ぼっちな俺と、違う空気。
現在時刻は午後一九時半を過ぎたころ。
閉め忘れていた窓のせいで帰宅直後の俺の部屋は真夏にはぴったりだが、秋も半ばに差し掛かってきたここ最近においては弊害以外何でも無かった。秋ってこれだからなー、急に暑くなったり寒くなったりするんだもんなー……。
壁に掛けてある温度計の赤い液体……確か着色されたアルコールとか灯油だったか。そいつが上昇しやっといつもの室温に戻ったところで俺は夕食を摂っている。因みに献立はコンビニで買ったちょっと本格的に見えるパスタを温めたものと、一〇〇円惣菜が数種類、そして自家製麦茶と言った感じだ。
それなりにうまいコンビニパスタをイタリア人が見たらキレるであろう、啜りながら俺は今日一日のことを回想する。
「(なんか久々にこんなにしゃべった気がすんなー……)」
高校入学後、今日が最もしゃべった日じゃなかろうか。というのもなんか情けない、というか惨めな気がするが。
クラスメイトに秘密がバレて、それが好きな女の子にも知れて、なのにそれが逆に好転してメアドもゲットできて、そしたら今度は変な部活に勧誘され……こんな、色々と巻き込まれ急展開を乗り越えている今日の俺はまるで漫画の主人公のようだ。
「……はっ」
自分で何言ってるんだと、自嘲気味に鼻で笑う。
まあ、たまにはいいんじゃないか。こういう中学みたいなノリもさ。
そんなことを考えていると不意に猛烈な眠気が俺を襲ってきた。
「(あ……くそ、パスタだけでも……)」
何故か必死になって残り少ないコンビニパスタを口に放り込む、そして歯も磨かずに床に着いた。と、そこで思い出す
「……戸松にメールしてねぇや」
…………。寝よう。
眠気にはどうしても勝てなかった俺はその後は特に躊躇うこともなく目を瞑った。
結局昨夜は約一一時間も眠っていた。
倒れて完全に意識無くなったのが八時くらいで起きたのが七時だから……うん、一一時間だ。おかげで日頃の睡眠不足が解消され世界がいつもよりクリアに見える。理由はそれじゃないかもしれないが。
ヘッドフォンで耳を塞ぎ、自転車を漕ぐ。
一応法律じゃ禁止になっているようだが生憎ここらへんは交通量が少ない。別段心配はいないだろうし別に運転に細心の注意を図っておけばなんてことはないだろう、ともし警察に絡まれた時の建前、っていうか言い訳を考える。音楽無しに登校って、寂しくない?
俺はふと、何の気も持たずに右側の奥に見える山を見る。
紅葉で山全体がとても綺麗に見える反面一部は開発だろうか、山が削られ無残な姿になっている。昔の人が見たらどう思うだろうか、山を削る技術に感心するのか、はたまた人間らしく悲しく思うのだろうか。
と、まあ詩人の如くそんなことを考えている内に学校に到着した。
「(さあ……今日はどうなるのかね)」
俺はいつも通り学校内へ足を踏み入れた。
靴を履き替え、無視するわけにもいかないので校長に元気無く挨拶し、階段を上り、上り、上って着いた四階のさらに進んだところにある忌々しい「2-E」の教室。
ああ、今日もまた入らなければいけないのか――
とは心底思うものの、今日はいつもは無いちょっとの好奇心が俺の中にあった。
「(……よし)」
俺は教室へ足を踏み入れた。
そして瞬間、俺は安堵した。
「(よかった。昨日みたいな空気じゃあない)」
特に騒がしい様子は無い。いつもの教室だ。
俺は自席へと向かう……が、その途中にそいつらはいた。
自分にとっての敵対集団が溜まっていた。そしてそいつらの中の一人……松永明だったか、そいつがばつの悪い顔で俺を一瞬だけ見て、目をそらした。
「……うっぜぇ」
誰にも聞こえないくらいの大きさでそう呟いた。
無視してくれよ、本当、お前らとは関わりたくないんだ。そんな顔するなら、俺を相手にしなければいいだけのことではないか。
朝一から気分を害された俺は結局いつも通りな感じで席に着くのであった。拍子抜け……という奴だろうか。
と思われたが、今日もいつも通りにはいかないらしく
「ういーっす」
「……はぁ」
イケメンマイペース男、跳木類が俺の前に現れた。




