんだ。
坂を上り、段々と山へ近づいていく。田舎道をずいぶんと歩けば、今度は長い長い石の階段を登る。二人共に汗だくになってたどり着いたのは、僕の実家、紀取神社である。
「ミココス……。聞いてたよりもずっと立派な神社だな」
「ああ、ありがとう。でも、それほどでもないよ。流石に、地元ではそれなりに大きいけれど、少し遠くへ行けば倍以上大きい神社なんてゴロゴロしてるからな」
「へぇ、そうなのか……」
「今度、機会があれば話すよ。さて……ぼくの家はこっちだ」
社務所の隣にある扉を指さして、ぼくはそこへと先導する。
ブルマコスは珍しいのか、キョロキョロとあたりを見回している。しかし、残念ながら中はちょっと和風っぽいだけの普通の家なので、期待を裏切って申し訳ない感じだ。
「実は、すでに昨日の内に用意は終わっているんだ。今から準備をして、早速取り掛かろうと思う」
「という事はミココス。お前、俺が乗ってくるって分かってただろう?」
いや、嫌々でも説得して連れて来るつもりだった。と、いうのが本音なのだけれど、今は雰囲気に合わせておこう。
ぼくはブルマコスに顔を向けると、ニヤリを意味深に笑ってやった。
それを見て、彼は得心がいったという表情で、やっぱりな、と満足げに呟いた。
相手に任せるって最高だな。嘘はつかなくていいし、そして円満に解決だ。素晴らしい!
「さあ、まずは身を清めて、こっちの衣装に着替えてくれ」
「おう」
そうして、ぼくは高らかに宣言した。
「よし、ではたった今から、『裏紀取流、本気神様降臨の儀式』を執り行う!」