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最終章

「良かったわね。夕菜ちゃん」

気付くとドアの前に叔母さんの姿があった。

恥ずかしくて咄嗟に聡さんと距離を取ったけど、泣きはらした顔だけは、隠しようがなかった。

もしかして、この為に今日叔母さんお休みにしてくれたの?


 叔母さんは冷たいタオルを作ると私に渡しながら、さり気なく、

「おめでとう」

耳元で囁いた。

意味が解らず、叔母さんの顔を見ると穏やかに微笑んでいる。


 「夕菜ちゃんにも先を超されたみたいね」

ソファに腰掛けた叔母さんは湯飲みを両手で持つと、ゆっくりお茶を飲みながら、

お婆ちゃんみたいに肩を叩いた。


 「でもこんなにのんびりはしていられないわね」

突然顔色を輝かせると、立ち上がり携帯を取り出し、どこかに電話を掛け始めた。

携帯を突然、橘さんに渡すと、耳元で何かを告げた。


 慌てた様子で電話に出た橘さんは、大きな声で、

「解りました。今度の日曜日絶対、挨拶にお伺いさせていただきます」

その場で頭を下げている。その姿にもしかして・・・

叔母さんの顔を見ると、

「面倒なことは、早めに済ませた方が楽で良いでしょう」

得意気な顔をした。

そういうことか・・・


 話しはとんとん拍子に進んであんなに嫌だった実家に帰ったのに隣に聡さんの姿があるだけで、

穏やかな気持ちのままでいられた。

「夕菜さんと結婚させて下さい。絶対に幸せにします」

畳の上に土下座した橘さんの隣で一緒に土下座した。

こんなのは、テレビの世界だけだと思っていたけど実際にやるもんなんだと神聖な気分になった。

橘さんに頭を下げた父の瞳に涙が光っているのに気付いた。

守ってもらえなかったけど、父もきっとあの頃、心の中で挌闘があったんだと思える。


 「義母さんは?」

久し振りの実家で姿の見えない義母のことを父に聞くと、

「離婚したんだ」

意外な答えが返ってきた。


 「夕菜には、本当に今まで辛い思いをさせて悪かった。

 本当は父さん、母さんがお前に暴力を振るっていたのを気付いていたのに、見て見ぬ振りをしていた。 でも夕菜がこの家を飛び出してから母さんと再婚した意味が解らなくなった。

 夕菜に寂しい思いをさせないために母さんと一緒になったはずなのに・・・

 いつも夕菜に悲しい思いをさせて・・・

       辛い思いをさせて・・・

 そんな私の気持ちに気付いていたのか、

 母さん、家に出入りしていたセールスマンと浮気してその男と一緒に家を出て行った」

申し訳なさそうに話す父の横顔は少し見ない間にもの凄く歳を取った気がした。


 「大丈夫ですよ。これから夕菜さんには俺が寂しい思いはさせません」

隣から聞こえてきた聡さんの声に心が暖かいものに包まれた気がした。

私達は二人で一緒に幸せになる。だからきっと寂しくない・・・

そんな風に思えた。


「おめでとう」

小さいチャペルで結婚式を挙げた私達は最後の最後で叔母さんに驚かされた。

だって叔母さんの隣には、常連のサラリーマンのおじさんが正装して立っていた。

さすがにこれには父も驚いていたみたい。もう妹の結婚は諦めていたらしい。

腕を組みとても仲が良い二人、(いつの間に・・・)

「私だってこれから、夕菜ちゃん達に負けないぐらいに幸せになるのよね」

叔母さんはおじさんに向い話しかけるとおじさんの顔が真っ赤になった。


「おめでとう、兄さん」

瓜二つの弟さんにも吃驚させられた。

式の当日まで中々会う時間が取れなかった私はじっと聡さんの弟の健吾さんの顔を見つめてしまった。

「健吾の顔じゃなくて俺の顔を見て欲しいな」

聡さんに拗ねられてしまい後から機嫌を取るのが大変だった。


 まだまだ私達二人で歩む人生の1ページは始まったばかりだけど・・・

聡さんと二人なら幸せになれる自信がある。





 一年後

「夕菜に似て色が白くて可愛いな」

「目のあたりは聡さんじゃないかな?」

暖かい日差しに囲まれた部屋の中、ソファに二人仲良く腰掛、

夕菜の腕の中を覗き込む聡の姿があった。

二ヶ月前に産まれた愛は、お腹が膨れて気持ち良さそうに眠っている。

ピンク色のオクルミに包まれている愛の姿を聡は天使みたいだと感じている。

精神的にも落ち着いた聡は夕菜と愛を見つめ、

守るものの存在の大きさをいっそう愛しく感じずにはいられない。

「夕菜、俺を幸せにしてくれてありがとう」

そっと聡の呟いた一言

「それは、違うよ。

 二人で一緒にいるから、幸せなんだよ。

 今は愛もいるから三人でもっと幸せになったんだね」

夕菜が聡に笑いかけると、

「じゃそろそろ二人目、考える?」

得意気な顔で問い掛けられ、

「それは・・・もうちょっと・・・待って・・・ね」

顔を真っ赤にした夕菜


    お終い



今まで読んでいただきありがとうございました。

結構な時間が掛かりすいませんでした。

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