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ぼっちな俺と、まさかの過ち。

 違和感に気が付いたのは学校を後にしてから既に10分ほどたった頃であった。

「……あぁっ! ノート忘れた」

 何か忘れているような? ようやくその違和感を払拭したのはいいが。……いいが、

「……ちょーっと、まずくないかな。真くんよぉ……」

 確かノートは俺の席の上に置きっぱなしだ。幸い、ノートの表紙には何も書いていないし、中身も開いたままでは無かったと記憶しているが……。一瞬だけ、背筋が凍るような感じがした。

 だがよく考えろよ、普段俺の机に寄ってくる稀有な奴なんているか……?

「……ほっ」

 そう考えると、とても気が楽になった。

 そうだよ、誰も来ないじゃないか。だからノート剥き出しでもきっと大丈夫だよ! 

「よしっ、帰ろう」

 普段は暗いくせに、案外根はポジティブな俺だったりする。

 そんなことより今日の夕飯だ、何を作ろうか……。

 止まっていた足を、再び前に運び始めた。


 ☆


 今朝のニュースで見た天気予報では、6-9時の時間帯に傘マークがついていた。

 よって、俺、赤田真はそれに従い紫色の傘(\105)を持参してきたのだがこれは喜ぶべきか、はたまた「傘無駄に持ってこさせやがって!」と大いなる自然に対して喧嘩腰になるべきなのか。登校途中に空から水の雫が降ってくることは無かった。

「(うん、今日は……ツイてるの……だろうか)」

 占いなどのオカルトを信じないため、よってそれに含まれる「ツキ」も信じないのであるが……どうにも、今日は信じたかった。と言うか、縋りたかった。

 原因は勿論、昨日忘れてしまったノートの件である。

 やはりこういう不安要素については人間、敏感になってしまうなと実感する。考えれば考えるほどそれが増していく、悪循環、負のスパイラル。

 誰かが何かを思って俺の机に近づいてきてそこで見つけた一冊の、『タイトル表記の無い何かを漂わせる』ノート。そんなノートの放つ「誘惑」に勝てなかったとあるクラスメイトがノートを開いてしまったとき、俺の物語は始ま(ry

「……過剰妄想も良いとこだよな」

 作家的思考をしてしまった、昨夜。これよりもっと酷いものだってあったさ。

 軽い感じのノリで進んでいるが、正直心の内は超がつくくらいの不安だ。さっきも言ったが、不安だ。

 そうしてそんな不安さを携えて、今日も俺はこの糞みたいな学校に足を踏み入れる。

それにしても――一歩一歩の足取りが重い。

 学校に入った後の俺の心境はまるで「へ、全然余裕だぜ」と意気込んでお化け屋敷に入ったものの「……ひぁっ!」と本性をさらっとさらけ出してしまっている小学生のようだった。朝シャンしてきたのにも関わらず、早くも額は汗で湿っているようだ。

 朝からいつもよりも酷い負のオーラを放っている俺を見た奴らの大体は、俺を嫌なものを見たような目で見ながら避けて歩いている。クラスメイトでは無い奴は、いつもは普通にスルーしているのだが。

「(あぁ……帰りてぇ)」

 このまま帰ってしまおうか。俺が居なくても別にクラスには支障ないし。むしろ、俺的にそっちの方がいいし。

 が、しかしそうは行かないのが現状である。

 嫌々教室への道を進み、徐々に俺の心臓の鼓動が大きくなっていっているのが分かる。

 心地の悪い緊張感が俺を支配する。

 そして、いよいよ……着いてしまった。

 俺の頭上には忌々しい「2-E」の表札。今日はより俺に忌々しさを与えているように見える。

「………………ふぅ」

 一つ息を吐く。そして吸って、また吐く。

 俺がクラスの人気者だったらこんなことで悩む必要は欠片もないのだが、生憎俺はクラスの除け者。 これ以上どこまで落ちるとでもいうのだろうか。

 全く持ち合わせていない勇気を無理やり振り出して、俺は、教室へ――

 ――一瞬で空気を悟った。

 いつもと、違う。俺が教室に入って感じた第一印象がこれであった。

 教室の後ろの窓際に数人が何かを囲むようにして集まり、そして騒がしい。そしてまた、その数人の顔触れが……。

「(嫌な予感しかしねぇ……!)」

 どうしてだろうか、本当なら焦るべき場面なのに足が前に出ない。

 その理由もすぐに分かった。俺は単に「怖い」のだ。あの集団に恐怖を感じているのだ。

 全く……駄目人間だ。

 足は動かない、な、なら違う手段を使って確認するまでだ!

「お、お、お前……らっ!!」

 手段を考える前に、気づくと無意識に大声出していた。

 騒がしかった教室が一気に静まり返った。ジェットコースターが急下降したような、いや、それよりも酷い。俺は今どんな顔をしているのだろう、ああ、きっと真赤にして恥ずかしい顔してるんだろうなぁ!

 そしてその面のまま、あいつらの方を見た。

 ――隙間から見える、見覚えしかない一冊のノート。

「……ぁ? もしかして、これあんたのなの?」

「え、嘘。マジで!?」

 徐々に騒がしくなっていく。原因は……間違いなく、俺。

「か、返せよ」

 怖気着いた様子で、それでも俺は自分なりの大きな声でそう言い放った。結果

「ちょ、え、えぇえええええええええええええ!?」

「マジ!? 超受けるー!!」

「あんたガチだったんだね、こんなの書いてさぁ!!」

 ノートの一ページを見せつけてくるグループの一員である一人の女子。それに他の野次馬たちが「え、なにそれ」「ちょ、うめぇ!」「え、何なにうちも見る!」群がる。ドミノ倒しのように、現物人は増えていく。くっそ、もう泣くぞ! 俺泣くぞ!

 涙目になってきたところで、俺はいよいよ決意し走ってノートを取り返しに向かった。

「い、いいから返せよ!!」

「はぁ? 何必死になってんのさ、きもー」

「て、てめぇ!!」

 本格的に頭に来た。

 そうしてなんというタイミングの悪さであろうことか、

「……え、なんか今日、皆元気?」

「………………」

 まさかの戸松樹愛、登場である。



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