ぼっちな俺と、ワンチャンス。
「ほぉう……。ちょっと黙ってるわ」
部長が顎に手をやり「してやったり」と言わんばかりの笑みを浮かべている。
そして当然の如く、その提案に対して猛抗議する男子高校生が一名。っていうか、言うまでもなく、俺だった。
「ちょっと何を言ってるの跳木君!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?」
「お前テンションの起伏激しいよな、まあいっか。俺からしたらいい提案だと思うけど」
「同意。赤田、お前男らしくないぞ。部長怒っちゃう!」
あなたのテンションの起伏も酷いもんです、部長。
「まぁ落ち着こう。真、これはチャンスだ。戸松さんは現在お前の絵に惚れている。きっと本心からだろう。だからこそ近いうちに、惚れている内に告白して付き合うまでこぎつけるんだ」
「おお、類実は天才なんじゃないの」
どーもどーもと頭に手をやって演説を終えた政治家のように振る舞う跳木。うざいことこの上ない。
……だが確かに、確かにいい考えではある。説明もしっかり筋が通っていたように思える。しかし俺が懸念するのはその考えではない、俺自身、そのものについてだ。
「……俺が告白したって、どうせ無駄だろう」
「お、早速成功フラグ構築か。やる気満々じゃないか真君」
「そう捉えてきてお兄さんびっくり。……だから、俺だぜ? クラスでアレな俺だぜ? 女子としてもそういう奴と付き合うのは嫌だと思うはずだろう」
「んー……まあ確かにそれはあるな。だけどよ、真意外とっていうか実は割とイケメンじゃん。今は打ち消されているみたいだけどさ」
跳木にイケメンって言われた。
ちょっとむかついたけどちょっと嬉しい。イケメンの魔法恐ろしい。
だが……。俺は躊躇う。躊躇う。躊躇う。きっと偏見が戸松の中には……ある。気にするのはそこだけ。
跳木は一呼吸置いた後、「いいか」と切り出す。
「偏見に食われるな。偏見に食われたらそこで終わりだ」
正直言うと、その言葉は強く俺に跡を残した。
「かっこつけぇーい」
そして部長がずっと黙っていることなんて出来なくて、折角生成されたこの空気をぶち壊す。
「あー……まあ、なんだ。ちょっと考えさせてくれよ。大体、人に促されて告白ってのも釈然としないと言いますか。とりあえず同人誌制作は参加するよ、作画として」
お茶を濁したような俺の返事に跳木は文句有りげな表情を示してきたが譲歩してくれたようでこれ以上追及されることはなかった。とりあえず乗り切ったようだ。
一度クールダウン。ふぅと俺は一つ息を吐く。
すると最後に空気をぶち壊していった久持部長が移動式回転式の椅子から飛び降ようと図るも反動で部長と逆の方向へ移動して行ったため部長は無様に前から落ちた。が、しかしこの人はなんなのだろうか、今度は両手で体を支えて倒立からの回転技。決めポーズ。思わず跳木と共に拍手。
「あー、逝くかと思った。で、同人誌制作の件だがそれについての活動は今日はナシ。とりあえず解散ってことで。また後日ー」
「うーいっ」
「分かりました」
そうして部長がいち早く帰宅。跳木と俺は共に部室から出るも、突然腹痛に陥った跳木と別れて一人で帰路についた。
☆
「さてと」
俺は携帯のアドレス帳につい最近登録された一人の女子の名前を選択する。その女子というのは言うまでもなく『戸松樹愛』だった。
心中かなり落ち着いていない状況であるのにも関わらず表面上は冷静を装っているのは一体誰のためなのか。一人暮らしで自分一人しかいないというのに何の意味があるというのか。甚だ疑問である。
添付する、を選択してデータフォルダからあらかじめ撮影しておいた自信作の絵を選択して……。……ああ……緊張する……。
「でも昨日送ってないわけだし……」
うう……と女々しい唸りをあげながら俺は送信ボタンを押した。
そして再び送信ボタンを押す。
「俺女々しっ!!」
呆れる。
流石チキン。
「………………ふぅ」
まあ、いいじゃないか。一回送ってみよう。偏見に食われるな(笑)。
そうして俺はもう一度送信ボタンを押す。今度はもう一度押さない。
画面には『送信完了しました』の文字。
時間は一九時四五分。戸松はきっとまだ起きているはずだ。
シカトされないかと不安一杯に返信をとにかく待った。