彼の想い
私は、眼鏡の人の隣に腰掛けた。
どんな本を読んでいるんだろう?今頃気になった。
今までは彼の存在が気になっていたから、
隣を見ると本を読んでいそうなのに目を閉じている。
確かにこの席は日が良くあたりポカポカしている。でもそろそろ時期的に暑いと思うけど・・
顔を見るとうっすら汗を掻いている。スーツ姿だし暑いよね、
眠る彼の隣でそっと本を読み出した。静かに時が流れていくのは心地良いと久し振りに感じた。
どのくらい時間は経ったのだろう。彼は突然立ち上がると、
「今日はちょっと用事があるから先に失礼するね。夕菜ちゃんも病み上がりだから体には気をつけるんだよ」
背中が忙しそうに遠ざかっていく。
聡はもっと夕菜の隣で寛いで居たかったが今から会社に戻らなければならない。
いくら社長だからといって、長いこと会社を抜けては居られない。
一応双子の弟に会社を頼んでおいても目を通す書類は聡がやらなければ話が進まない。
父親が亡くなってからは、頭の優れた聡が社長、社交的な弟の健吾が副社長になり、この数年お互いを
カバーしながら業績を伸ばしてきた。
弟はさっさと同級生だった女性と世帯をもったが、聡は今まで勉強と仕事以外は興味もなく過ごしてきた。
でもある日資料を探しに入った図書館で夕菜を見つけ、それからはストーカー状態だ。
今まで女性にアプローチした経験もなくどんな風に夕菜に接して良いのか解らない。
今日は最近図書館に現れない夕菜を心配してずっと朝から図書館の前で待ってしまった。
偶然を装い話しかけたまでは良かったが、ついホッとして図書館で居眠りをしてしまった。
彼女の側にいるとなぜか落ち着く自分に吃驚してしまう。
今までどんな時も気を張って生きてきた。
一応長男としてのプレッシャーも感じていたし、いずれ父親の跡を継いで輸入雑貨の会社を継がなければと漠然と考えてきた。大学卒業と同時に父親が脳梗塞で倒れるまではこんなに早く跡を取るなんて考えては居なかった。
おかげで眠れない日々を過ごし、今までは病院に通い薬を服用して眠れるようにはなったが、体がだるくて仕方がなかった。
でも彼女に会ってからは薬を飲まなくても眠れるようになった。
これを恋だと弟は言うが俺にはよく解らない。
だが、最近彼女に会えなかった一週間はやはり眠れずまた薬の世話になった。
夏風邪だったと言った彼女はやはり前より少し痩せていた。
見た目はまだ学生のような彼女だがいつも昼過ぎから図書館で本を読んでいる姿を考えると社会人なのか?さすがに本人に聞けなくて気持ちが沈んでしまう。
早く告白をすればいいと弟は言うがそんなに簡単に物事は進まない。