第6項 高校演劇にのみ許された過酷な「生徒主体ルール」。プレッシャーに潰される生徒たち
第6項 高校演劇にのみ許された過酷な「生徒主体ルール」。プレッシャーに潰される生徒たち
シーツをピンと張るたびに、保健室の静かな空気に微かな乾いた音が響く。
陽和は、新しい真っ白なシーツを東雲のベッドにかけながら、思考を目前に迫った『地区大会』へと向けていた。
高校演劇の大会ルールは、ある意味でプロの演劇よりも遥かにシビアで残酷だ。
それを知っているからこそ、学園中がこれほどまでに殺気立っているのだと。
(何よりも過酷なのは、やっぱり『時間制限』よね……)
高校演劇の絶対ルール。それは、上演時間が『ぴったり六十分以内』であること。
もし六十分一秒でも過ぎた瞬間、容赦なく緞帳が下ろされるか、審査対象外――つまり『失格』となる。
どれだけ素晴らしい演技をしていても、観客が涙を流して感動していても、その一秒がすべてを無にするのだ。
だから役者たちは、本番の極度の緊張の中で「タイムオーバー」のプレッシャーと戦い、無意識のうちに早口になってしまう。
裏方は、暗転中のセット転換を秒単位で削り落とすという、地獄のような調整を強いられることになる。
(それに、舞台の設営(仕込み)十分、片付け(バラシ)十分っていう制限もあるし……)
星華芸術学園のような名門校は、他校を圧倒するために、プロ顔負けの巨大で複雑な舞台セットを組む。
その巨大なパネルや平台を、たった十分で、しかも高校生たち自身の手で正確に組み立てなければならないのだ。
この十分間は、文字通り裏方の『戦場』となる。
誰か一人が手順を間違えたり、足がもつれてパネルを落としたりすれば、即座に時間切れとなって、一年間の努力は文字通り水の泡と消える。
(音響のフェードアウトも、照明のタイミング合わせも、全部私たち高校生自身でやらなきゃいけない。プロの大人は、誰も助けてくれないんだから)
このルールの重圧が、今の星華の生徒たちを極限状態まで追い詰めている。
睡眠時間を削って小道具を作っている一年生の指は、接着剤と切り傷で荒れ果てていた。
黒田先生から厳しいダメ出しをされ続けた主役クラスの役者は、ストレスで固形物が喉を通らなくなり、ゼリー飲料だけでままじゃ、本番前に心が折れるか、本番中に必ず大きなミスが出る)
彼女の思考は、自分が表舞台でいかに目立つか、などという次元の低いところにはない。
(私が裏で、少しでも無駄な動きを削って、彼らが安全に、そして安心して演技できる『余白(時間)』を作らなきゃ)
ミリ単位の小道具の配置。
演者の歩幅と呼吸に合わせた、コンマ数秒の暗転のタイミング。
そして、彼らのすり減った神経を癒やす、一杯のハーブティー。
自分が『ただの雑用係』と見下されようが構わない。
あの恐ろしい六十分の壁に向かっていく仲間たちが、一秒でも長く、自分の演技に狂える場所(安全地帯)を作ること。
それこそが、陽和の裏方としての静かで、決して譲れない闘志だった。




