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第31項 幕が開く。舞台袖から見守る陽和の祈りと、息を吹き返した演劇部の熱演

第31項 幕が開く。舞台袖から見守る陽和の祈りと、息を吹き返した演劇部の熱演


「――制限時間終了。星華芸術学園、上演を開始します!」


大会役員の、メガホン越しのくぐもった声が会場に響き渡った。


「よし、行くぞ!」


気合の入った演劇部が、暗転したステージ上で、所定の立ち位置バミリへと音もなくついた。


客席の照明がゆっくりと落ち、重厚で、腹の底に響くような開演のブザーの音が、市民ホールの巨大な空間に鳴り響く。

シュルルル、と。

重い緞帳どんちょうがゆっくりと上がり、同時に、まばゆい照明が、舞台上の役者たちを鮮やかに照らし出した。


いよいよ、星華芸術学園の、地区大会という戦場が幕を開けたのだ。


しかし、陽和は、その華々しい光景を観客席から見ることはなかった。

彼女は、舞台袖の最も薄暗い場所――黒いパンチカーペットの上にちょこんと正座をし、自分の膝の上にボロボロになった台本を置いて、食い入るように舞台を見つめていた。


(……みんな、どうか無事で)


陽和の役割は、仕込みが終わったからといって終わるわけではない。

万が一、本番中に小道具が壊れたり、役者が立ち位置を間違えたりといったアクシデントに備え、彼女の両手は、予備の小道具のナイフと、次のシーンで使うガラスのコップをしっかりと握りしめていた。


「俺は……あの日のことを、絶対に忘れない!」


舞台中央で、スポットライトを一身に浴びた結城が、張りのある、そして感情の乗った素晴らしい第一声を放った。


「結城くん、声の調子、完璧ね。マロウブルーと蜂蜜のコーティングが、ちゃんと効いてる」


陽和は、暗がりの中で小さく、ホッと息を吐いた。


出番前、控え室で過覚醒状態に陥り、過呼吸を起こしてパニックになっていた他の生徒たちも。

今はその面影が嘘のように、活き活きと、そして堂々と舞台上を躍動している。


陽和の『グラウンディング(足の裏の感覚の意識)』で地に足をつけ、『五・四・三・二・一法』で今この瞬間に完全にフォーカスし、仕上げの緑茶のテアニンで精神を極限まで研ぎ澄ました彼らの演技は、他校を圧倒する凄みとリアリティを持っていた。


(すごい……。みんな、すごく輝いてる)


客席からは、水を打ったような静寂と、時折漏れる感嘆のため息が聞こえてくる。

星華芸術学園の演劇部が、一つの巨大な生き物として、観客の心を完全に鷲掴みにしている証拠だった。


(かっこいいな……)


スポットライトの強烈な光の、ほんの端っこ。

誰の目にも触れない絶対的な暗闇の中で、陽和は、誰にも見られないふにゃりとした笑みを浮かべた。


自分が、あのまばゆい光の当たる表舞台に出ることは、一生ないだろう。

しかし、この完璧で美しい舞台の土台を、誰にも気づかれないまま、自分の知識と手だけで組み上げたという事実。


その事実だけで、陽和の胸は、祖父から受け継いだ『裏方の職人』としての純粋な喜びで満たされていた。

彼女は、役者たちが一幕を終え、暗転とともに袖へと駆け込んでくるまでの時間を、祈るように、そして愛おしそうに見つめ続けていた。

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