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いや、まじでホラーだけは堪忍してください!!  前編


「帰宅部のはずの涼太が、最近はやけに急いで帰るよね。まさか……彼女できたの?」

 ――放課後。電光石火の帰り支度をする涼太に話しかけてくる女。

 少し怪訝そうな表情の北条規千華だ。

 最近毎日のようにアリスに呼び出される涼太は疲労のため昼休みはぴくりとも動かず睡眠をとる。……昼休みじゃなくても睡眠しているが。

 放課後になると一通のメールが入る。

 それを見て青ざめる涼太はこうして超絶速度で帰り支度をするのだ。

 メールの内容は毎回違うが、本日はこう。


『はやくきてね☆ 今日は一秒遅れるごとに銃弾三発だぞっ☆』


 次元か! 次元大介なのか!?

「なわけあるか」

 ああそうだ。んなわけあるかい! こんな可愛らしいメールにて恐ろしい内容を送ってくるような女なんだぞ! なんだよ☆って! キャラ違うだろ!

「だ、だよね! 涼太に女の話なんてあるわけないもんね! そんな確率、私が悪の組織に改造人間にされるレベルだね!」

 特撮の見過ぎだろ。

「わけわからん例えを出すな、バカ」

「誰がバカよ! アホ涼太!」

 ぱぁん!

 がすん!

「はぶんっ!?」

 脳天に一コンボ、机で二コンボ。

 いつもの規千華コンボが決まった涼太は、いつも通りうめき声をあげながら机に突っ伏す。

 

 ――、北条規千華。

 

 涼太とは中学からの腐れ縁だ。

 ルックスもそこそこだし、明るい性格から人気も高く、友達多いし、男にモテる。

 何かにつけて涼太にちょっかいを出し、世話を焼いてくる。

 つまり、いいやつだが、そんなことお調子に乗るこいつには口が裂けても言うまい。

「ねぇ! なんで最近、帰り早いの?」

「別に何だっていいだろ! じゃな!」

 

 準備を終えた涼太は足早に教室を去る。

 そう。時間が、ないのだ。

 考えてもみろ。一秒遅れるごとに銃弾三発だぞ? 一分遅れただけで銃弾百八十発なんだぞ? もう穴が空くところがないくらい穴が空くんだぞ?

(冗談? まさか)

 それは顔色一つ変えず銃を乱射する女を前にしても同じことが言えるのか。

 アリスに限っては冗談ではないのだ。

 涼太は全速力で走る。

「あ」

 道路に飛び出したとたん目の前には大型トラック。

 鳴り響くブレーキ音。

 涼太の脳裏に浮かぶ言葉。

(ありきたりだなっ!)

 

 キィィィィィィ!! バン!!


 景色が、世界が、回る。

 回転しながらぶっ飛ぶ涼太。

(あー。このままだと……あ)

 涼太のぶっとぶ方向。視界に、人影が入る。

 スーツ姿の、眼鏡の、OL風の、お姉さん。

「あ、あああああああああぶなああああああああああああ……!?」


「危ない言うてるやつがぶっ飛んでくるて、どういうこっちゃねん、アホ」


「へぶぁっ!?」

 それはそれは、綺麗なドロップキックだった。タイミングもばっちりだった。顔面にめり込むくらいだった。

 ズザザーっと地面を削りながら、電柱に突っ込む涼太。

 え? へ? はい? 廃?

 理解不能のまま、電柱にめり込む涼太を女が首根っこを掴み、持ち上げる。

「なぁ。あんた。うちの話、ほんまに聞いてたん?」

 ずい、と眼鏡をかけた女性が、息がかかるという距離まで詰め寄る。

 涼太が人生で出会った中で、ダントツ一位の、美人。

「な、ななななななな、なんでしょうかか?」

 顔を真っ赤にしながらうろたえる涼太に、女性は溜息一つ。

「はぁ。車に轢かれて、蹴り飛ばされて、電柱ブチ当たって、そんな反応なん?」

 もう一度、溜息。

「ごっつ、流れとるやん」


 ピロリン。


 携帯の、メール着信音。

 はっ、と我に帰る。

 ちらっと携帯の画面を見てみる。

『三百六十、三百六十三、三百六十六、三百六十九……八十五兆七

どこでどういう掛け算なった!? 国家予算!?

「す、すすすすすすす、すいませんん! 失礼しますぅぅぅぅぅ!!」

 最後までメールも見ずに、顔の血の気が一切失せた涼太は、女性を振り切り、疾風迅雷の如く走り出す。

 涼太の姿が見えなくなってから、女性はまた、溜息。


「流されたあかんて、言うたやんかぁ……」


 女性はこの世の終わりと言わんばかりに、肩をがっくりと落とした。

 

 ◇


 ――ピンポン。

「ぜぇぜぇ……」

(ま、間に合った。間に合った。間に合ったんです!)

 人間やればできる。一秒たりとも指定時間に遅れてはいないのだ。国家予算メールはともかくとして、自分を盛大に誉めてやりたい。

 ……しかし、チャイムをいくら鳴らせど、応答無し。

(なんだよ。せっかく車にひかれながら、美人を振り切ってまで超絶スピードで来たってのに)

 敷居をからりと開ける。家の扉には鍵がかかっている。

(寝てるのか?……まさかな)

 とりあえず叩けそうな窓を探して家の周りをくるりと歩く。

 ちょうど家の真裏。庭とも呼べないような狭いスペースには木が多く植えられ、そこだけ、都会のど真ん中ということを忘れるような、森林地帯となっている。

(……これは?)

 一つ、大きな石……いや、石碑が静かに佇んでいる。

 綺麗に整えられた長方形の石の表面には何やら文字が刻まれている。

(神……圭……? すり減っていて、よくわからん)

 触ってみるとよくわかる。かなり手入れがされている。生い茂る植物をきれいに除き、石碑には塵一つ無い。

「それは気安く触っていいものではないぞ」

 急に声がしたので、振り向くとスウェット姿のアリスが眠そうに目を擦りながら立っていた。

「堂々と寝てたな。隠す気もさらさらないのか」

「ふむ。涼太のことだ。少しくらい遅れると思っていたが。時間通りとはやるじゃないか。少しは組織人としての 自覚がでてきたか?」

「そ、そんなんじゃ、ない!」

「じゃあ私に会いたかったのか?」

 こいつは何故無表情でドキリとすることを言うのか。

「な、なんのことやら。それよりこれはなんなんだ?」

「うまく誤魔化したな。まぁいい。それは我がマスターの墓だ」

「マスターの墓?」

「世界制服はマスターが最後に私に命じた使命だ。なにがなんでも遂行する」

 なるほど。こいつがアリスをけしかけた黒幕ということになる。この世にいないのでは文句も言えないが。

「次の任務も決まった。とりあえず中に入れ」

 そう言ってすたすたとアリスは足早に家の中に消えていく。

 

 涼太は毎度のごとく居間に足を運ぶ。

 そう。毎度毎度。

 ここ最近は居間でアリスのよくわからない講義を茶を飲みながら聞くだけ。

 なんでも、新人研修だとか。

 が、やっていることは意味がわからないものだ。組織人としての在り方だとか、ビジネスマナーだとか、就業規約だとか……。

 で、つまらない涼太が居眠りを始めると頭に銃弾ドーン! である。

「あれ?」

 いつの間に着替えたのか。居間に着くと、いつものゴスロリ衣装に身を包んだアリスが茶をすすっていた。

「今回は講義ではなく実戦だ。ウルトラコンピューターがはじき出した次なる場所は、ここだ」

 どん! とアリスはちゃぶ台の上に一枚の紙を叩きつける。

「いや。だからさ。実戦も何も社会人としてのスキルしか上がってないのに、世界征服の邪魔になる相手を排除なんかできないのですよ? あと、絵下手くそなんだから地図書くの止めてくださ

 

 ドーン!


「町はずれの廃ビル。ここに行ってもらう」

「町はずれ……廃ビル……?」

 額からどくどくと血を流しながら涼太は言われた場所を脳内データの検索にかける。

 ぴこーん。検索結果一件。

「って!? 心霊、怪奇、妖怪、呪い、事件、痴漢、不倫、なんでもござれの通称『死の五階建て』のことか!?」

「そう。そこ……不倫? ……ごほん。そこに、今から行ってもらう」

「そっか。あそこに今からって……今からぁぁっ!?」

「着くころにはちょうど暗くなる時間だし、もってこいだろう?」

 がくがくぶるぶる。

 な・に・が・も・っ・て・こ・い・だ。

「フッ。何言ってんだよ。あんなボロボロの危険なところ、夜に行くとこじゃないだろ?」

「怖いのか?」

 アリスはじとっとした目で涼太を見る。

「AHAHA。まさか!? この俺が? 何言ってるんだYO!」

「怖いんだな?」

 さらにじとっとした目で見る。

「だーかーらー。そんなわけナッシングー」

「足、震えてるぞ」

「まーさーかー。ちょっとマラソン練習で疲れてるだけやねん」

「そういえばさっきからお前の後ろについてくる女。誰なんだ?」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!? ごめんなさいごめんなさいもうしませんからすいません許してぇ!!」

「嘘だ」

「……」

「じゃ。頑張ってな。私は他にやることがあるのでな」

 アリスはずずーっと茶をすすりながらやっぱり無表情でそう言った。

「いや、その……アリスさん? さきほどの一連の流れの通りわたくし心霊スポットとかおばけとかが大変苦手でありまして……」

「何を怖がる必要がある。お前も似たようなものだろう?」

「いや、でも、たとえアンデッドでも怖いものは怖

「黙ってゴーストをバスターしてこい」

 ジャキ。

 涼太の額に冷たい銃口がキスをしてきます。かなり熱烈です。

「イエッサー! 行ってまいります大佐!!」

 涼太は脱兎のごとく、日が沈んでいく外に向かって飛び出したのだった。


 ◇


(ううう。ビジネスマナーで幽霊を何とかできるわけないだろう)

 時刻午後七時。深夜とはいかずもあたりは真っ暗で、人などいるはずもなく、静寂に包まれている。

 町はずれのこの場所。草木は荒れ放題。壊れた工事車両がいまだに放置されている。なんでも工事中に呪いのように作業員達がばったばったと原因不明の病で倒れたとかいう噂。

(すっげー怖い! 本当に行かなきゃだめかな? あ。そうだ。行ったことにして、大丈夫。何も異常は無かったよ! ってことにすれば――)


『はいれ』


「――え?」

 突然、背後からこの世のものとは思えない声色でそう言われた。


 ズザザザザザザザザザザッ!!


 涼太は歩いていないのにどんどん廃ビルに向かって進んでいる。

「なにこれ? なにこれぇっ!? 怖い! すっげー怖いよぉぉぉぉぉぉぉぉお!?」

 何者かに後ろから押される感覚と、何者かに前から引っ張られる感覚。

 もちろん前も、後ろを振り返っても、誰も、いない。

 涼太はそのまま廃ビル入口まで引きずられ、

「へばっ!?」

 入口から廃ビル内に放り込まれた。


『――けて』

 

 ウィーン。


 涼太が中に入ったことを確認したように入口の扉が閉まる。閉まる直前に何か聞こえた気がするが。そんな涼太の考えも一瞬で忘れるくらいの勢いで自動ドアが閉まる。

 自動ドアだからってこの場合は自動で閉まるのはおかしい。廃ビルなのだ。電気が生きているわけがないのだ。

「ちょっ、まじっすか!?」

 涼太はすぐさま自動ドアを開けようとしたが、まるで石のように扉は開く素振りも見せない。

 あはは。ホラー映画のお約束だぁ。あはははははははは。

 がくがくぶるぶるがくぶるがくぶる。

 まじ? まじで? まじっすか? あ。やばい。お腹痛い。お腹猛烈に痛い。

(……うう。進むしかないのかよぅ)

 涙目、てか、もう泣いている涼太はとりあえず持ってきた懐中電灯をつけ、辺りを見渡してみる。

 ――死の五階建て一階フロア。

 ところどころ穴が空いたり、崩れていたりと廃虚らしいと言えばらしい。

 入り口近くには受付らしい場所が見られる。後はいくつかの部屋と奥へと続く真っ暗な廊下があるだけ。

「なぁに。ビルには非常口がつきものだ。世界征服の邪魔者だとかそんなことはどうでもいい。脱出が最優先なのさ」

 がくがくぶるぶるがくぶるがくぶるがたがた。

「ははは。幽霊なんてプラズマ現象さ。どっかの偉い学者が暗いところで見ることのできるおばけはつまり発光しているわけであってつまりはエネルギーが必要なのであってご飯でも食べてるんですかぁ? とか言って――」


 ガチャッ。


「ひゃぃぃぃっ!?」

 がくがく震えながら奥へと歩こうとした矢先、近くの部屋の扉が開いた。

 青い火の玉が三つ。部屋の中から浮遊しながら出てくる。

「あ」

 そんな声が聞こえた。

 ふわふわと俺の方へ飛行してきた三つの青い火の玉は、観察するように俺の周りをぐるぐると浮遊する。

「あなたがマス」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁ!! で、ででで、でたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ」


 涼太は一目散に駆ける。がむしゃらに。夢中で。振り返らず。

 だって火の玉がしゃべったのです! ありえないんです! 怖いんです! 怖すぎるんですぅ!

 この暗い雰囲気、ムード。

 そういうのがダメなんだよぉぉぉ!!

 さらにお約束の心霊現象!

 

 もう無―理―。

 

 奥へ奥へと走ると突き当たりに階段があった。

 無我夢中で駆け上がった先には大きな扉。

 涼太はそのままの勢いで扉を開き、部屋内に入り扉を閉める。

「はぁ、はぁ……」

 呼吸を整えてから懐中電灯の灯りで部屋の中を見渡す。

 大きな机が中央にあり、向かい合うようにして多数の椅子が備え付けられている。

「ここは……いわゆる会議室か?」


 ――、ガタリ。


 突然物音が聞こえた。

 部屋の一番奥、上座の位置からなにかの存在を感じる。明らかになにかがそこにいる。

 人ではない、なにかが。

 ここもヤバいと感じた涼太は後ろ手に扉を開こうとする。


 ガキッ!


 あれ? あれれー? ARERERE―?

 ドアノブが回らない。振り返り扉の方を向く。


 ガチャガチャガチャガチャ!


 扉……開かない? あれ? これって? ……死亡フラグ?

 ガタガタと肩が震える。

 バイオハザードも怖すぎてまともにプレイできない涼太にとってこの状況はすでに失禁、いや失神ものである。


 トン。


 涼太の右肩になにかが乗る。

 感触としては手。手で肩を……つかまれている。

「あぐぐぎぐぐぎ」

 声にならない声。

 震えが止まらない体。

 鳴り止まない心拍音。

 このままじゃ……まじで……死亡フラグ。

 状況を打破するには……

 意を決死、涼太は振り向き、懐中電灯をかざす! 


「――ちょ、まぶしいんですどぉ」


 そんな気のぬけた声と女の顔が見えた気がする。

 気がするというのも振り向いた時点で失神したからだ。

 はい。完全に死亡フラグが決まりました。

 アンデッドでも、死ぬときは死にますよ。

 

 ――バイオハザードだって、そうだろう?


 ◇


「……んあ?」

 どのくらい気を失っていたのか。

 初めにうっすらと目に映ったもの、それは――


「おっはよー! ハニー! 気分はどうだい?」


 にっこり笑顔の美少女なのだった。

 なんと美少女には膝枕をされているではないか! 一大事だぞ! この感触を脳内メモリーに名前を付けて保存!!

「びっくりしたよぉ。急に泡吹いて倒れちゃうんだもん。チキンすぎるぞぅハニー!」

 やたらテンション高めな子だなぁ。

 確か俺には死亡フラグがたったはずだ。つまり。

「君は……天使?」

 そうさ! ここは天国なのさ!

 大きな瞳をぱちくりさせて驚いたような顔をした後、少女はにっこり笑顔でこう言った。


「いや、悪魔だよ☆」


「……」

「えへへ」

「…………」

「あれ? おーい。ハニー?」

 ぶんぶんと少女は涼太の目の前で手を振る。


「ノォォォォォォォォォォォ!? ここは地獄だったのかぁ!? まじで!? まじっすか!? 俺なんも悪いことしてないっすよ! いや、アンデッドになった時点ですでに悪だというのか!?」

「おーい! ハニー! おいったらぁ!」

「まさか!? そんな!? あれか? あの時規千華の席にこっそりエロ本を罠として仕掛けた罰が当たったとでも!?」

「おい! おーい!」

「まさか……深夜にこっそり週刊エロ歴史を購入するヘビーユーザーだということがばれ」


 パァン!


 問答無用で引っ叩かれた。強烈でした。膝枕から壁の位置までぶっ飛びました。

「落ち着いたかなぁ? そして悪いことはエロばっかりだねハニー?」

「はい。落ち着きました。すごくエロい、いや、痛いです」

 起き上って、紅葉のついた頬をさすりながら、涼太は少女をまじまじと観察する。

 燃え上がるような赤色のショーットカットの髪。頭部からは鬼のような角が二本生えている。やや露出度の高い服。背中から生える羽。そして矢印のような尻尾。

「どこをとっても悪魔だな。ただのコスプレ少女とかじゃ――」

 少女の尻尾がふりふりと動く。

「――なさそうだね」

「ボクは正真正銘の悪魔だよ? デビルビーム出そうか?」

「デビルマン!? いや、いいです。そんなことより悪魔がなんでこんなお化け屋敷にいるんだよ?」

「何言ってるんだよ! ボクは悪魔だよハニー? 魂をいただきに来たに決まってんじゃん☆」

 ウインクしながらそう言う少女はまさに小悪魔と言った感じだ。

 やばい。堕ちそう。

 ……い、いやいや!

「ここは魂がいーっぱいあるからね! ボクにとっては天国みたいなとこなのさ」

 悪魔が天国て。世も末だな、おい。

「あ。ほら。そこにも」

 ひょいっと少女は涼太の背後を指差す。

「うぇっ!?」

 びっくりしながら振り向くと、青白く燃える炎の玉が三つ、ふわふわと浮遊している。

「ここここ、これが魂? つつつつつつまり、幽霊?」

「そゆこと。ではさっそく。いったっだっきまーっす☆」

 がばっと少女は口を開く。

「ちょ、ちょっと待ってください! 私たちはマスターの言いつけで」

 言いきる前に三つの炎は悪魔の口に吸い込まれていく。

 シュポン。とか、ヒューン。とか、とくにそんな擬音も無く。

「え? 嘘? 出番終わり? そんなのあんまりですぅぅぅぅぅぅぅ――」

 

 ――げっぷ。


「んー。まずい。ほんと、最近はまっずい魂が多いよなぁもう」

 ぺろりと舌舐めずりしながら少女はそう言った。

「今なんか大切なこと言おうとしてなかったかい? 魂は? かなり悲痛な断末魔だったぞ?」

「え? ああ。気にしない気にしない。普通、魂が言葉話すとかありえないんだけど。気にしない気にしない」

「気にするわ! せっかくのキーパーソンだったかもしれんやつらを食っちまうとは! あんたほんと悪魔だよ!?」

「いいじゃん別に。ボクがいればなぁんも問題ナッシングでしょ?」

 反省するそぶりも無く、あっけらかんと少女は答える。

「じゃあ聞くが。ここから一刻も早く脱出したいんだが?」

「うん。それ。無理」

「どっかで聞いたセリフだなおい! 何故!?」

「だってなんかよくわかんないけど結界張られてるんだもん。ボクも出れなくて困っていたのさぁ。あははははは」

 涼太は少女のこめかみを力いっぱいぐりぐりする。

「いだだだだだだ!? 何すんだよぅハニー!?」

「何すんだじゃない! 状況は一向に良くなってない! しかもキーパーソン消失しちゃったし! ゲームならバグだよバグ!?」

「いいんだよぅ。ラスボス倒せばそれでいいんだよ。ハッピーエンド」

「あなた説明書読まないタイプですね!? くっそぅ!」

「まぁまぁ。とにかく先に進みましょー。ハニーは悪魔を仲間、いや、仲魔にしたのであったー」

「勝手に話進めるなよ。てかちょいちょいネタ入れてくる感じ、お前かなりのオタ

「さぁさぁ! いっくよー」

 ずるずると少女に引きずられていく。

「おい!? 最初っから俺の話一つも聞いてないじゃん! おーい! 俺の、俺の、俺の話を聞けぇぇぇぇぇい!」


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