ぼっちな俺と、芽。
沈黙。
静謐。
無音。
固着。
今の教室の雰囲気を表す言葉群はこれらがしっくりくるだろう。
そしてこれらを打破したのは意外にも俺であった。単にあちら側がずっと笑みを浮かべるのみで声を発さなかったからと言うのもあるが。
「……お前、いつ俺の絵を見た?」
「今朝」
「お前もあそこに居たの?」
「居た」
「どうやって見た?」
「長身を利用して」
「滅!!」
なんてこった、こいつも居たのか。いや、居て不思議じゃないか。むしろ当然と言うべきか。……ってなんだ、急に顔熱くなってきたぞ!? 今更恥ずかしがってんの、俺!?
「………………」
「おい、何勝手に沸騰してやがる。沸騰石を予め入れてなかったのか?」
「訳分からんわ!!……と、でなんだ。あーえー……」
「よっしゃ、一回これ飲んで落ち着け」
差し出されたのは先程の噴出によって三分の一くらい量の減ったコーラ。即座に跳木からそれを奪い取り勢いよく体に注ぐ。
そして一気に飲み干してしまったせいか、特大げっぷをかましてしまった。跳木が「汚ねぇなぁ……」と罵っていたのは言うまでもない。
今日は良く荒ぶる日だな、と心の底から思っていると跳木が切り出し説明を始めた。
「俺の所属している部活の名前は『アニメ・漫画部』。表向きでは部だが実際はサークルとして活動している。ほら、部活だと部費が供給されるからな。んで、だ。今、アニメ・漫画部では優秀な人材を必要としている。その手の方向に長けた人材をな。色々と校内をチェックしたが……俺の琴線を一番大きく鳴らしたのはお前だった」
は? こいつがアニメ・漫画部だ? こんなイケてる奴が? サッカー部に居そうな奴がだ? 違和感有りまくりじゃないか。
因みにアニメ・漫画部の存在については勿論俺は知っていた。
だが大して活動の噂を聞かなかったので入部は止めたのだが……。
「……まぁ、お前の言いたいことは分かった」
「お、なら入ってもらえ――」
「だが断る」
キリッと言う表現がつきそうな言い方で言ってやった。
「……そっかそっかぁー……」
不気味にも跳木はそんなことを言い出した。しかも、薄ら笑みを浮かべながら、だ。
何だ? こいつ何を企んでやがる――
「お前の好きな人」
「は?」
「戸松さんだろ」
「っ、んぅなっ!?」
「やー、ビンゴ頂きましたー」
な、な、なんでだよ! なんでこいつ知ってるんだよ!? うわっ、すっげぇ心臓バクバク言ってるんですけど、鼓動速度がさらに加速しているんですけど、俺のCPU使用率がヤバいことになってるんですけど!?
「さーて……黒板って、一日に誰もが一度は必ず目にするものだよな」
「わっ、分かった! 待て! 黒板へ向かうな!」
俺の必死の呼びかけに対ししてやったりと言わんばかりの意地の悪い笑みを浮かべ見せつけてくる跳木。く、くそ……否定する前に動揺しちまった……!!
底無しの悔しさに体を震わせていると跳木が近付いてきて、俺の肩にポンッと手を優しく置いた。そして
「……まずは、部室に来てもらおうか」
「……はい」
波乱の次にまた波乱。
結局、俺は跳木の脅しに負けてアニメ・漫画部へ入部するハメになった。だが……正直、ぶっちゃけると、ほんの少し、跳木に悟られないくらいほんの少しだけ良い意味で「興奮」していた。




