再び
私は、叔母さんに眼鏡の人のことを相談することにした
「ただいま戻りました」
店に戻ると叔母さんが
「夕菜ちゃん、顔が赤くない?熱があるんじゃない?」
慌てて薬箱を取り出し中から体温計を持ってきた。
「熱が無いか、測って診て?」
体温計を受け取ると、椅子に腰掛け脇に体温計を挟んだ。
言われてみると身体がだるいかも、ピピピピー体温計を見ると38℃
隣から覗き込んできた叔母さんは、
「やっぱり熱があるみたいね。今日はお店はいいから上に行って休んでいらっしゃい。暖かくして布団に入るのよ。後でお粥を持ってってあげるから」
心配そうに囁いた。
眼鏡の人のことを相談する間もなく、パジャマに着替えベットに入って、ものの数分で眠ってしまった。
目を覚ますと外は真っ暗(私だいぶ寝ちゃったんだ)
ドアを叩く音が聞こえ、叔母さんが部屋に入ってきた。
「夕菜ちゃん大丈夫熱少しは下がっているといいけど」
ボーとしている私の脇に体温計を挟んだ。
身体が重くて動きたくない、熱あがったのかな?
ピピピピー体温計を見ると39℃ちょっと上がったみたい。
叔母さんが慌てて
「夕菜ちゃん大丈夫?病院行こうか?」
と言ってくれるけど今動きたくない。
「寝ていれば大丈夫だよ」
そう答えて、そのまま私はまた寝てしまったみたい。
おばさんが一晩中看病してくれていたことはなんとなく覚えている。
夢に出てきた母と叔母さんの背中が重なって見えたから・・・それから二日間私は寝込んだ。
私は結局夏風邪だったみたい。
季節の変わりめは結構苦手かも、叔母さんに
「しばらくは大人しく室内で過ごしてね」
と笑顔で言われ、部屋で掃除をしたり、洗濯したり、読書をして過ごした。
夕食には叔母さんの好物を作ったりして、(家事は結構好きだから)あっと言う間に一週間が過ぎていた。
今日から叔母さんの許可が下りたのでお店の仕事を再開した。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
お水とお絞りをテーブルの上に置きながら注文を聞く。
「コーヒーを一つ」
「ホットで宜しいですか?後モーニングは付けますか?」
「はい、お願いします」
この人は毎日ここで目覚めのコーヒーを飲んでいくサラリーマンのおじさん、
(私の感だと叔母さんに好意を寄せている。私が注文を取りに行くとあきらかにがっかりした態度を取る)
私はカウンターの中の叔母さんに注文を通してからこっそり叔母さんの耳元で
「運ぶときは里奈さん持ってってあげてね。あの人、喜ぶよ」
と囁くと理解したのか?ウインクされた。
里奈さんは歳の割には若く見えるから地味な私よりお客さんの受けが良いみたい。
コーヒーとモーニングのセットを持った里奈さんがおじさんの席に向かうとおじさんの顔が
微妙に赤い・・・(あの人独身かな?)余計なことを考えてしまう。
「お待たせしました」
緊張気味のおじさんが、
「いつもこの店のコーヒーは美味しいですね」
と照れくさそうに里奈さんに話しかけた。
「ありがとうございます。お客様も、毎日いらして頂いてありがとうございます。せっかくですから
コーヒーのチケットはいかがです?10枚綴りで1杯お得になりますよ」
満面の笑顔で里奈さんが微笑むとおじさんは嬉しそうに、
「じゃそのチケットお願いします」
とお金を差し出した。
さすが商売上手、里奈さんの背中を見つめながら関心してしまう。
お昼のランチの時間も終わり里奈さんが、
「夕菜ちゃん久し振りに図書館行ってくる?
そろそろ前に借りた本の返却日近づいているんじゃない?」
里奈さんに言われて思い出した(確かに前に借りた本そろそろ返却日が近づいている)
悩んでいたことなんてすっかり忘れて図書館に向かった。
久し振りの外はさすがに日差しがきつい。
そろそろ夏が近づいているから、外に出るときは帽子を被らなきゃなんて思いながら呑気に歩いていた。
後ろから、
「久し振りですね」
と声を掛けられ心臓が止まりそうな程びっくりしてしまった。
振り返った私の顔を見て、
「驚かしたみたいですいません」
とっても反省している眼鏡の彼の様子に思わず、ふきだしてしまった。
「すいません。久し振りの外だったから考え事をしていたんです。
そんなとき声を掛けられたのでちょっとびっくりしてしまって、笑ったのはシュンとした貴方の様子がなんだか楽しかったから本当にすいません」
頭を下げた拍子に手提げ袋に入れてきた図書館の本が全部落ちてしまった。
慌てて本を拾い集めようと座り込むと隣の眼鏡の彼も一緒に拾ってくれる。
「はい、どうせ図書館行くなら持ちましょうか?」
私の持っている本を奪い取ると先を歩いて行く。
思わずその後ろ姿に見とれてしまう彼がこちらを振り向いた時目が合った。
私は慌てて、
「待って下さい。自分で本、持ちますから、本当大丈夫ですから・・」
彼に駆け寄った。
彼は良いですよと言いながら話題を変えてくる。
「最近図書館にきてなかったのはどうかされていたんですか?」
「夏風邪をひいたみたいで、身体の調子を崩していたんです」
なんだか知らない人にこんな話しをするのは恥ずかしい。
「元気になられたみたいで良かったです。
貴女の姿が図書館に見えなくて寂しかったんですよ」
真面目の顔で言われても・・
「俺自分の名前名乗ってなかったですね。橘聡、24歳です」
(こんな時は自分も名乗んなきゃ不味いよね?)
「小林夕菜、19歳です」
声が小さくなる。こんな事は慣れていない。恥ずかしい
前を歩く彼の背中を見つめながら、どうして橘さんは私に近付いてくるんだろうと思う。
見た目も平凡で目立たない私なんかに、
「此処までで良いですよ。ありがとうございました」
カウンターの手前で本を受け取った。
本を返却していつもの席に向かうと、やっぱり彼の姿(仕事してないのかな?)
本当にのんびりです。