終わる世界 後編
――神無家裏庭、墓石前。
強制転送先。五人は転送されてしばらく時間が経つが、未だにその場を動かない。
「っく……お兄ちゃ……ひっく……」
「……」
アリスは無表情、無言のまま、泣きじゃくる柚葉を優しく抱きしめ、頭を撫でている。
「なあ! 今からでも戻れば……!!」
「戻ったところで我らに何ができる? 我らが巻き込まれ、無駄死にして一番悲しむのは誰だ?」
十文字の言葉に、イルミが厳しい表情で返す。
「これが涼太の選んだ意思。いや、人生、か」
ふぅ。と、ホークは煙草を燻らし、その煙が天へ昇って行く様を見つめる。
そう。これが涼太の生。命。自分達が命を落とす事になれば、彼の意思が全て無駄になってしまう。命を賭して選択した彼の意思、いや、その彼の生という存在全てを否定することになるのだ。
「……ここにいても何も起こらない。永久子にお茶を入れさせよう」
それまで無言だったアリスが口を開く。
それに対し、皆は頷くだけ。
皆、アリスに何も言えない。いや、言う言葉が見つからないのだ。
誰が一番苦しんでいるのかは、皆、わかりきっていた。
彼女自身は、先ほどとまるで人が変わったように、感情という色が消えてしまっていた。
いや、元の人形に、戻ってしまったのか。
アンデッド。霊能力者。魔王。魔族。正義のヒーロー。
異能の一行は皆、無言のままアリスの後をぞろぞろとついて行き、家の中に入る。
アリスがかたりと居間の扉を開ける。
――ずずっ。
ちゃぶ台に、一人、お茶をすする人物がいた。
「「「「「……」」」」」
人物は、皆に気付いたようで、申し訳なさそうに、ぎこちなく苦笑しながら。
「あはは。皆、お帰り」
「「「「「……」」」」」
五人が五人、皆、目を丸くし、口をぽかんと開けている。
居間にいる人物は、それぞれには違って見えた。
ある者は勇者に。
ある者は救世主に。
ある者は正義のヒーローに。
誰かが何かを言う前に、その人物の胸に飛び込んだ者がいた。ちゃぶ台はひっくりかえり、お茶は彼方に飛んでいく。
彼の胸の中で、彼女は彼を強く強く抱きしめ、わなわなと震えた。
「……う……あ、あの……アリスさん?」
彼には彼女が怒りに震えているように見えたらしく、冷や汗を一筋流し、おそるおそる彼女の顔を覗き込む。
胸に顔を埋めていた彼女は、顔をゆっくりと上げ。
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ――!!」
彼女は泣いた。
人目も気にせず。力の限り泣いた。
涼太が死んだ時よりも、強く。
これが産声。
新たな世界の、始まり――。




