8話 契約。
8話 契約。
黒木を理不尽に怒鳴りつけた直後、トコは、南雲の目を見て、
「まあ、とにかく、これなら、今後、南雲奈桜が奉仕種族にさらわれる事はないわね。携帯ドラゴンさえいれば、余裕で自衛できるもの。さて、それじゃあ、さっそく『神話狩り』になってもらおうかしら。アレス、契約書とペンを出して」
紅院の指示を受けると、アレスはカパっと口を開いて、紙とペンをペっと吐きだした。
「南雲奈桜。ここに名前を書いて」
「……ぇ? あの、まだ、私、状況が理解しきれてないっていうか、その――」
「いいから。さっさと」
「……ぇ、えっと、ぁの……」
「ぁあ、もう!! あんた、一々、トロトロしているわね! トロトロするのはマグロだけで充分なのよ。いいから! ここに! 名前を! 書く! さっさと!」
「は、はい!」
短気な紅院の気迫に押されて、
南雲は、びくびくしながらも、
契約書に、さらさらと名前を書いた。
――その直後、
「ん? ぇ……あっ……」
南雲の体が一瞬、発光した、その直後、
「……水星の携帯ドラゴン、起動……エルメス……来て……」
放心したような顔で、ボソっとそうつぶやくと、彼女の眼前に、
「きゅいっ」
一匹の小さなドラゴンが出現した。
ニコニコしながらパタパタと宙を舞って、
最終的には、南雲の頭の上に着地し、
クルンっと丸くなってスヤスヤと寝だした。
「わ、私の……携帯ドラゴン……」
「その子は、今後、神話生物から、あなたを全力で守ってくれるわ。奉仕種族くらいなら、『強化アイテムを一つも食べていない初期ステータス』でも楽勝だから、安心していいわよ」
「GOOが相手やと、流石に心もとないけどなぁ」
「でも、幸運値か俊敏性を上げる強化プランを三つぐらい食べさせれば、逃げるくらいはできるようになります。……明日からは、南雲さんも、一緒にアイテムを探しましょう」
「あ、あいて……む?」
「実は、この時空ヶ丘学園には、あちこちにアイテムが隠されていて、私達は、いつも、それを探しているのです。南雲さんも、そのお手伝いをしてください。そうすれば、あなたの携帯ドラゴンにもアイテムをわけてあげますから」
「ぇと……あの……は、はい。ぁ、あの、まだ、色々、全然わかんないんですけど……あの……ありがとう……ございます。助けてくれて……ほんとうに……」
「敬語は必要ないわ。クラスメイトなんだし」
「そうですよ。クラスメイトに敬語を使うだなんて、妙に堅苦しいですし、なんだか距離を感じてしまいますから、やめてください」
と、慇懃に言った黒木に、トコは、アホを見咎めるような半眼で、
「……なんや、ツッコんだらええんか?」
「私のこれは、ただのキャラ作りですから、別にいいんですよ。ちなみに、メガネだってキャラ作り用なので伊達です」
「流石、ミレーに友人として選ばれただけあって、頭がイっとんなぁ」
「ブーメランささってますよ。手当てしましょうか? 痛々しすぎて見ていられません」
「あ、あのっ……」
そこで、南雲は、頭を深く下げて、
「本当に……ありがとうござ……ありがとう……みんな……」
「気にしなくていいわ。実際のところ、厄介な儀式を行おうとしていた奉仕種族を叩き潰しに来たついでで助けただけだから」
「そうですよ。神話生物に襲われている民間人を助けるのも、私達『神話生物対策委員会』の仕事の一つですから、感謝なんて必要ありません」
「神話生物……対策委員会……? な、なに、それ?」
黒木学美が、嬉々として、艶やかに輝く黒耀のポニーテールを左右に揺らしながら、うるさく両手を動かして、
「遥か太古から伝わるヨグ=ソトース神話。宇宙を創造した神々と、その眷属の伝説。……単なる創作物だと思われていましたが、二十五年ほど前、この時空ヶ丘学園に異空間へと続く穴が開き、その穴から、次々と神話生物たちが現れました。神は偶像ではなかったのです。神話生物の脅威は人類を容易に殲滅できるほど強大でした――が、イス人が遺してくれていた『携帯ドラゴン』が、事前に目覚め、警告・契約してくれていた為、我々人類は神話生物たちを撃退する事に成功しました。その後も、定期的に奉仕種族が沸いてきて、やつらの手により、時折GOOなども召喚されてきましたが、携帯ドラゴンの力によって、どうにか撃退してきました。そんな『携帯ドラゴンの召喚適正がある者』を中心として構成されている組織が、我々『神話生物対策委員会』です。本来は、世界を裏で操っている『三百人委員会』の支配下にある最前線維持組織という立ち位置だったのですが、数ヶ月前に起こった『GOO五体同時召喚』による大戦で大打撃を受けてしまい、我々以外、全員殺されてしまった結果――」
「あにゅぅ……また、まなてぃんが、頭いいアピール増し増しの鬱陶しい長々お喋りをしているにゃぁ……もっと、のんびりと仕事をするべきだったかにゃぁ」
突如、廊下の奥から人影が現れて、南雲はビクっとする。
「意味あり気なだけの哲学用語や意識高い系の横文字は、使えば使うほど、知能指数の低さが露見してしまうだけだっていうアリア・ギアス(宇宙の真理)を、まなてぃんは、今すぐ理解して、即座に解離因果論上の絶想解脱を果たした方がいいにゃぁ」
ゆっくりと近づいてきたのは、ウサミミつきのコスプレパーカーに身を包んだ美少女。
シマシマのニーソに、フリフリのミニスカと、
ファッションは全体的にファンシーなのだが、その右手は、グールの生首を掴んでいた。
のんびりと歩いてくる、そのアンバランスが爆発している美少女に、
トコが、
「おどれも、意味あり気なだけの知能指数が低い言葉を無意味にバンバン使っとるやないけ」
「罪華さんだけは平然と許される。トコてぃんは、そこにシビれる憧れる」
「人様の感情を勝手に決めんなぁ、ぼけ、かすぅ」
巻き舌でそう切り捨ててから、
「ところで、ツミカ。あんたが仕事でミスるとは思ってへんから、儀式をしとった奉仕種族の殲滅に関する結果報告は必要ないんやけど……なんで、グールの頭を持ってきたんかだけは教えてくれるか?」
「ほえ? ……ぁ、引きちぎった時のままだったにゃぁ」
どうやら、今、自分がグールの頭を掴んでいる事に気付いたらしく、
罪華は、ポイっとグールの頭をその辺に捨てた。
「相変わらずのキ○ガイぶりやなぁ。震えが止まらへんわ」
「罪華。一応、聞いておくわ。何の問題もなかった?」
「問題がないと言えばウソになるにゃぁ」
「……『働いたから腹へった。それが問題や』とかクソベタなこと言わんやろうなぁ」
「とこてぃん、罪華さんのセリフを先に言わないでほしいにゃぁ」
「何の問題もないようね。よし、今夜の仕事は完了よ。グールの臭い血で汚れちゃったことだし、シャワーでも浴びて帰りましょう」




