初恋
聡はあれから、夕菜に避けられている気がして、寂しかった。
・・・やはりあの時の言葉が不味かったのか?
里奈さんが、上手い具合に話しを流してくれたが・・・
それでも夕菜の最近の聡に対する態度
余り顔を見て話すこともなくなっていた。
ただ、夕菜の近くにいたい
それだけを望んでいただけだったのに・・・欲張り過ぎたんだ。
がっかりと肩を落とした。
今日も店の中をいくら捜しても夕菜の姿が見当たらない。
(やっぱり俺は避けられている)
勝手に思い込み落ち込んでしまう。
「残念でした。
今日は夕菜ちゃん体調が悪いみたいだったから私が無理やり休んでいるように言ったんですよ」
目の前から聞こえてきた声に慌てて顔を上げると、コーヒーをカウンターに置いてくれた里奈と目が合った。
その瞳は、穏やかでなにか伝えたいことがありそうな意味深なものが含まれている。
それを聞き出したが、聞き出すのが怖い気もする。仕方なく
「そうなんですか」
一言答え、カップに手を伸ばした。
口の中に広がったコーヒーの味は苦みは、あるが、その中に甘みも含まれていて今の聡の気持ちの様だった。
「なにか、聞きたい事が、あるんじゃない?」
里奈の声に聡は顔を上げると、何か言いたげな顔が自分を見つめている。
「・・・里奈ちゃんの体調大丈夫なんですか?」
言葉に詰まりながらもそんな風に聞いていた。
それを楽しそうに笑顔で返す里奈
「昨夜、自分の本当の気持ちに気付いたみたいで一睡も出来なかったみたいなんです」
意味深な言葉・・・
「本当の気持ち?それってもしかして・・・」
聡は慌てながらも里奈の次の言葉を待った。
聞きたいような聞きたくないような複雑な心境の中で・・・
「私がここで言うより夕菜ちゃんに直接聞いてあげて下さい」
聡はドアの前に立ち尽くしていた。
夕菜の本当の気持ち
俺が聞いても良いものだろうか?
俺が想像している答えじゃなくても俺は自分の足で立っていられるだろうか?
自信なさげに立ち尽くしていると突然開かれた目の前のドア・・・
目の前には夕菜が立っていた。
「体の調子大丈夫かなと思ってお見舞いにきたんだ」
その場を取り繕うように慌てて里奈が持たせてくれた、ケーキの箱を夕菜ちゃんに見せた。
夕菜を目の前にすると尻込みしてしまう自分の気持ちに愕然としながらも懸命に笑顔を向ける。
「そんな、大丈夫なんですよ。本当にただの睡眠不足なだけだから・・・叔母さん大袈裟なんです」
苦笑いをする夕菜を目の前にして、
「大事な話しがあるんだけど中に入れてもらっても良いかな?」
聡は真剣な顔で夕菜に話しかけていた。
リビングに通された聡はソファに腰掛けてからも今から、自分が話そうと決めている言葉に自信が得られずにいた。
もし振られてしまったら、俺は立ち直ることができるだろうか?
それでも俺以外夕菜ちゃんを幸せに出来る男はいないはずだと自分に何度も言い聞かせる。
目の前に置かれたお茶に手を伸ばそうとしても極度の緊張のせいか?手が震えてします。
(なんて俺は情けないだろう・・・)
そんな聡を尻目に先に口を開いたのは、夕菜だった。
「本当にこんなことを橘さんに話すのはおかしなことかも知れません。
でも聞いてもらって良いですか?」
聡は夕菜の顔を見ると静かに頷いた。
父親のこと、義理の母親のこと、夕菜の話のほとんどがこの間里奈が話してくれたことと一致していたが、一箇所だけ違っていた。
「本当は私、義理の母親のこと、心の中では許していたのかもしれません。
父は再婚してからもやっぱり亡くなった母のこと愛していたんです。
そんな母親に生き写しの私の存在・・・
義理の母にとっては、一番辛いものだったんでしょう。
鏡を見るたび私も何となく気付いていました。
義理の母が私に暴力を振るうたび悲しそうな顔をしていたんです。
痛みで泣き出したいのは私の方だったはずなのに・・・
馬鹿みたいですよね。本当だったら実の父親が私を守ってくれるはずなのに・・・
父も年々母に似てくる私が怖くなったんでしょうね。
だから、二人とも私が叔母さんの所に住むようになってほっとしてると思います」
泣き出しそうな夕菜の顔を見つめているうち、聡は立ち上がっていた。
夕菜の隣の席に移動するとそっと泣き出しそうな肩を抱きしめた。
小さい体が震えていて誰かが守ってあげなきゃいけない気持ちになる。
これは同情じゃなくて、愛情以外のなにものでもないと聡は確信した。
「俺じゃ駄目かな?
俺、夕菜ちゃんと家族になりたいんだ。
俺達二人だったら絶対に幸せになれる自信がある。
この世の中に変わらないものなんてなにひとつない。
でも夕菜ちゃんと二人一緒でいられたら、俺は夕菜ちゃんに幸せにしてもらえる自信がある。
夕菜ちゃんが与えてくれる幸せなら俺一生自分が幸せでいられる自信があるんだ。
今までこんな気持ちになれた女性は夕菜ちゃんだけなんだ・・・
二人で一緒に幸せになろう。
愛しているんだ」
夕菜は聡の腕の中で、聡の突然の告白を吃驚したが、素直な聡の言葉に吹き出しそうになった。
幸せにしてあげるじゃなくて、幸せにして欲しい。
今まで一度も考えたことがなかったプロポーズの言葉・・・
夕菜の心に染み渡るような気がした。
私がこの人を幸せにしてあげたい。
そんな風に思えた。
同情なんかじゃなくて愛情として・・・
二人一緒に幸せになりたい。
夕菜は聡の胸の中に顔を埋め、泣いていた。
一人ぼっちじゃ耐えられないけど、この人と一緒なら・・・
今までの悲しい出来事も全部洗い流されていくような気がした。
こんなに落ち着ける場所があったのも初めて気付いた。
そうな風に純粋に思いながら夕菜は子供のように泣きじゃくった。
今まで我慢していた分を取り戻すかのように・・・
今まで待っていただいた人のために頑張って書いてるけど、
中々最後まで書けないけど頑張ります。誤字脱字はすいません。