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異世界って世界征服に含まれないと思う…… 後編


 ――、暗黒の森とやらにはすぐに着いた。

 歩いて半日という道を、ここまで、死ぬ気で、全力で駆け抜けたのだから。

「はぁ……」

 森の入り口で涼太は深いため息をつく。

「なんでこんなことに……アリスが来たら文句言ってやる」

 ここまで来れば、フィーナも……

 いや、ダメだ。ダメダメだ。魔法で動向を見る、と言っていた。

 今もどこかで俺を監視しているにちがいない。

(しかも、あの目は、完全に俺の事を、殺れる目だ)

 涼太はガックリと肩を落としながら森に足を踏み入れる。


「――魔王城……到……着」

 涼太の目の前にはいかにも、と言わんばかりの邪悪そうな城がそびえ立っている。

 涼太の衣服は、ほつれていたり、穴が空いたり、破れていたり、髪の毛もぐしゃぐしゃ。

 だって、暗黒の森だよ? そりゃもう名前に負けないくらいだった。

 ゲームやアニメでしか見たことのないような生き物、モンスターというものか。うようよ出てきて、何度も襲われた。

 何回殺されたことか。

 普通こんなに殺されたら廃人とかになるだろう。

 殺されては、復活、殺されては、復活。

 まぁ、昨日、構成員の紹介の後、アリスに精神訓練だとか言われて銃で撃ち殺され続けた涼太ではあったが。

 効果ありってことなのか。

 ……いや、ぜんぜん嬉しくない。

(むしろ俺の適応力に才能を感じるぜ)

 と、半ば諦めつつ、ポジティブシンキングに思考をすり替える……ことを心がける。

 とにもかくにも、涼太は、数多のモンスターをばったばったと薙ぎ倒……せるわけでは全くもって無かったので、全部殺されながら華麗にスルーしてやったのだ。

 一直線に向かって来たので、フィーナの言う通り、半日でここに着いたというわけだ。

(さて、まずは魔王とやらに会うことが第一だよな)


 魔王城の重々しい城門扉……は力では開きそうにもないなぁ、と考えながら近づいて行くと勝手に開いた。

 わーい。歓迎されているようだー。

「お邪魔しま~す」

 アルパレス城とはうってかわって、城内は薄暗い明かりしかついていない。

 中世の城の内装に所々ドクロやら魔物やらの石像やら飾りやら。いかにも魔王城という感じである。

 入ってしばらくはまっすぐの通路しかないようだ。

 薄暗いので足元に気をつけながらしばらくそのまっすぐの通路を進むと、広い部屋に着いた。

 アルパレス城の謁見室くらいの広さであろうその部屋の真ん中に、人影が見える。


「ふはははは! よくぞここまで来たな勇者よ!」


「ん。なんだい、君は?」

「魔王に決まっておろうが! ふはははははははは!」

 ふはははははは。

 いきなりラスボスが出てくるとはなんというファンタジーだ。

 クソゲー以下だ。

 何の戦略も無いというに。

「いきなり魔王? 普通四天王やらなんちゃらが先に出てくるんじゃ……」

「四天王は出張中だ。魔族も忙しいのだ」

「ふむ。色々あるんだなぁ……というか、魔王って……」

 お約束の言葉とともに現れたのは、褐色の肌にエメラルドの長髪。猛牛のような角を二本生やした頭。瞳の色も髪と同じエメラルド色で、薄明かりの中に輝くその瞳は一際綺麗な印象を与えている。

 涼太の前に立っているのは、そのような様相の――



 ――小さな女の子。



「え? 子ども? 女?」

「子どもじゃない! 魔王だ!」

 身長一四五といった小学生にしか見えない少女はプンプンという擬音が似合いそうな態度で涼太に向かって叫んだ。

「こほん。あー……よくぞここまで来たな勇者よ!」

 あ、仕切り直した。

「もし、我の部下になるというなら、世界の半分を与えてやってもよいぞ! ふはははは」

 お約束のセリフ。勇者としての俺が言うセリフはこうだ。

「え。まじっすか?」

「ふはははは……は? え? ……う、うん。まぁ……」

 予想外のセリフに魔王は大きな瞳をぱちくりしながらきょとんとしている。

 

 戦略なんてものではない。

 一度、魔王のお約束のセリフに対して、こう言ってみたかった。

 ただ、それだけ。

「ちなみに今現在、魔族と人間の世界の支配範囲はどのくらいなんだ?」

「んー。ちょうどどちらも半分くらいだが?」

「よし! じゃ、その話のった! だから世界半分くれ!」

 ちょうどいいじゃないか。魔族も人間も領土は半分。あとは仲良くやっていけばいい。我ながらナイスアイデア! そして一番楽! やっほう!

「う。まじか? 勇者にそんな事言われるとは思わなかった。んー……」

 魔王はうなったり、首を傾げたり、うろうろと歩いたり、ひとしきり考える。

 ちら、と勇者の方を見る。

(ここだ! とびきりの平和スマイル!)

 にこっ!

 ビクッ!

(勇者のくせに……なんと邪悪な笑みなのだ!? 殺るか殺られるか……そういうことなのだな!?)

「よし。ではこうしよう。我と戦ってそなたが勝ったならばその話、了承しようではないか!」

 俺の平和スマイル、沈没!?

「げ。結局バトルかよ。理不尽だなぁ」

「うるさい! そうでもしないなんかこう……気分的に嫌だ!」

 結局、戦うことになるらしい。

 めんどくさいなぁ。

 部下になるって言ってるのに。

「ふはははは! では行くぞ! 勇者よ!」

「俺のほうはまったくよくないけど、どうぞ」

(どうせ、俺自体は何もできないし)

 こうして魔王と勇者の戦いが始まる。

 涼太は、不本意ながら。


 ◇


 ――一時間後、ひどく息を切らした魔王と汗一つかかない涼太が部屋の真ん中に佇んでいた。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……いったいお前は何者なのだ!?」

「勇者(仮)ですが」

 いや、勇者(偽)かな?

「ぐぅ。我の魔術をことごとく受けているのに、なぜ平気な顔をしているのだ! はっ!? さては貴様……アンデッドだな?」

「ご名答」

 さすがファンタジー。涼太の異質も、ここでは普通。

「魔族であろうアンデッドが勇者とは!? ならばこれでどうだ!! 対アンデッド最強呪文で浄化してくれる!」

 魔王はそういうとぶつぶつと呪文を唱え始める。

「……光遍き、来たれ浄化の炎――セントバースト!!」

 魔王の掛け声とともにまばゆい光の玉が涼太目掛けて飛んで来る。

 対アンデッド最強呪文。

 さすがにこれはヤバいのだろうか。

 アンデッドが普通に存在する異世界。

 うん。まずい。まずいまずいまずいやばい。

 そう思うが光の玉の速度は尋常ではない。


 弾丸というものを君は避けれるか?

 君は避けれるかもしれないが、俺は無理――


 ドガァァァン!!


 轟音とともに爆発が起きる。

 呪文はかなりの威力であるらしく、涼太は先ほどから何発も連打で受けているが、全ての呪文で消滅している。いわゆる即死。

 痛くないから、大分助かる。

 目の前が一瞬で真っ白になったかと思えば、また次の瞬間には意識を取り戻す。

「えっと」

 右手、左手、体、頭、両足……よし。ちゃんとある。対アンデッド最強呪文とやらでも無事に復活したらしい。

「ぐぅ! 何なのだ貴様は!? 普通のゾンビなら今ので即浄化、一発成仏だぞ!?」

 魔王は地団駄を踏みながら叫ぶ。

 驚愕、あり得ない、といった顔である。

「何者かなんてわかんねぇよ。俺をこんな体にしたやつがアンデッドだと言ったからアンデッドだと思っているん だが……違うのか?」

「絶対違う! いくらアンデッドでも、塵も残さず消滅したのに一瞬で再生などしない! うぅ……どうしよう」

 怒ったかと思えば今度はおろおろとしだした。魔王って大変だな。情緒不安定な年頃なのか? まぁ、見た目小学生だし。

「ほとんどの呪文は使ったし、もう魔力も残ってないし……反則だよぅ」

 ひとしきりおろおろしたあと、ガックリと魔王は肩を落とす。

 反則ですいません。

「て、ことは……俺の勝ち?」

「うっ……いや、まだだ! 我は……我は負けるわけにはいかない!」

「でも、あれだろ? ほとんどの呪文も使ったし、魔力もないんだろ?」

「そ、そうだが! 我は負けるわけにはいかぬのだ! 我が負ければ魔族はどうなるのだ!? 我は……我は……!!」

 魔族の未来をその小さな両肩に負っていると思うとこの小さな魔王もそうとう苦労しているのだろう。

「だーいじょぶだって。何にもならないよ。ただ人間と魔族が半分ずつ世界征服するだけだから」

 涼太の言葉を聞いて魔王は難しそうな顔をしながら、

「今さら人間と仲良く暮せというのか? できるわけなかろう!」

 力強く答えられる。

「別に仲良くする必要はないんじゃないか? そりゃするにこしたことはないけど……」

 涼太は、そう言って少し考える。

 涼太は、今日、この世界に来たばかりだ。この世界での魔族と人との争いがいつから行われ、そして、双方にどれだけの犠牲があったのか、知る由もない。

 だからこそ。

 第三者であり、なんの知識も持たない涼太だからこそ。

 そして、無理やり仲良くしようとする気持ちの虚しさ、悔しさを、涼太は知っている。

「……うん。仲良くなんて、できるやつだけ……やればいいんだよ」

「そ、そうなのか?」

 魔王は大きな瞳をまんまるにしている。それだけびっくりするような言葉だったらしい。

「そ。ただ争いを止めればオッケー。簡単だろ?」

「……勇者であるお前の言葉を信じてもいいのか?」

「俺は勇者じゃない。アンデッドだ。それにもし、人間側がこの案に反対すれば――」

「反対すれば?」

 ごくり、と魔王が息をのむ。


「俺が魔王になって人間側に同じことしに行ってやるよ」


 まぁ、フィーナがいる時点で、できそうもないのだが。


「……ぷっ。あはははははははは!」


 小さな魔王は涼太の答えがおかしかったのか、笑い転げている。

 魔王と言ってもほんと、小学生にしか見えない。その笑顔の方が、難しい顔より何倍も似合ってる。そう思う。

「いや、俺、本気だぞ?」

 あまりに笑うものだから、ちょっぴり恥ずかしくなり、むきになって言った。

「あははは。お前みたいなやつは初めてだ。あははははは」

 まだ笑ってやがる。せっかく万年やる気無しの俺が、真面目なことを言ったというのに。

「わかった。お前の話、乗ってやるぞ」

 やっと起き上った魔王はひぃひぃと小さく笑いながら涙目をこすった。

「お。いいのか。交渉成立だな」

「ああ。お前はおもしろい。我はおもしろいやつは好きだ。それにもうお前には勝てる気がせぬ。色々な意味でな」

「そりゃどうも。俺は真面目に言ったつもりなんだけどなぁ」

 涼太はぽりぽりと頭を掻く。

「我はどうすればいい? 何かすればいいのか?」

「いや、後はとりあえず俺にまかせといてくれ。人間、説得してくるわ」

 自分も人間だろ! とか頭の中で自分につっこみを入れておこう。

「承諾した。我も我で魔族達に伝えておこう」

「そっちこそ大丈夫なのか? そんな簡単に魔族達も賛成してくれそうには思えないけど」

「お前は誰にものを言っておるのだ? 我は、魔王だぞ?」

 にっこり笑いながら魔王はそう答えた。

「はは。そうでした。それに、君にはやっぱり笑顔が一番似合ってる」

「な、なな、何を言うか!? 急に!?」

 ほんと、笑ったり、赤くなったり、怒ったり、難しい年頃だなぁ。

「思ったことを言ったまで。じゃあ」

(思ったことを、言う、か。俺も少し、ファンタジーに感化されてしまったかな)

 涼太は右手を軽くあげると、くるりと魔王に背を向け、もと来た道を引き返す。

「待て。最後に一つ。お前、名前は?」

「……涼太だ」

 振り返らずに言う。

(やばい、俺、ちょっと格好良くないかい?)

「リョータ、だな。覚えておくぞ」

 ぼそりと魔王がそう言うのが聞こえた。

 アンデッドになって耳まで良くなったのか、すでに魔王の影は小さくなるところまで歩いているというのに。

「……さて、と。後はあの王様……いや、フィーナが何て言うかだなぁ……」

 魔王城を出た涼太は空を見上げながら、ぽつりとそうつぶやいた。

 あんまりファンタジー世界でこういうことはないだろしなぁ。でも争いなんてしてたらいつまでたっても帰れないじゃん。

「俺ってこんな頑張るキャラじゃないんだけどなぁ。……全部アリスのせいだ。あいつが来たら対アンデッド最強 呪文とやらを魔王に使ってもらおう」

 そう心に決めた涼太は暗黒の森へとまた足を進める。

「あ」

 ふと、あることを思い出した。

「俺、また森で殺されながら帰るんだよな。……はぁ」

 死ぬのは嫌なのだ。

 アンデッドでも、さ。


 ◇


 ――そこからの展開は早かった。

 国王にあらましを説明すると、やはり困惑といった曇った表情。

 なんでも、魔族側から早速停戦の文書が送られて来ていたらしい。仕事が早い魔王様! で、真意が分からずどうしたものかと考えていたところに、涼太帰還。魔王倒してそういうことにしたと伝えたところ……といった感じである。

 だが、涼太はそっと国王に耳打ちする。

 ガクガクブルブル。

 震えだす国王。

 そこにフィーナが現れる。

(やっべ。フィーナは、どう思っているのだろう)

 涼太の心配をよそ眼に、フィーナはすっと、持ってきた淡く光る水晶玉を国王に見せる。

 しばらく水晶に見入る国王。

 ガクガクガクブルブルブル。

 びくびくと肩を震わせ、顔から血の気がいっさい失せた人の王は、コクコクと涼太の話に頷いた。

 フィーナの方を見ると、にこりと笑顔で応えてくれた。

 あの邪悪さは、微塵も感じられない。

 この世界に来て、一番、安心した瞬間だった。

 準備がある、と言って、慌て急ぎ、走り去る国王。

 フィーナは涼太にボソリと耳打ちする。

「国王を脅すなんて、あなたもとんだ悪党だったわけ、ね」

「フィーナほどじゃないけど……何を見せたんだ?」

「魔王に何十発、何百発と呪文をぶつけられても復活するあなたの異質をちょっぴり、ね。ふふふ。これでおあいこよ。勇者様」

 艶っぽく手を振るとフィーナも国王の後を追って去る。

 なんだ。あの人、案外良い人じゃないか。

 涼太もまた、二人の後を追う。

 

 ◇


 ――現在、涼太は満月輝く夜空を見ながら、一人テラスにて風に当たっている。

(ま、やっぱ、そうなるよな……)

 人は、涼太の条件を承諾した。

 いや、承諾せざるをえなかった。

「たった一日で世界を救った勇者様、ばんざーい! ……とはいかないよな」

 熱いコーヒー……のような味のする異世界の飲み物をすすりながら独り言。

 あの後、城の人間は、涼太を見ては、震え上がる一方だ。

 

 結局、人も、魔族も、どちらも恨みあったままだ。殺し殺されを何年続けてきたのかはわからないが、そんな簡単に、割り切れるものではないだろう。

(ただ、どちらも、俺が脅しただけ……)

 核の抑止力。

 例えるなら、それだ。

 脅威的な暴力は、ただそれを持っているだけで、強い牽制となる。


「――お前が勇者でないなら、誰を勇者と呼べと言うのだ? 数百年続いたこの世界の戦争を静めた。魔族と人間の橋となり壁となった。これを勇者と呼ばず何と呼ぶ。」

 

 声の方向。真後ろを振り返ると小さな女の子が立っている。

「こんなところにいてもいいのか? 魔王様」

「魔族はいつだって自由さ」

 にこりと微笑んでそう言う少女は、満月の明りに照らされ幻想的で、外見よりも少し大人びて見える。


 少女にはわかっていた。

 たとえ、第三者で、この世界の歴史を全く知らないと言えども。

 誰も涼太を知っている者など、親しい者などいなくとも。

 人だって魔族だって、嫌われるのは、辛い。

 世界を救ったとしても。良いと簡単に割り切れるものではない。

 魔族からは畏怖の意味で勇者と呼ばれる。

 人間からは畏怖の意味で魔王と呼ばれる。

 そういう、恐怖の対象となってしまったのだから。

 つまりは、この世界で一番、世界に嫌われてしまったのだ。

 割り切れる、はずがない。

 でも、だけど、それでも!



 この世界を救ったのは涼太なのだから!!



「人間は今でも嫌いだ。だが、リョータは好きだ」

 素直な笑顔で。

 少女は本心からの言葉を言う。

 

 ブフォ!!


 涼太はコーヒー? を吹きこぼし、頭からかぶる。

(おい俺。ロリコン属性などないだろ。なにをときめいている馬鹿)

 ドキドキ。

「ふふ。……ありがとう。それが言いたくて来たのだ」

「よしてくれ。俺は早く元の世界に帰りたかっただけだよ」

「それでも……ありがとう」

 少女はわかってほしかった。この世界に、たった一人でも、涼太を理解する者がここにいるということを。

 涼太はその心を知ってか知らずか、先ほどまでの曇った表情は無く、すっきりとした顔立ちで、口元には笑みをこぼしていた。

 少女は小さな掌に乗せた、青い宝石のようなものが付いたペンダントを涼太に見せる。

「これは?」

「受け取ってくれ。ピンチの時、はリョータにはないかもしれんが、思いを込めて強く握れ。きっとリョータの力になる」

 そう言って少女はペンダントを手渡す。

「では、な」

 少女は涼太に背を向ける。

「待て。名前をまだ聞いてなかったよな?」

「ふふふ。本当におもしろいやつ。魔王に名を聞くやつなんてお前くらいだ。イルミオーレ=ド=ツァイツァブリュステン、だ」

「イル……すまん。なんだって?」

「イルミでいい。さらばだ。異世界の、勇者」

 そう言うと少女はフッと夜の闇に溶けるように消えた。

「またな。イルミ」

 真っ暗な闇に涼太がそう言うと、小さな女の子の可愛らしい笑い声が聞こえた気がした。


「――ふむ。やるではないか涼太。まさか私が来る前に征服しているとは」


 振り向くと両腕を組んでふんぞりかえっているゴスロリ女がそこにいた。

「やっと来たのかよ。征服なんてしてねぇよ」

「一日様子を見てから来たのだ。来てみればどうだ……異世界を救った勇者とは。やはり私が見込んだだけのことはある」

 アリスはそう言うと涼太に背を向ける。

「さ。用はすんだ。帰るぞ。涼太」

 なんて適当なやつ。

 用がすんでなかったらどうなっていたことやら。

 アリスが来たら文句の一つや二つや三つや、色々言ってやろうと思っていたのに。

 アリスが振り向き様に少し笑っていたように見えたから、怒る気もどこかにいってしまった。

(単純……かな?)

 ボリボリと頭を掻きながら涼太はアリスの後をついていく。

 ちょうどテラスから階段で降りた所にある庭園に、見たことのあるロケットが突き刺さっている。

「一人用の異次元移動機にはちょっときついが……まぁなんとかなるだろう」

 そう言ってアリスはそそくさとロケットに乗り込み手招きする。

 異次元移動機って名前だったんだ。安易。

「よっと……ってどう見ても狭くないか?」

 小さなロケットにぎゅうぎゅう詰めである。

「帰還する」

 そう言ってアリスはロケット中にある大きなボタンを押す。

 俺の話少しは聞けよ。耳がないのか耳が。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 デジャブ。

 ものすごい音とかなり不快な振動を起こしながらロケットが動き出す。

「うわっ」


 ふにっ。


「あ」

 振動のせいでよろけた涼太の体、何かをつかむ右手。やわらかいものが手のひらに当たる感触。幸福。

「……涼太。よほど死にたいとみえる」

 無表情でわなわなと震えるアリス。

 一瞬の幸福→永久の絶望

「い、いや。あのですねアリスさん? これは不可抗力


 ドンドンドンドンドン!!


「あぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 ロケット内に銃撃音と涼太の悲鳴が鳴り響く。

 いや、至近距離での連発はさすがに止めてください! お願いします!

 涼太の心の叫び虚しく、帰還の間、涼太は体に穴が空き続けたのであった。


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