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自分の意思 中編


 ――一つだけ覚えている記憶がある。

 

 病弱で、一歩も外に出してもらえない私。

 ある日。我慢の限界に達し、死んでもいいと、家を飛び出した。

 

 外の世界はすごく綺麗だ。


 空。地面。山。川。風。空気。

 家の窓から見ていた景色とは百八十度違う。

 なんて世界は素敵なのだろう。


 でも、心は豊かになっても体がどうにかなるということなどなくて。

 私は大きな木を背にその場にうずくまった。

 一歩も、動けない。


 私は、死ぬのだろうか?


 ……嫌だ。怖い。

 死んでもいいと、言って飛び出したはずなのに。

 なぜ?

 世界が、こんなにも素敵だと知ってしまったから?

 ああ。きっとそうだ。

 だから、もっと、生きたい。

 助けて。

 誰か。

 助けて――


「大丈夫?」


 震えながらうずくまっていた私は、その声に顔を上げる。

 同じ年くらいの男の子が、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「家に帰れなくなったの? 動けない? よし! おんぶするよ。一緒に帰ろう」

 男の子は私を背負うと、家まで送り届けてくれた。

 ああ。なんて優しい人なのだろう。

 彼は私の命の恩人。

 

 勇者で。

 救世主で。

 正義のヒーローなのだ。


 お名前を教えていただけませんか?


 夕日が男の子の顔を真っ赤に染める。

「名前? 俺の名前は――」


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