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ぼっちな俺と、嫌な出会い。

 放課後、誰も居ない教室。

 教室の空気はいつもと変わりは無い、今机の上で展開されている道具も俺がしている行為もいつもと変わらない、が俺の心境はそのいつもとは大きくかけ離れていた。

「あぁー……」

 椅子によしかかり天を仰ぐ俺、赤田真。

 数年ぶりに体感したあの緊張感やら空気で俺の心体、特に心の方は既に疲労感で飽和寸前だった。

 結局あの後携帯電話の赤外線機能を使ってメアドを交換。周りは不思議そうな目で俺達を見ていた。「あいつ携帯持ってたんだ」とか言う声も見られた。俺だって携帯位もってるわい! アドレス帳の人は……いや、皆までいうまい。

 今朝もあらかじめ買っておいたコーラを鞄から取出し、キャップを開ける俺。

 瞬間、中身が噴き出し俺の手はベットベトになった。そういえばコーラの噴き出す理由は容器を振ることによって中身の二酸化炭素が一気に気化して圧力がどうのこうのして噴き出すみたいだ。手がベトベトになる理由はコーラの成分の問題で――

「って、んなことはどうでもいいわけだが。……ティッシュトイレから持って来よう」

 噴き出した時にノートにコーラが付着しなかったのは「ツキ」と言うべきか。っつっても今まさにアンラッキーが発生したしな。

 俺は教室の出入り口の方へ体を向ける。

「 」

「……!?」

 ドアの向こうで口を大きく開ける一人の男。恐らく声を発したのだろうが、俺には届かなかった。……。……って!?

「ちょ、お前!!」

「           」

 あ、あれ声出してねぇ!! ただの口パクだ! こっちの言葉が分かっているのに何故かこちらには聞こえない、ならそれしか考えられない。

「……よ、よーし、一回教室入ってこようか。……どうせ聞こえてんだろ?」

 ややビクつきながらそいつに言葉を放つ俺。

 そいつはどうやら諦めたようで、とはいっても反省の色一切なしで放課後の俺の城に入ってきた。

「どーも、こんちは」

 その男はまるで俺と放つオーラが違った。

 なんというか……俺と対極な場所に生きている人間のオーラを放っていた。簡単に言うと「イケてる男子」がしっくりくるだろう。

 校則無視の黒に近い茶髪に、地域の方々に「これだから若者は……」と嫌味を言われそうなだらしのない制服の着こなし。170センチ弱の俺より目測だが10センチ以上は高い背丈、顔が色白であることから制服の下も色白であることが予想される。因みにその色白の面はテレビに頻繁に見る某有名若手俳優に良く似ている整った面をしていた。

 そんな奴が何故俺に構って来たんだ?

「……とりあえず、お前のその頭の茶髪は地毛か? 染めたのか?」

「……なんか訳分からんとこにツッコんでくるのな。安心しろ、地毛だ。……そういうことにしといてくれ」

 流石イケメン、こういうことを颯爽とやってのける。っていうかこの高校、割と風紀に厳しいと有名だったはずだが……。こんな奴に騙されているようじゃ、この高校も終わりかな。

「……おい、今俺のこと馬鹿にしなかったか?」

「……ナンノコトヤラ」

 くっ、聡い! こんなチャライケメンに……!

「まぁ、そのカタカナ発音からそう思っていたことが判明したことについてはあえて触れないでおくが……」

「おう、サンキュー。……ってなんで話がお前主体で進んでるんだよ! 普通流れ的に俺だろ! 追及させろよ!」

「んー、まあ俺的に相手にペース握られるのは嫌なんだけどね。まあしょうがないか。いいよ、主導権50ドルくらいで譲ってあげるよ」

 無料だろ、そこは無料だろと俺は手のひらを差し出していたそいつの手の平を返した。

 っていうかなんなんだよ、こいつ。これがイケメンの力なのか? そうなのか? っていうか……。

「……お前、名前なんていうの?」

「いや、同じクラスだろうに!!」

 生憎、自分のクラス大嫌いな俺である。

「跳木だよ。は・ね・き!! あ、下は類ね。る・い!!」

「……いや、そんな強調しなくても大丈夫だって」

 なんだろう、このイケてるやつ特有のテンション。全くついていけないやー……というのは一度置いておくとして。

 そうだ、そういえばこんな奴居たかもしれない。

 いくら自分のクラスが大嫌いで興味関心が無くっても中心にいる人物位は嫌でも頭に入ってくるものだ。

 俺をいつも馬鹿にしてくる女子グループが女子の中の中心だとしたら、こいつは男子の中の中心に居る奴……だが、こいつ確かちょっと変わりものだった気がする。まあ具体的な例を挙げると学校祭のクラスでの出し物会議の際、急に「男の娘っていいよなー。だからさ、メイド喫茶やろうぜ。メイドは全員女な」と男の娘を肯定しておきながらも普通に女子を推す意味不明矛盾満載の発言をしたり、入学間もない頃、昼休みに平然と寿司の出前を頼んでちょっとした騒動に発展させたり……と、そう、こいつ、跳木類は底なしのマイペース野郎なのだ。そのマイペースが周りには受けてるとかなんとか。勿論、俺はこういうの苦手だ。ちなみにもう一度推しておくが、俺がこいつについて知っているのは別に俺が跳木に興味が有るからではない、跳木の行動が学年、いや、学校規模で突出しているものだからだ。そこんとこよろしく。

 跳木の説明はこのくらいにしておくとして……まずは尋問を始めよう。

「……で、跳木よ。お前はなんでここにいるんだ?」

「ん? いや、普通に」

 ……会話が成立していないな。

 不満を心の中だけで吐露していると、俺の心理をまたまた悟ったのか……急に「実はよ」と切り出してきた。

「ぶっちゃけると、俺、お前に興味あるんだよねー」

 寒気がした。とんでもなく寒気がした。こいつあれか、変態さんか。例の方向に突っ走ってる方か。そうかそうか。

 いつの間にか跳木に立ち寄っていたが俺はその距離を伸ばし自席に戻り、鞄を開き道具をしまおうと――したところで腕を掴まれた。……ふぅ

「……くそ……どうにでもしやがれ……!!」

「お、おい、なんか誤解してね?」

「あ! やっぱやめろ! 今すぐ離れろぉおおおおおおおおおおおおお!!」

「いやだから落ち着けって!!」

 珍しく取り乱した俺である。危機的状況に瀕したら保守に走るのは生物の本能だろう。

「……で、なんなんだ?」

「いや、取り乱したのはお前だろう」

 冷静を取り戻した俺に対し、冷静なツッコミで返してくる跳木。

 ちなみにこの間にトイレから紙のロールをそのまま持ち出してきて、先程のコーラ噴出による被害は全て取り除いた。まだ、ややベトベトしているのはしょうがない。

「まあそんなわけで……だ。誤解も解けたところでちゃんと話してやるよ、真くんよ」

「……なんで俺の名前知ってんの?」

「いや、だからお前に興味が――って逃げる準備すんな。これエンドレスパターンだ」

 お前が俺にそう思わせるような言動するのが悪いんだろ、という台詞は胸の奥にしまっておくとして、ようやく話が進みそうな流れだ。

「じゃあ、話してくれ」

 跳木は「オッケー」と言った後、演出か何かは知らないが某クイズ番組を彷彿させるような無.駄に溜めを作って……その口を開いた。


「単刀直入に言う。お前に惚れた、付き合ってくれ」


「……じゃ、そういうことで」

 俺は自分の保守を一番に考え鞄も持たずに腕を前に出した右足のちょっと前に位置させて、腰.をゆっくりと下ろして――

「待て、今のは流石に俺もふざけた!! 許してくれ!! だからクラウチングスタートのポーズは今すぐにやめてくれ!!」

「……お前が作った空気はなんだったんだ。俺がディレクターだったら、お前.みたいな司会は番組終了後すぐに呼び出して悲しい宣告をするぞ」

「あー、謝る謝る。……でも、今の言葉はちょっと解釈すると本当の俺の言いたかったことに辿り着けるぜ?」

「ダルい。十文字以内で答えよ」

「お前の絵に惚れた」

 一瞬で返ってきた!? しかもちゃんと十文字以内――って、え?

 こいつなんて言った? 俺の絵に惚れただ?

 困惑している俺をよそに、跳木は意味有り気な笑みを浮かべていた。

 そして、再び、その口を――

「赤田真、お前、俺達の部活に入れ」







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