えんせきへの誘い
しばらく走ったところで二人は速度を緩め、肩で息をしながらヨタヨタと歩きだした。そして、その頃には目的地である桐百足高校へとたどり着いていた。
合格者の掲示は昇降口の隣に設置された特設掲示板にされているらしく、結構な人だかりができていた。
ぼくはすぐに結果が知りたいとも思ったが、人ごみの中を行くにはいささか気力が足りなかった。それは一緒に駆けてきた彼も同じであるらしく、そこで少し休まないか、と持ちかけてきた。彼が指した先はベンチでも何でも無い縁石だったのだが、何故かそれが妙に心地いい提案で快諾してしまった。
(宴席への誘いならぬ、縁石への……)
二人はしゃがむように腰掛けると、しばらく春の爽やかな風で火照った体を冷ました。そして、頃合いを見計らって彼が話しかけてきたのだった。
「さっきはありがとう。もしも助けてくれていなかったら、今頃どうなっていた事か……」
「災難だったね。ところで、今更なんだけれども、やっぱり君も合格発表を見に来る途中だったんだね」
「ああ、そうそう。どうして知っているのかとビックリしたよ。もしかして、受験会場で見知っていたのかと思ってたけど、そうか……偶然だったのか。ハハハ、なんか面白いな。
ああ、そうだ自己紹介がまだだった。俺はブルマコス。安堂ブルマコスだ」
名前を聞いてから、ぼくは初めて彼をまじまじと見つめた。なるほど、確かに言われてみれば優しげで顔立ちが平均よりもくっきりしており、どこか外国の血が混ざってそうと言えなくもない。しかし、髪も瞳も黒く、事前知識が無ければ日本人にしか見えないくらいだった。
「ぼくは紀取ミココス。よろしく」
「何だか、君とは他人のような気がしないな」
「ああ、ぼくもそう思う」
「ところで、紀取君。俺はこの学校が本命だから、合格したらここに通う事になるんdなが、君はどうなんだ?」
「ああ、ぼくも受かっていればここへ通うつもりだよ」
「そうか! 良かった、こんなに早く顔見知りができるとは思わなかったよ。俺、実は最近こっちに引っ越してきたばかりだから、知り合いが一人もいなくてね」
「そうだったのか」
「そうなんだよ。お! そろそろ空いて来たんじゃないか? 結果を見に行こう」
「ああ」
どちらか一方が落ちているかもしれない、と言いかけたが、言わなかった。どういうわけか、ぼくの胸中には何か運命めいたものを感じており、両方ともに受かっているだろう、という奇妙な確信があったのだ。
そして、結果はと言えば、ドンピシャの的中。二人とも見事に合格していた。
改めて、ぼくらはお互いが四月から同じ制服を着るのを喜び、近い内にまた会う約束をしてから解散した。
後々になって知った事だが、その年は定員割れだった為、受験者全員が合格だったりした。ぼくはその事を聞き、やはり運命なのかもしれない、と思ったのだった。
定員割れの事実に胸をトキメかせた生徒は、恐らくぼくだけである。