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終わる世界 前編


 どさっ。という味気ない音。涼太が地に伏した音。

 撃たれた心の臓からは血が流れ出し、服を鮮血に染め、床に血溜まりを作る。

 アリスは、しばらく呆けたまま、その涼太を見やっていた。

「……涼太?」

 呟き、ゴトリと、持っていた銃を床に落とす。

「……涼……太?」

 地に伏す涼太をゆっくりと抱き起こす。

 不死超遊戯レプリカの力か、撃たれた傷は即座に塞がった様子で、もう血は流れ出ない。

「おい! 涼太!」

 揺する。揺する。揺する。

 しかし、反応は無い。動かない。しゃべらない。呼吸も……無い。

「……なん……で……」

 一筋、頬に涙が流れる。

「……なんで……笑っている?」

 涼太の表情は、とても柔らかく、満足そうに。ただただ、満足そうに……。

 ぽろぽろと、涙が何粒もこぼれ落ちる。

「……ないって……」

 大粒の涙は、止めどなく、こぼれ落ちる。

「わ、私の意思じゃなかったら! 死なないって! い、言ったじゃないかっ!! うわあああああああああああああああああああああああああああああああああっ……!!」

 アリスは泣いた。人目もはばからず、涼太を抱きしめ、わんわん泣いた。

「ひぃひひひ! 人形が泣いている!? おかしいなぁ? そんな機能を付けた覚えは

「……黙れ」

 アリスは片手に出現させた鉄の塊を、吾雅彦に投げる。

 コロコロと吾雅彦の足元に転がったのは、黒いパイナップル。

「ひぃ!?」

 っどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん……!!

 両目に一杯涙を溜めたアリスは、乱暴にそれをごしごしと袖で拭う。

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れええええええっ!!」

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ……!!

 乱射したのは機関銃。寸分の狂いなく、全ての弾が吾雅彦目掛けて放たれる。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 弾を全て吐き出した銃を投げ捨てる。

 グレネードの煙が、やがて消え始める。

「ひひひひひ! あぶないなぁ……」

 吾雅彦の前に勇者と呼ばれた青年。足元には、真っ二つに割れた弾丸の山。全ての弾を斬り払ったらしい。

 あれはもう勇者なんかじゃない。ただの化物だ。

 

 ――一転して、吾雅彦の表情は険しかった。

「人形のくせに、マスターに歯向かうというのかぁ? 冗談だろ? ありえないよね?」

 なんで? そんな事が起きるわけがない。偶然? 演技? ありえないでしょ?

 そんな感じで、起きた光景を未だに信じようとしないといった表情。

「お前はもう、マスターなんかじゃないっ!! ましてや、父親などというものでもないっ……!!」

 ゆっくり、涼太を床に降ろす。静かに、横たわらせる。

「父……親……?」

 吾雅彦が目を丸めて、息を飲んだ。

「ま、まさ、まさかっ!? 記憶が……!?」



「私はもう人形じゃないっ!! 私は、私の意思で生きるっ!!」



 逆立つ髪。揺れる空間。アリスの体に収められし全ての武器、兵器が出現する。まるで仏像の後光の如く、武器、兵器群がアリスの背後に渦巻く。

「神無流兵器術、終ノ式、百花繚乱」

 吾雅彦はその姿に目を見張り、冷や汗を何筋も流しながらも、口の端を吊り上げる。

「す、すすす、素晴らしいぃぃぃぃっ! しかし、しかしだぁ! たとえ、お前の記憶が戻り、そのような技を思い出そうとも、全くもって、事態は何も変わらんのだよぉぉぉぉぉぉ!!」

 邪神はこの世ならぬ声と蠢いているだけで動かないが、代わりに二刀の勇者が、構える。

「変わる!! 変えてみせるっ!! 少なくとも、私は涼太に変えてもらった! だから、今度は私が変える番!」

 

 まさに、兵器の王と呼ぶに相応しい少女。最新の遠距離武器。

 対する化物と呼ぶに相応しい勇者。最古の接近戦武器。


「はあああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 アリスは咆哮する。

 自分の意思で、自分の全てで、冥府で涼太に会っても。恥じないように。


 ありがとう!

 私は、あなたのおかげで、生き返りました!

 あなたが蘇らせてくれたのです!

 死体人形(アンデッド)から、自分の意思を持つ(リビングデッド)へ!

 だから、私も、諦めません!


「……涼太。力を……貸して……!!」

 百の兵器が、その祈りに応えんと、唸りをあげて咆哮する。

 


 


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