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ぼっちな俺と、意外な現実。

 もう、自分じゃどうにも出来る気がしなかった。

 完全にアウェイの状況、そしてそれに追い打ちをかけるが如く、戸松の登場。

 あのノートには戸松がモデルになっている絵も描いてある。今さらけ出せれているページならまだいいものの、その戸松がモデルのページが見つかれば……確実に、嫌われる。今でも嫌われているかもしれないが、さらに、巻き返しが不可能なほどに、嫌われる。

 絶望。

 今の俺の心境と状況に一番しっくりくる言葉が、これだ。これしかない、オンリーだ。

 俺は、抵抗することを止めた。覚悟した。ただ、現実から目をそむけ、願うだけ。

 そして、最低なそいつはノートを、戸松に渡した。

 ただ、紙が捲られていく無機質な音だけが教室に響く。周りも戸松の反応を楽しみにしているのか、黙り込んでいる。

 そうして、ノートをパタンと閉じて

「どうだった? これ、実は――」

「すごく良かった!! この絵達描いたの誰!?」

『…………………………は?』

 戸松以外の自分も含めたその場に居た人物、全員が呆然とした。

 静止するその場にいた者たち。というか教室に居た奴ら皆だった。

 唯一、教室の壁掛け時計の針だけが無機質に仕事を果たしている。目の前の戸松も困惑した様子で話すことができないような状況になっている。

 そして1分ほどたった頃か。この沈黙を破ったのはやはり戸松だった。

「なんか皆黙ってるから話にくかったけど……まあいいやっ。とにかく、これ書いたのは誰!?」

 この台詞によって全員が現実に回帰する。

 誰よりも早く回帰した戸松はただ目を純粋な幼児の様に輝かせ、ただでさえ幼い印象の強い戸松の顔がより一層幼く見える。可愛いっ……じゃなくて、まぁ落ち着け。

 ここで俺は手を挙げるべきなのだろうか?

 躊躇い。

 躊躇いとの、せめぎ合い。

 今は書いた人物が割れていないから純粋に感動しているのかもしれない。ここでもし書いた人物が俺だと判明すれば、戸松はきっと嫌な顔をする。きっと、キモがられる。

 だけど……あえてここで、一歩踏み出してみるのもいいかもしれない。

 自分の勝手な憶測なのかもしれない。可能性から考えればきっとキモがられるが、違う可能性もあるはずだ。だから――

「あ……」

 俺はゆっくりと、手を挙げた。

 もうダメだこれは詰んだどうしようもねぇって結局俺チキンかよwwってwってる場合じゃないわ!  てか俺何を糧にして手挙げたし、ええ答えは分かってますよ「わずかな可能性」ですよ、ええそのわずかに賭けてみたんですよチキンなくせにねぇえええええええええええええ!!

「あっはっはははははははははははははははははっ!!」

 ……。

 高笑いを上げたのは俺、赤田真ではない。

 その高笑いの主は目の前の戸松樹愛であった。

 一度大きく笑った後、ひーっひーっと呼吸を整えることを試みていたがそんな試みは儚く散り再び、高笑い。再び呆然と仕掛けた俺だったがここで止まるとまた時間を食いそうなので、堪える。

 そんな俺に対して戸松が、笑い声交じりに声を掛けてくる。

「ちょ、ちょっとキャラ通りすぎ……てっ……ふぅ。やっぱりヲタク系の人だったんだねー!」

「う、うん、そうですけど……」

 って、何敬語になってるんだよ! そしてやっぱりって! やっぱり!?

「そっかそっかぁ……。面白いね、君……っていうか、赤田真くん……だよね?」

「え!?」

 なんでだろう、この子俺の名前を憶えている……ああ、同じグループだったか。なら覚えているよな。

 ちょっとモチベーションが下がったものの、そんな俺はお構いなしに戸松は続ける。

「まあ驚いたのは置いとくとして……あのさ、お願いがあるんだ。私、もっと赤田君の絵見たいな! ……駄目?」

 やや上目遣いになる戸松。……やめろ、爆発する。

 戸松のお願いと言えど正直、ここで自分の絵を堂々と見せるほど俺は肝が据わっていない。

「……ちょっと、ここでは」

「んー……じゃあさ」

 手を顎にやり、何かを思考する戸松。

っていうか、俺初めて戸松と話してないか!? 今、何気にすごい場面じゃないか!? でも今チャンスを潰したような……でもそれは流石に嫌だったし。

結果的に、さっき手を挙げたことによってこうなっているわけだ。もしかしたら……「ツキ」という奴なのかもしれない。今日ぐらいは……信じてやってもいいかもしれない。

 俺がそんな珍しいことを考えていると戸松が急にハッと何かを思いついたような顔をした。そうして戸松は一瞬だけニヤリと大人を騙した時の子供のような表情をした後口を開いた。

「メアド交換しよっ!! そして、メールで夜にでも送ってよ!!」

 ……確定。……「ツキ」は確かに存在する。

 俺の世界が、ちょっとだけ、変わった。



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