9話 その頃の砦。
9話 その頃の砦。
一方、その頃、
砦は、第ゼロ校舎のエレベーターの天上に穴をあけていた。
携帯ドラゴンの力で召喚できる量子刀を使って、三角に切り込みを入れる。
「よっと」
開けた穴から、エレベーターの上に出ると、目の前には、妙な通路があった。
第0校舎の17階と18階の途中にある謎の空間。
「ルナ。パッシブスキルON、ポテンシャル解放Ⅶ」
命じられた瞬間、ルナの目がグゥっと銀に光った。
直後、砦の体が淡い光に包まれる。
「次、ゴーグルを出してくれ」
ルナは、口からペッと、サーチゴーグルを吐きだした。砦は、慣れた手つきで装着し、
「さて……と」
ゴーグルが見通す、通路に張り巡らされている高速かつランダムで動くレーザーを、
「ほっと……よっ」
驚異的な身体能力で回避しながら先へと進んでいく。
側転・三角蹴り、バク宙を駆使して、高速ランダムレーザーを鮮やかにかわして、順調に前進。
後半は、レーザーの動く速度が速くなり複雑性が増す為、超反応からのフォーリアやムーンサルトも必要になってくる。
世界一と言ってもいい厳重なセキュリティ。
凡夫では一歩も進めないイバラの道。
だが、砦は、軽やかに進んでいく。
(はい、突破っと……)
クルっと、最後にコークスクリューからの華麗な着地を決めると、一息だけついてゴーグルを外した。
今の砦にとって、この程度は朝飯前。
汗の一つもかいちゃいない。
辿り着いたのは六畳ほどの空間で、その中央には宝箱が設置されていた。
(タイムリープの際に、『銀の鍵』以外のアイテムも過去に送る事が出来れば、いちいち、こんな手間をかけなくてもいいんだが……まったく……)
雑に、その大きな宝箱を蹴り開ける。
そして、腰を七十度ほど前に曲げて、
右手を宝箱の中に突っ込み、『輝くトラペゾヘドロン』を取り出した。
中心で赤い光が瞬いている、全体的にドス黒い、ピンポン球サイズの多面体宝石。
「……トラペゾ、問題なく入手、と」
なんの感慨もなくそうつぶやくと、ルナを再召喚し、
「ルナ、データ化して、亜空間倉庫にしまっといてくれ」
ルナが宝石をパクっと飲み込んだのを確認してから、スっと腕時計を確認する。
(茶柱に殺されたザコ共の死念によってE級GOOが召喚されるまで、あと十五分……うん、順調だな。何もかも予定通り。さて、それじゃあ、第五校舎の屋上へと向かうか――)
心の中でそう呟きながら、一歩を踏み出した、その時、
「ん……なっ!!」
キュインキュインと耳を刺すような音が鳴り響き、地面に奇怪なジオメトリが広がった。
と、同時に、砦の体が、不穏な青白い光に包まれていく。
(次元転送の罠だと?! バカな?! この空間に、そんなギミックは存在しない!!)
ギュゥゥンっと、空間がねじ曲がる感覚。
転移の罠。
この200年間、あらゆる場面で幾度となく食らってきた、割とオーソドックスな仕掛け。
ゆえに、強制時空転移そのものに対する動揺はない。
問題は、『ここ』に、『そんな嫌がらせは存在しない』という事。
(なんでだっ?! どういう―――――)
★
――転移が終了した直後、グルグルとしている頭を精神力で無理矢理抑えつけ、ゆっくり目を開くと、
(ここは……第一校舎のシャワールームか? ……ワケわかんねぇ……なんで、あの場所に転移罠が? トラペゾは何度も回収している。あの空間に罠はない。必須ルートに関する詳細は何十年もかけて、死ぬほど念入りに調査したから、絶対に間違いはない……なのに、なぜ……)
頭をフル回転させながら、ゆっくりと振り返ると、そこには、
「「「「「え?!」」」」」」
今、まさにシャワーをあびていた、全裸で固まっている美少女が五人いた。
しっとりと、お湯に濡れている柔肌。
全員、例外なく美しいが、やはり、飛びぬけているのは紅院とトコ。
どちらも芸術的な女神。
一糸まとわぬ状態になる事で、より露わになるその天元突破した美貌。
きめ細やかな肌は、まるで天使が編んだ絹糸のようで、
その楚々と整った顔立ちは、まさしく神のオーダーメイド。
――この華麗なるCMNFの中、
数秒間、互いに硬直していたが、
「……ちっ」
砦は憎々しげに舌を打ちながら、
バっと顔をそむけ、目を閉じ、
(なんだ、この青年マンガやラノベでありがちなエロ展開は……クソったれがぁ……)
心の中で呪詛を吐きながら右手で顔を隠すように頭を抱えた。
この、クリティカルな状況下において、
女性陣の中では一早く現状を『誤解』した紅院が、
さほど慌てた様子もなく、優雅にバスタオルで体を隠しながら、
「私達を覗こうだなんて……いい度胸しているわね。褒めてあげるわ」
紅院の言葉により、他の女性陣も、思考停止状態から回復し、行動を開始しはじめた。
薬宮と黒木は、慌てる事なく、ササっと手早くバスタオルで体を隠す。
南雲は慌てて体をバスタオルで隠しながらアワアワと狼狽しており、
その向こうで、罪華はポケーっとしている。
「ほんま、ええ度胸しとるわ。これほどの勇者には、相応の褒美をあげなあかんなぁ。屈辱と辛酸と破滅と恐怖と苦痛と絶望と……あと、何をあげようかなぁ」
「あなた、バカですか? 美麗さんとトコさんを覗くなんて……この世で最も成功率の高い自殺行為ですよ」
「小腹がすいたにゃぁ。帰ったら、何を食べようかにゃぁ……」
「つ、罪華ちゃん、は、はやく体を隠してっ! なんで、そんな昼下がりのコーヒーブレイク中みたいな顔でボーっとしているの?!」
ワーワーと聞こえる女性陣の言葉を完全にシカトしている砦。
目を閉じ、右手で頭を抱え、苦々しい顔で歯噛みしながら、ダンマリを決め込む。
寡黙に固まった砦の頭の中では、
(最悪だ。GOO召喚まで、あと15分弱しかねぇってのに……なんだ、このゴミ状況)
「あんた、どこかで見た事あるわね……もしかして、ウチのクラスのモブ男子?」
紅院の質問に、砦は、ピクリとも動かずに、
「いいから、さっさと服を着ろ。このまま、目を閉じた状態で動かないでいてやるから」
「……捕まった痴漢の分際で、妙に猛々しいわねぇ。己が、これから苛烈に断罪される立場だって事を理解していないのかしら?」
「この状況をさっさと処理したいんだ。とにかく、急いで服を着てくれ。話はそれからだ」
「……」
紅院は、砦の妙な態度に、一瞬だけ怪訝な顔をしたが、すぐに、
「このノゾキ魔は、あたしが見張っておくから、あなた達は着替えてきて」
指示を受けて、紅院以外の女子は、全員、シャワールームから出ていった。
バスタオル一枚で、しかし堂々としている紅院は、砦に、
「何か言い訳があるなら、トコたちが戻ってくるまでの暇潰しに聞いてあげなくもないわよ?」
「……ヒモあるか?」
「?」
「……俺を拘束してもいいから、お前も服を着ろ。目が開けられん」
「縛ってほしいだなんて……あんた、マゾなの?」
「は、はは……」
砦は、ついには両手で頭を抱えて丸くなり、心底しんどそうに自嘲して、
(トコが苦しまないよう、なるべく好感度を稼がないようにと考えていたのに……それどころか、逆に、極悪な敵意を稼いじまうとはなぁ……はぁ……マジで、何だ、これ)
「アレス、きなさい」
紅院は、鮮血の携帯ドラゴンを『簡易召喚』し、
「このノゾキ魔の目をふさいで。あとヒモを出して縛り上げて」
命令を受けると、アレスは、口からペっとアイマスクと麻縄を吐きだす。
その直後、アレスの目がグゥっと赤くなり、アイマスクと麻縄が、勝手に動きだした。
一瞬で砦の目をアイマスクで覆い、砦の体を縄でグルグル巻きにしてしまう。
「まさか、私のような美少女に縛ってもらえるとでも思った? 夢を見るのは寝ている時だけにすることね」
砦が、無視して『この先、どうするべきか』と悩んでいると、
紅院は、続けて、
「ちなみに、あんたを縛ったアレスは、十人以上いる私のボディーガードの中でも、ぶっちぎり最強の傭兵で、普通に拳銃を持っているわ。アレス、この変態の顔面横に一発撃ちなさい」
命令を受けると、パカっと口を開いた。
――ズガン!
という豪快な音がして、その口から弾丸が音速で飛び出した。
ぐるぐる巻きで横たわっている砦の右耳付近のタイル床に穴があく。
立ち込める硝煙。
「あとで、最低でも右足に一発は撃ちこむから、覚悟しておきなさい」
(この女、マジでやるからなぁ。トコと違って、紅院の潜在的な優しさの総量は低い……いや、まあ、トコと比べてしまえば、一人残らず全員、血も涙もない冷徹人間になっちまうんだが……って、トコの事を考えて現実逃避している場合じゃねぇ。さて、どうっすかなぁ……ったく……なんで、こんな事になっちまったのかねぇ)




